あ、その設定続けるんだね…
「あ、やっぱりやめましょう。嘘です」
は?
「実は私はあなたの孫じゃありません。実は小説家志望の単なる美少女高校生です」
真顔で自分のことを美少女と呼ぶ人間を僕は初めて見た。
とにかく無視だ。振り向かず、とにかく前見て歩こう。
「小説家になる為にどこか遠い場所からここにやって来たのです。しかし、私にはお金が少しもない。
とても困っているところにとても能天気で間抜け面の男が……いえ、失礼、親切そうな男性が現れたのです」
「……」
「私は悟りました。これは天の啓示なのです。この人のところに厄介になろうと。
どうです? これなら信じられませんか?」
話の論理性の欠片もない。こいつはいよいよ真面目におかしい。
真剣に考えよう。
こいつの狙いは何だ。
どうして僕にずっと付いてくるのだ?
何が狙いだ?
僕はむんむーんと深く考える。
そんな時だった。
乳首を掴まれた。
「うわぁああああああ!」
背中から腕を回され、服越しに……だが正確に乳首を掴まれる!
「おぉー、おじいちゃんと同じ反応です。やっぱりあなたは私のおじいちゃんですね?
おじいちゃんも乳首を掴まれるとそうやってとても喜んでいました」
「違うよ! これは喜んでいるんじゃない!! ただ驚いているだけだ!
それに誰だっていきなり乳首を掴まれたらこういう反応になるよ、何を考えているんだ君はっ!
それに僕はおじいちゃんじゃない。そもそも見れば分かるだろう!
どうやったら僕が君のおじいちゃんに見えるっていうんだ!
君とそんなに歳も変わらないだろうに!
大体そのおじいちゃん設定は辞めたんじゃないのかよ!」
宇宙人女を突き飛ばし、僕は一気にまくし立てた。
溜まりにたまった不満と疑問と突っ込みをぶちまける。
「おー、やっと私の顔をまともに見てくれましたね」
そう言って彼女は二コリと、
初めて笑った。
哀しいことに僕の怒りはあっという間に雲散霧消してしまった。
まぁ、なんというか……。
夕焼けに照らされた彼女の表情が華麗で、少し儚げで、
単純に……可愛かったのだ。
「あなたの名前は秋山螢」
「……う」
「その通り僕の名前は秋山螢。
今年から名門C大学に入学したピカピカの大学一年生だ。
趣味は特にない、特技もない。
学力も中の上。
特徴のないつまらない男である。
学問に没頭するわけでもなく、サークルに入り人とのコミュニケーションを楽しむわけでもない。
ただ人生を無為にしている堕落生である」
「勝手に僕のセリフとして喋るな。そこまで自分のことを卑下にするつもりはない」
宇宙人は微笑を浮かべながら、ぎこちない動きでお辞儀をした。
「私は夢野彼方と言います。50年後の前からやって来たあなたの孫です」
「あ、その設定続けるんだね…」
僕は頭を抱え、嘆息する。