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自分とはぐれちゃったの?

 幼い少女。

 略して幼女が川の土手のほうからこちらに向かって駆けてくる。


 短いボーイッシュな髪形だが、女の子らしいキャラクターTシャツとスカート姿。


 松村千穂。

 間違いない。


 実はというと私は一度も彼女の写真は見たことがなかった。

 いや写真は存在していたのだろうが、お父さんはそれを見せようとはしなかったのだろう。


 だから松村千穂の顔は知らなかった。

 だが、一目見た瞬間にこの少女こそがお父さんがその命をかけて、

蘇らせようとした女なのだと直感で理解してしまった。


 理由は分からないが、人に魂というものがあるとすれば、

秋山螢の魂が「間違いない」と告げているのかもしれない。


「お姉さん……? どうしたんです」

 

 少年秋山が怪訝そうに私を覗き見る。

 私がボーっとこちらに向かって歩いてくる松村千穂を見つめていたからだろう。

 その顔には警戒心が浮かんでいる。


「いえ、ただ可愛い子だなって。そう思っただけです」


「あぁ、あいつは僕の幼馴染なんですよ」


 なぜか得意げそうなガキに殺意が生じた。


「ほたる! こんなところで何してるの? 早く帰るよ」


 すぐ側までやってきた松村千穂を私は凝視してしまう。

 胸がときめく。

 そうか、これが恋か!


「うん。ちょっとこのお姉さんと話をしてたんだ」


「この人はほたるの知っている人?」


「いーや。全然知らない人」


「知らない人と一緒にいたらだめじゃん!」

 

 そう言うと少年秋山の手をひき、自分の背後に隠すように引っ張った。


 なんというか男らしい。

 一瞬、私をにらみつけるように鋭い視線をむけていたが、すぐに柔らかい表情に戻る。


「うーん。お姉さんはいい人そうだから大丈夫かな」


「いい人そう?

私がですか?」


 意外な言葉である。

 今の私は銀色宇宙人。

 変態以外の何者でもないというのに。


「うん。大丈夫だよ。わたしのこういう直感は結構当たるんだ」


 満面の笑みを向けてくれる。

 持って帰りたい。

 今すぐに。


「それでお姉さんはこんなところで何しているの?」


「うーん。何でしょうかね。旅ですかね。所謂自分探しの旅です」


「自分探しの旅? 自分とはぐれちゃったの?」


「はぐれた……。

いいえ、はぐれたというよりはそもそも知らないのかもしれません」


「よくわからないよ」


「そうですね。私にもわからないです」


 幼女千穂が笑い、私も微笑んだ。


「見つかるといいね。たぶんその自分もお姉さんを探しているのかもしれないよ」


 …………。


「じゃぁ、私たちそろそろ行くね」


「そうですね。気を付けて」


 仲良く手を繋いで土手を登っていく2人をただ見つめる。

 2人の後ろ姿がだいぶ私との距離が離れた時、


「あ、そうそう。お姉さん!」

 

 こちらを振り返り松村千穂が大きく手を振っている。


「その服特徴的だけど、似合っていて可愛いと思う!」


 嬉しい。

 感想はこの4文字しかないが、心はとても温かくなった。


「私も行かなくちゃ、ですね」


 彼は私を待ってるはずなのだから。


 夢の彼方から私を呼ぶ声が聞こえた。


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