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とある狂人の独白①

 あの日、彼女を失って私の全てが変わってしまった。

最初の感情は憎しみや怒りではなく、喪失感だった。

何もかもがどうでもよくなり、生きる目的を見失ってしまった。

いや、初めからそんなものなどなかったか。


 松村千穂。

私の幼馴染であり、失ってはいけない存在であった。

今思えば、その理由は「愛していたから」というような漠然としたものではなく、千穂が私にとっての唯一の希望だったからだろう。


 彼女は私にない全てを持っていた。

 精一杯生きようとしていた生命力。

 人を思いやる温かな心。

 誰にも負けない行動力。

 完全無欠の超人のような女だが、決して嫌味を感じさせない。

 

 そんな幼馴染が好きであり、誇りだった。


 私は大学をやめることにした。

 親は私になにも言わなかった。


 1年間くらいだろうか、私は本当になにもしなかった。

 出されたものを食うだけの生産性のない生き物と化していた。


 そして、更に1年が過ぎた頃だったと思う。

 私は千穂を蘇らせたいと思った。

 この時には既に気がふれてしまっていたのだろう。

 まともな精神状態ではなかった。


 私は研究に没頭した。

 あらゆる本を読み、あらゆる手段を用いて情報を集め、人を蘇らせる研究をした。

 医学だけではなく、怪しい黒魔術も学んだ。

 様々な禁忌も調べた。

 資金は斎藤が出してくれていた。

 あいつもどこか狂ってしまっていたのだろう。

 私のような男に大金を提供してくれていた。


 だが、試みは無駄に終わった。 

 愚かなことをしたものだ。

 

 人はいずれ死ぬ。

 そして、蘇ることはない。

 これは決して覆ることのない、この世の真理だった。


 そのことに気が付いたのは大学を辞めてから20年という長い年月が過ぎた頃であった。


 だが私は諦めなかった。

 千穂を蘇らせる。

 それがその時の私の生きがいとなっていた。


 生き返らせることができないなら、時を戻し、死なないように運命を変えてやればいい。

 当然のように私はそう考えた。

 つまり、時を遡る研究――タイムマシーンの研究を始めたのだ。


 この研究も当然というべきか、失敗に終わった。

 人は時を戻すことはできない。

 やはり、当然とも言える事実を認めざるを得なくなった時には更に30年という月日が流れていた。

 

 タイムマシーンによる、タイムトラベルは技術上不可能というものではなかった。

 問題となったのはタイムパラドックスと呼ばれる現象だ。

 私が過去に行き、松村千穂を助けたという歴史は存在しない。

仮に私が過去に行って松村千穂を助けられたとしたら歴史は変わる。

だが彼女が死ぬ事実がなければ私はタイムマシーンを作るという歴史が生まれるはずもなく、過去に私が行き、歴史を変えるということは矛盾が生まれてしまう。

 つまり、時を遡ることは理論上不可能なのだ。


 自分が生まれる前の時代に行き、親を殺してしまった場合、「自分」は存在しないことになり、今いる『自分』という存在に矛盾が生じるというSF作品によく登場する親殺しのパラドックスも同様である。


 この矛盾に私も悩まされることになったのだ。


 だが、ある時ふと思い立った。


 過去に2人の自分がいることに矛盾が生じるなら、

 2人の別の『自分』を存在させることは矛盾にはならないのではないだろうか。

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