何故人は物語を求めるのでしょうか?
さて、どうしたものか。
この宇宙人女こと、夢野彼方。
そう簡単に諦めて帰るようにも思えない。
テキトーに付きあってやって帰らせるのが得策なのではないだろうか?
はぁ……。
僕は大きくため息をつく。
よし、決めた。
「わかったよ。30分だ。30分だけ君に付き合ってやる」
「うわ、なんか急に上目線ですね。実はノリノリなんじゃないんですか?
あーあ、やだやだ。可愛い女子高生に話しかけられて舞いあがってますね。
見苦しいですねー」
「殴るよ?」
というかゲンコツをかましてしまっていた。
いや、今のはこいつが悪い。
「痛っあぁああ! 何をするんですか? 訴えますよ!
いや、嘘です。すみません、帰らないで下さい」
気を取り直し、再び向かい合う。
「それでは、本屋に一緒に行きませんか?」
「本屋? 何で」
「私小説家志望ですから」
その設定も続けるのか……。
5分歩いて、駅前の大型書店に辿り着いた。
いつの間にか完全に日は沈み、空は漆黒の影に包まれる。
「大きな本屋ですねぇ」
表情は変わらないが、夢野は多少驚いているよう――ように見える。
色鮮やかな本の山々。今の本屋はちょっとしたテーマパークのような楽しさがある。
店内は老若男女で溢れかえっていた。
「出版不況で本は売れない時代と言われてもこんなに大きな本屋を見ると説得力ないですよね」
「潰れているのは個人経営の零細書店だろう。だけど今の家に居ながら何でも買うことができる時代にわざわざ書店で本を買う必要性が少なくなっているというのは事実な気はするけど」
「そんなウィキペディアに載っているようなことをしたり顔で言われましても……」
いちいち癇に障る女である。
僕たちはぶらりと店内を見て歩く。
「しかし、やはり本屋は漫画本と小説が大半の面積を占めていますよね」
「それだけ需要があるということだろうな」
「人は物語を求めているということでしょうか?」
「物語? うーん、そういうことになるのかな。
まぁ、疑似体験をしたいんだろうね。普通に暮らしていても怪物と戦うことはないし、ヒーローにはなれない」
「なるほど。
女の子と会話をしたこともない可哀そうで哀れな少年たちはハーレム漫画を読み、その物語を追体験することで己のそうした哀れな願望を満たすということですね、哀れな」
三回も哀れと言うな。
「現実はつまらないですからね。夢や物語の世界に走ってしまう若者が増えてしまうというのもわかりますよ。世知辛く、生きづらい世の中になったものです」
目を細め、感傷的な表情を作っているが一言言いたい。
黙れ、高校生。
個人的には漫画や小説はそんな難しく考えるものではないと思っている。
冷めた言い方をすれば所詮は1つの娯楽だろうと。
退屈した時の時間つぶしだとも言える。
と散々酷評するが、僕は小説は好きだ。
よく読む。
「ん、何を見てるんだ?」
夢野は立ち読みをする中学生男子を凝視している。
「いや、あの年頃の子供が一番現実と漫画やアニメの区別がつかなくて見てて痛々しいよねって思いまして。
漫画のセリフを言われた時とか、アニメのキャラクターの恰好を真似した厨二病患者を見ると寒気がしますよね」
「……」
ツッコミを入れるのも面倒だ。
さっきから首から下までぴちぴちの銀色スーツを着た変な女と歩いている僕の身にもなれという話だ。
僕まで奇怪な生物を見るような視線を浴びさせられている。
勘弁してほしい。
これでは新手の羞恥プレイである。