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ふざけるな

「もう一つやり残していることがありましたね。お父さんの代わりにそれをしないと」

 

 夢野は腕時計をいじると腕をまっすぐに伸ばした。

 突き刺した指の先にはもう遠くに離れ小さく見える千穂を刺した犯人が見える。


 信じがたい現象が起きた。

 夢野が腕を伸ばしたその一直線上の空間だけ靄がかかったかのように歪み始める。

 そして、ゆっくり僕たちから離れていった犯人がDVDの逆再生をしているかのような不思議な動きで後ろ向きで僕たちのほうに戻ってくる。


「なんだよ、これ?」


「部分的な時間操作の応用です。先ほど、千穂さんのお腹の傷を塞いだのと同じ原理です」


 その原理が意味わからん。


「さて、こうして対面するのは初めてですね。浦山真一さん」


「知り合いなのか?」


「全然知りませんよ。私も君も。

 そして刺された千穂さんも。この事件の後にあなたは警察に言ったそうですね。『誰でもよかった』『むしゃくしゃしてやった』って」


 僕にはこんな恐ろしい形相で怒りを表す夢野を見たこともなかったし、こいつが何を言っているのか分からない。

 ただ、なんとなく夢野の怒りは僕も自分のことのように感じられた。


「一言言わせてください」


「ふざけるな」


 男の顔面に夢野の拳がめり込み、吹き飛ばした。

 例えではない。

 本当に飛んだ。


 鼻がおかしな方向に歪み、流血はしているが死んではいないだろう。


「すっきりしました」


 一瞬ほっとしたように笑みを浮かべたが、

すぐに目を伏せると悲しそうに、苦しそうに唇を噛んだ。


「時間ですね」


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