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私は綺麗なんですか?

妙に寒いとは感じていた。

 時刻が夕方過ぎだからだろうと思っていたのだけれども。

 そうか。裸だったからか、と納得する。


 少年は両手で目を覆い、半身になって構えている。

 これから太陽拳でも放つかのようなポーズだ。


 確かに小学生男子には私のヌード姿は刺激的なものなのかもしれない。

 

 我ながら惚れ惚れするような完璧な肉体だと思っている。

 透明感があり、張りと柔らかさを伴った肌。

 無駄な肉が一切ない、彫刻のように官能的な肢体。


「どうです? 綺麗だと思いますか?」

 

 小学生だろうが、なんだろうか知ったことではない。

 恥を承知で言おう。

 私は誰かにこの美しさを認めてもらいたかった。


 両手を腰を添えて、胸を突き出し、顎を上げ、

 おそらく官能的であろう表情を作り、

 少年にじりじりと近づいていく。

 

 単なる変態的所業であることは認めねばならないが、

 私にとってこれは重要である。


 確かに私にはある程度の知識はある。

 

 生まれてから16年間、私はそのほとんどを巨大なカプセルの中で過ごした。

 ずっと父である秋山螢が私に話しかけてくれていたし(私は喋れなかったので、それは一方的なコミュニケーションではあるが)テレビも付けてくれていたので、情報としての知識を持つことはできた。


 だから、テレビの向こうの女優やアイドルと比べても遜色がないとも思う。

 むしろ、私の主観で見れば私のほうが可愛いはずだ。

 事実父も可愛いと言ってくれていた。


 だが、あの野郎の言葉だけでは到底満足できるはずもない。

 今、私に圧倒的に足りていないのは経験だ。 


「ほらほら、逃げてないで早く教えてくださいよー。

私は綺麗なんですかー?」


「うわあああああ。僕は見てない見てない見てない見てない!」


 うわ言のように「見てない」を少年は繰り返し、後ずさりを続ける。

 これでは切りがない。

 

 私は突如立ちどまる。


 少年もそれに釣られ、立ちどまった。


「あれ? 見えていないのにどうせ止まったのですか?

そもそも何も見えていないなら私が君に近づくこともわからないはずですよね?


「そ、それは……!」


 少年が狼狽えた声をあげる。


「その理由を教えてあげましょう。

答えは単純・明快。君は見えていないと言いながらも、実は見えていたからなのです」


「うっ!」


「いえ! 正確に言いましょう。 君は見えてしまったのではなくて、見ようとしていた! 目を手で覆いつつも、指の間から君は私をいやらしい目で見ていたのです!」


「ち、違う……」


「いいえ、違いません! 君がいやらしい気持ちを持っていなかったのであれば、初めから目を覆って「見ていません」という姑息なアピールをする必要などなかったのです! 

君は自分のいやらしく、煩悩で一杯の!

そのピンクの瞳で!

私を見ていることを知られたくなかった!

だから! 手で目を覆って、その隙間から私を見ていたのです!!」


「うわぁああああああああああああ!!」


 完全勝利の瞬間であった。

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