生粋の臆病者
「この先どうなるかなんて誰にも分らない。未来は誰にも分からないんです。
だけど、大切なのは成長できるって信じること、自分を信じ続けることじゃないんでしょうか。 他の誰に何を言われようが関係ない。君は変われるんです。 いや、君は変わるんです!」
「何を言ってるんだ? 全然分からないぞ……」
さっきからチンプンカンプン、意味不明・支離滅裂の言動を繰り返す夢野に戸惑いつつも、僕は夢野に近づく。
側に行くと改めて、その端正な顔つきやミステリアスな雰囲気に引き込まれてしまう。
まるで自分の理想の女性像がそこにあるような、不思議な感覚。
夢野はそんな僕の様子を見て、微笑むと僕の胸にもたれかかるように頭を預け、その細い腕を腰に回す。
わずかな体温を感じる。
「はっきり言って君は駄目なやつですよ。君の為に自分が消えるなんて馬鹿みたいだって思う気持ちはまだありますよ。
でも私が君を信じられないで誰が信じるっていうんですか? 約束してくださいよ……。松村千穂さんを幸せにするって。君自身も幸せになるって」
僕にだけ聞こえるようなささやき声。
夢野のかすかな体温を感じながら、何故だか僕は理解し始めていた。
そうか、こいつは『僕』なのだと。
僕を罵倒し、決して認めないという一面と、
誰よりも僕を信じてくれる面を合わせもつもう一人の自分なのだ。
だから、言わなければならない。
夢野に対してではない。
自分に対しての言葉だ。
「安心してくれ。
……なんて軽く言えないわ、やっぱり。
ごめん」
やはり、僕は生粋の臆病者だった。
我ながら情けないにも程がある。
「いえ、ここでドヤ顔で安心してくれなんて言われたらそれこそ気持ち悪いです。君のキャラじゃないです」
こんな状況なのに変わらずの毒舌には何故か安心させられる。
「でもどうしてか安心できましたよ。まぁ、信じています。君はやれますよ。
だって君は――私ですから」
夢野は僕から一歩離れ、微笑む。
可愛いというか、綺麗な笑顔。
「え?」
突如、夢野が何かに驚いたかのように目を見開く。
僕の背後を見ているのだろうか?
僕には見えない何かを夢野は見ているようだ。
やがて、嬉しそうに涙を流しながら笑った。
その笑顔は僕が見た中で最高のものだった。
「最後の質問をさせてください」
穏やかな表情で最後にした彼女の質問に僕は答えられなかった。
「よく考えて、答えを出してくださいね」
そして夢野彼方は静かに瞼を閉じると、僕の前から消えてしまった。




