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私は何だ?

 薄暗い研究所を見回す。

 様々な書類や大小のカプセル、実験に使われた生物の死骸。

 暗く、汚く、臭く、様々なもので溢れているが、

 ここの主はもういない。 


 ここは何だろう。

 何だったのだろう。


 お父さんが自らの人生のほとんどを費やしたこの場所。

 お父さんの願いは分かっている。


 60年前の過去に行き、松村千穂を救い出すこと。


 私はその為に作られた。


「でも、私は私であって秋山螢ではありません。

 いくら自分自身のこと、自分のコピーだとしても……

 関係ない。

私には……関係ない……はずでしょ?」


 私には秋山螢にも松村千穂にも会ったことがないのだ。

 会ったこともない2人の為に生きる必要などないと考えることはおかしいことだろうか。


 研究所の出口に足を運ぶ。

この扉を開ければ私は自由だ。

1人の人間として、生きることができる。


 私は、意を決してドアノブに手をかけた。


「……!」


 だが、どうしたことだろう。

 ドアノブを握った手はピクリとも動こうとしない。

 氷のように冷たく、凍ってしまったかのように動かない。


 その理由を私は知っている。


 ある一つの「?(クエスチョン)」が頭に浮かんでしまったからだ。


 私は秋山螢だが、秋山螢ではない。

 私はただ1人の人間だ。

 

 だけど、

 だけど、

 だけど、

 私って誰だ?

 私は何だ?


 私はこの質問に答えることができない。

 私は誰だ?

 私の名前は?


 ドアノブがゆっくり手を放す。


 駄目だ。

 私はまだ――私が誰だかわかっていない。


 秋山螢

 松村千穂


この2人に合えば、答えが出るだろうか。


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