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こんな雨の中、か弱い女の子を外に放り出すのですか?

「……暑いですねー」

 

 夢野は手を扇に見立てパタパタと仰ぐ。

 顔にはうっすらと汗が浮かびあがっているのが見える。

 

 本屋から出た僕たちを迎えてくれたのはジメっとした不愉快な空気。

 夜になったというのに気温は昼間と変わらない。


 7月末……熱帯夜は続く。

 僕は日本の夏は嫌いだ。

 ……日本を出たことはないけどね。


「実はこの服、通気性結構悪くて暑いんですよね」

 

 そんなもの見ればわかる。

 宇宙服というか、よく分からない服だ。

 某アニメのプラグスーツをイメージしてもらえるとわかりやすいのかもしれない。

 僕は例え5万出されてもそんなものは着たくない。

 10万だと考える。


「あぁあん……ふふふ、いやらしい目ですねぇ。

 そんな目で見られたら私興奮してしまいますよ?」

 

 頬を赤らめ、気色悪い声を出す。

 どうやら暑さで頭がいかれてしまったようだ。

 いや、失礼。前からか。


「さて、そろそろいいだろう? 本屋めぐりは付きやってやったぞ。

 僕はもう帰るぞ」


「そうですね、私も帰ります」


「あ、そう」

 

 予想外だった。もっと抵抗をするかと思ったが。


「おじいちゃんの家に」


「なんでだよ! 自分の家に帰れよ!」


「だから言ったじゃないですかー。

 私自分の家がないんですよ。未来から来たので」

 

 首を傾け、いたずらっぽく微笑む。

 僕はそんな小悪魔的な所業に騙されることはない。


「……絶対に入れないからな」


「えぇー、入れてくださいよ」


「駄目だ。付いてくるな」

 

 夢野に背を向ける。

 もう会うこともあるまい。

 自分のすがすがしいまでの潔さに我ながら感動すら覚える。


「……無駄ですよ。

 私おじいちゃんの家知っていますし」


「は?」

 

 足が止まる。

 聞き間違いかな? 

 そうに違いない。


「そりゃあ、未来から来ていますからねぇ。

 何でも知ってますよ。隣人のフリーターさんからお節介焼きの大家さん、下の階の可愛い1年生」

 

 振り返る。

 恥を恐れずに言おう。

 この時、僕はおそらく年下であろう少女に恐怖した。

 さっきまで熱かった身体が冷えていくのがわかる。

 

 恐怖の理由。

 それは夢野の笑顔。

 彼女は笑っていた。

 だが、目は全く笑っていなかった。

 

 暗く、重く……どこか虚空を眺めていた。

 

 この汗の原因は暑さだけではない。


「……いい加減にしろよ。

 僕が怒らないとでも思っているのか?

 警察に突き出すぞ」

 

 睨みつける。

 が、夢野は目をそらさない。


 先にそらしたのは、僕だった。


「……ん」

 

 頬に冷たい何かが触れた。

 雨だ。


「これは……恵みの雨ですねぇ。ナイスタイミングですよ」


 クスリと小さく笑う。


 雨脚は次第に強くなっている。


「どうします? こんな雨の中、か弱い女の子を外に放り出すのですか?」


「……」


「私は別にいいですよー。

 雨の中でもいつまでも外でおじいちゃんを待っていてあげますから。

 でも、おじいちゃんはそんなことしないですよね。

 まぁ、そういう鬼畜趣味を持たれているというなら話は別ですが」

 

 僕の頭の中では様々な考えが渦を巻いている。


 どうする?

 どうする?

 どうする?


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