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あ、一緒にシャワー浴びます?

「おぉー! これが2014年の一般的な男性の部屋ですかー」


「おい、こらっ! 濡れたまま中に入るな!」

 

  僕はどうしてこうも馬鹿なんだろう。

 

 誰がどう考えても普通じゃなく、得体の知れない謎の女を自分の部屋に入れるという行為。

 実に阿呆だ。

 冷静になればなるほど、考えれば考えるほど夢野は怪しい。

 なぜ僕の名前を、僕の家を知っている?

 何が目的?

 第一、夢野彼方って名前は本名なのだろうか?

 

 ため息をつく。

 こんな怪しい得体のしれない女を僕は部屋に入れた。

 夢野が男だったら、部屋に入れたか?

 よぼよぼの老婆だったら?

 女としての魅力がなくなった太ったおばさんだったら?


 僕はこうも簡単に部屋に入れただろうか?

 

 そう、つまりはそういうことなんだろう。

 夢野が可愛い高校生くらいの美少女だったから、僕は部屋に入れてしまったのだ。

 

 何というエロ野郎。

 煩悩の塊。


 でも、そんなもんなんじゃない?

 これが男だよ、普通の考え方だよってのは言い訳だろうか。


「あ、一緒にシャワー浴びます?」


「浴びるか」

 

 夢野は警戒する様子なく、僕に無邪気な笑顔を向ける。

 そんなに僕が紳士で、真面目そうな男に見えるのだろうか?

 もしかしたら襲われる……そういう風には考えないのか。


「じゃあ、お風呂借りますね」

 

 そう、言って彼女は謎の宇宙人スーツを脱ぎ始める。


「おいっ! 脱ぐならそう言え!」

 

 僕は慌てて、部屋の奥に駆けていくという少年誌のラブコメのワンシーンを再現するような、無様で予定調和の反応を見せる。

 頭の奥では「あの服って背中にジッパーがついていたのかー」

 という冷静な声が響く。


 それと、やっぱりあのスーツの下はノーブラだったと観察できた。

 

 風呂の中では夢野のお気楽な鼻歌が聞こえてくる。

 浴室内はモザイクがかかっているかのように、ぼやけているので

 外からはシルエットしか見ることはできない。

 でも、そのシルエットだけってのが逆にエロいよなーと、

 桃色の思考を巡らす。

  

 風呂場から夢野が出てくる。

 僕は見ないふりをして、ちらりと盗み見る。

 まぁ、当然ですよね。

 そして、さりげなく洋服タンスから自分のシャツを取り出し、投げて渡す。

 我ながら紳士的な振る舞いである。

 夢野には少々大きいだろうが、着られないことはないだろう。


「なるほど、こうやって自分の服を着させて、私の匂いをつけさせ、

 そして後でゆっくりとクンカクンカして……ハァハァする……そういう寸法ですね。

 わかりますよ」


「着たくないなら着なくてもいいぞ」


「冗談です」


「昔はおじいちゃんにお風呂に入れてもらったんですけどね」


「昔っていつだ! てか、捏造するな」


「おじいちゃんにとっては未来の話ですよー」

 

 6畳の一室に小さなちゃぶ台を挟んで、僕と夢野は向かい合っている。


「むーん、エロ本はどこにあるんですか?」


「例えあったとしても君には教えないから安心してくれ」

 

 つまらないですねーと口を尖らせる女を無視して、

 僕は先ほどから考えていることを告げる。


「あのさ、本当に君はなにがしたいんだ? そろそろ教えてくれてもいいと思うんだが。

 未来から来たとかそういう嘘はいいから」


「私は嘘ついたことはこれまで一度もありませんよ」


「嘘つけ」


「あ、今のが最初の嘘でした」

 

 …………。


「じゃあ質問を変えよう。

 いつ君は帰ってくれるんだ?」


「……そうですねー」

 

 腕を組み、考える素振りを見せる。

 どうせ何も考えていないのだろうけど。


「私の宿題が終わったらにします」


「……なんだよ、それ? いつ終わるんだ?」


「いつになるんですかねぇ。私が知りたいです」


「おい」


「冗談です。

 一晩泊めていただいたら帰りますよ」


「…………」


「だから、おじいちゃんは床で寝てください」


「何でそうなるんだよ!」


「当然じゃあないですか。

 というか、まさか一緒に眠れるとでも思ったんですか?

 いやぁ、変態さんは困りますねー」


 言葉が出ない。

 どうしてやろうかと頭を捻るが、妙案は思い浮かばない。


 僕は舌打ちをすると毛布を取り出し、それを纏う。

 こういう日は寝るに限る。

 

「おやすみなさい、おじいちゃん」


 夢野の声が聞こえるが、答えなかった。


 これは夢なのかな。

 どうも現実的ではない。

 どこから僕は夢を見ているんだろう。

 

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