表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

なぜこんなことになった?

「キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 なんだ、この声。


 嫌な予感がする……。 

まさかこの声は。

いや、間違いない……千穂?


「行くぞ、斎藤!」


「え、行くのか?」


 困惑している斎藤を置いて僕は駆け出した。


 声がした方角。

 おそらく2号館付近。

 キャンパス内の学生たちは立ちどまり、なにかがあったのかと困惑顔を浮かべている。


息を切らせ、2号館前にたどり着いたとき、入口には歪な輪を作る人だかりができていた。

 中心に誰も近づかない、いや近づけない。

 誰かが何かをするのを待っている、期待している、そんな連中。 


その人だかりの中心にいたのは2人の男女。

 女は仰向けで倒れ、男は膝をつき、女の上に跨っている。

 そして、女からは赤い血が広がっていた。

 

 大量に流れているわけではない、しかし白い服を真っ赤に濡らすその出血量は、なんというか現実的な異常さを感じさせた。


 男はメガネの痩せた男。

 その眼は全くというほど光がなく、虚ろだ。

 手には血のついたナイフを持っている。

 そして、僕も見ているその前で、

 大きくナイフを振り上げる。

 振り上げたものは振り下ろさなければならないというかのように、


 自然な動きで、


 振り下ろす。


 女の体がビクンと跳ねた。

 

 男はまたナイフを振り上げる。


 僕は吸い付かれるように、無意識に輪の中心に入り、男と女の前に立っていた。


「やめろよ」


 もっと他にかける言葉があっただろうに、絞り出た言葉はそれだけだった。

 だが、以外にも男は僕を見上げ、そしてナイフに目を向けると、

静かに立ち上がる。

そして、ずるりずるりと足を引きずりながら離れていった。


 そして、輪の中心に残るのは僕と女――松村千穂の2人になった。


「ほ、ほたる……。い、痛いよ、すごい。

痛い……痛い」


 涙を流し、苦悶の表情を浮かべ、僕に助けを求める千穂。

 

 僕は。

 僕は。

 僕は。


 ――何もできない。


 千穂が静かに瞼を閉じる。


 なんだ、それ?

 さっきの言葉がもしかして最後になるのか?

 どうしてこんなことになった?

 誰が望んだ?

 誰が決めた?


「お、おい秋野!」


 斎藤が遅れてやってくる。


「あぁあああああ!

 松村さん! お、俺警察と消防車呼んでくる!」


 遠巻きの傍観者たちはこんなにもいるのに何もしない。

 斎藤は意外と頼りになるんだなーと的外れのことを僕は考えていた。


 第一、僕も千穂の横に棒立ちするだけで何もしていない。


 映画のように手を握り、「死ぬなー」と叫ぶわけでもなく、

怒りのままに犯人を追うわけでもなく、ただ周りにいる事態を把握できず、

棒立ちする傍観者と一緒だ。

 

 再びの疑問が頭をよぎる。

 なぜこんなことになった?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ