なんという青春
あの信じがたい事件から3カ月が過ぎた。
千穂に外傷は全くなくなっていたが、念のため検査入院という形で3日間病院に入院することとなった。
3日後、体に全く問題ないということで、無事に退院することはできた。
そして千穂を刺した浦山真一は僕の証言や多くの目撃情報があった為、逮捕されることになった。
ただ、千穂には外傷はなく、結局のところ事件性はないという結論になり数週間で釈放された。
その釈放の理由の一つに謎の女の存在が挙げられた。
そう、もちろん夢野彼方だ。
僕は自分でも何を言っているのか分からないまま、警察にありのまま自分で見た光景を説明した。
最初は真剣な顔で話を聞いていた警察官もだんだんに僕を胡散臭いものを見るようになりまともに取り合ってくれなかった。
ただ、斎藤を初め多くの目撃者がいたのも事実であった為、警察は頭を抱えたらしい。
結局、集団幻覚という判断がされたとかで曖昧なまま事件の捜査は打ち切られた。
そして、更に不思議な現象も起こり始めていた。
周りの人が段々に夢野彼方やこの事件のことを忘れ始めているのだ。
あの血だまりの光景を目撃した傍観者も斎藤も。
夢野のことやあの事件をしっかりと覚えているのは今では僕と千穂だけだ。
「すっごい意識が朦朧としていたから、あまり覚えていないけど。
あの女の子は絶対にいたよね、あの場に。
私、どっかで会ってた気がするし。絶対に忘れちゃいけないって、そんな気もする」
千穂と僕は大学キャンパスの、通常デスゾーンで昼食を食べていた。
何を隠そう(隠すつもりもないが)、僕たちは恋人同士となった。
「そうだな」
「螢はあの子のこと知っているの?」
「いや、よくわからないよ」
僕は半分本当で、半分嘘を言った。
僕はあの女、夢野彼方のことを知っているようで何も知らない。
ただ、あいつはもう一人の自分だったんだという不思議な確信に近い気持ちはある。
あいつに会ってから何か大きく変わったことは別にない。
ただ、少しだけ前向きに物事を考えられるようになった――気がする。
必死に前向いて生きないと、また夢野が現れてよくわからないうるさい質問攻めに会う気がしてならない。
それは嫌だし、今の僕には素敵な恋人がいるのである。
あんな宇宙人女願い下げだ。
夢野に最後にされた質問。
あの質問に答えられるようになるにはまだまだ僕は経験値不足だ。
これから何十年生きて、ゆっくり答えを見つければいい。
「今は最高に幸せだけどなぁー!」
千穂の手を握りしめる。
「ばーか、鼻の下伸ばすなって。みっともない」
そう言いつつ、握った手を握り返してくれる。
なんという青春。
今僕は、生きている。




