私は君を認めない
その現象は突然に起こった。
僕は陳腐な言い方だが、自分の目を疑った。
だが、それは現実以外のなにものでもなかった。
夢野の体が薄くなっている。
例えではない。
薄くなり、消えていく。
「ゆ、夢野?」
「松村千穂が死ぬ未来は今書き換えられた。
秋山螢は狂うことなく、タイムマシーンを作ろうなどとは考えず、私は生まれない」
誰に説明するわけでもなく、淡々と語りだす。
「私は生まれない。私はここにはいない。この時代にいない。
私は必要ではない。だから――消えるんです」
「消える?」
「君は知らなくていいことです。
ただ、一つ言いたいことがあります」
夢野の瞳から一筋の涙がこぼれる。
僕にその涙のわけは分からない。
だが、聞き逃してはいけない。
しっかりと受けとめなくてはいけない。
そんな気がする。
「私は君を認めない!
君が憎い! 消えたく……ないっ!」
「……」
「何を言っているか分からないでしょうねぇー!
でも、言わせてください! 松村千穂を救ったのは君ではない!
お父さんです! 私です!」
今までの見たことのない、夢野の姿。
泣きじゃくり、絶叫し、顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
だけど、これが本当の夢野彼方の姿なのかもしれない。
僕はただ聞く。それしかできない。
透明に近づき始めた夢野。
もはや身体の向こう側が見える程だ。
消え始めているのだ。
理屈はわからない。
だが、現実だ。
「よくわからない。
でも、なんか……悪い」
確かによくわからない。
無意識でそう言っていた。
「ふふ、何謝っているんですか。でも、そうですよ。
私は可哀想なんですよ」
自嘲を込めた軽い笑い声をあげる。
「私は結局君の為に生まれて、君の為に死ぬんです。
笑えない人生ですよ。
もう一度言いますけどね、君が本当に死ぬほど憎いんです!」
「言いがかりじゃないのかと言いたい気分でもあるんだけれど」
「そうですよ! 言いがかりですよ!
結局は私も秋山螢ですしね。自分が一番分かっていますって。
だから、憎いんです!
だけど……」
「……?」
「だけど、君を信じているんです。信じなきゃいけないんです」




