少女漫画は読みますか?
「螢おじいちゃんは、少女漫画は読みますか?」
少女漫画コーナーにやって来たところで夢野が言った。
「ほ、螢おじいちゃん……?」
僕としては質問の内容よりも、呼び方が気になってしまった。
何度も言うが僕は19歳だ。
元気いっぱいフレッシュな若者である。断じておじいちゃんではない。
「おじいちゃんはやめてくれないか……?」
第一、人の目が気になる。
『どうしてあの人同じくらいの年頃の子におじいちゃんって言われているんだろう』
という女子高生のひそひそ声が現実問題、耳に先ほど届いてしまっている。
弁明というか一言だけ言わせてほしい。
その疑問は僕が一番知りたい。
「え、お兄ちゃんって呼んでほしいんですか?」
夢野が固まる。そして、曖昧な笑顔を浮かべた。
「いやぁ、勘弁してほしいですね。そういう趣味でしたか」
どうしてこいつはこんなにも人を苛つかせるのが上手いのだろう。
感心するレベルだ。
「でも、私のことは特別に彼方ちゃんと読んでくれてもいいですよ」
試し読みの漫画を読みながらのお澄まし顔。
うん、一種の才能だね。
「で……? 少女漫画がどうしたって?」
面倒になったので話を戻す。
「いや、少女漫画は読みますかーって聞いたのですよー」
「少女漫画か……。ほとんど読まないな。読むとしたらやはり少年漫画だな」
そもそも、これは偏見かもしれないが男が少女漫画を読むなんて恥ずかしいという気持ちもある。
「やはりそうですかー、だと思いましたけど。
私は螢おじいちゃんとは違って少女漫画は勿論読みますし、少年漫画も少しは読みます。
そして、至った答えが――」
夢野は憎たらしくにやりとほくそ笑む。
「少女漫画は少年漫画よりも高尚……だということですよ」
また、訳のわからんことを言い始めたな。
「いいですか? まず少年漫画の2つの最大の特徴を考えてみましょう」
得意げに指を立て、演説を始める。
「まず一つ目、バトルですね。何故か戦います。
色々理由はあるでしょうが、私には理解不能です。
また、主に肉弾戦ばかりなのも失笑を生みますね。
銃の方が強いに決まっているじゃないですか。
頭悪いんですかね?
2つ目の特徴はくだらないラブコメ要素。
どうしても言わせて頂きたいのが、本当に男の煩悩に溢れた少女像を量産するのは勘弁してほしいとい うところですね。
まず、ほんわか系の幼馴染キャラ。
あんな頭がお花畑のような女は存在しません。
次に胸がバレーボールみたいなお姉さんキャラ。
現実にあんなものがついていたら重くて動けませんよ。
私だったら切り落とします。
あ、これは別に私が巨乳に対してコンプレックスを抱いているからということではありません。
私はしっかりと手のひらサイズの美乳という殿方のニーズにちゃんと答えているのですから!
えっと、話が逸れてしまいましたね。
最後にツンデレ女です。ツンデレはただの情緒不安定の病人です。現実にいたら即病院行きですよ。
さて、耄碌している螢おじいちゃんは私のことを言っている言葉の意味、理解できていますか?
要するに私が言いたいのは少年漫画は現実味がなく、子供っぽいってことです」
「……」
「それに対して少女漫画を考えてみましょう。
まさにリアリティに満ち満ちていると断言できるでしょう。
ストーリーも非常に感情移入のしやすい恋愛ものがメインですし、キメ細かな心理描写が感動を誘います。少女たちは少女漫画を読むことで、大人の女性へと成長できるのです」
「……」
「さて、そろそろ少女漫画の優位性については理解できたでしょうか。
そしてその優位性がそのまま女の男に対する優位性の話へとシフトできるのです。
少年漫画をいつまでも読み続ける男共ははっきり言って精神的に非常に未熟であると言わざるを得ない でしょう。
ガキですよ、ガキ!
いつまでドッカン、バッキンの中身のないバトル漫画を読み続けるつもりなのでしょうか。
同じ人間として恥ずかしいですよね」
正直、夢野の話は穴だらけであるしツッコミどころ満載ではあったが僕はあえて口を挟まなかった。
だって、そりゃあねぇ。
分かるでしょう? 面倒だよ。
子供の妄言にまともに付き合うほど未熟ではないのだ。
僕は大人だからね。