なぜこんなことになった?
「キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
なんだ、この声。
嫌な予感がする……。
まさかこの声は。
いや、間違いない……千穂?
「行くぞ、斎藤!」
「え、行くのか?」
困惑している斎藤を置いて僕は駆け出した。
声がした方角。
おそらく2号館付近。
キャンパス内の学生たちは立ちどまり、なにかがあったのかと困惑顔を浮かべている。
息を切らせ、2号館前にたどり着いたとき、入口には歪な輪を作る人だかりができていた。
中心に誰も近づかない、いや近づけない。
誰かが何かをするのを待っている、期待している、そんな連中。
その人だかりの中心にいたのは2人の男女。
女は仰向けで倒れ、男は膝をつき、女の上に跨っている。
そして、女からは赤い血が広がっていた。
大量に流れているわけではない、しかし白い服を真っ赤に濡らすその出血量は、なんというか現実的な異常さを感じさせた。
男はメガネの痩せた男。
その眼は全くというほど光がなく、虚ろだ。
手には血のついたナイフを持っている。
そして、僕も見ているその前で、
大きくナイフを振り上げる。
振り上げたものは振り下ろさなければならないというかのように、
自然な動きで、
振り下ろす。
女の体がビクンと跳ねた。
男はまたナイフを振り上げる。
僕は吸い付かれるように、無意識に輪の中心に入り、男と女の前に立っていた。
「やめろよ」
もっと他にかける言葉があっただろうに、絞り出た言葉はそれだけだった。
だが、以外にも男は僕を見上げ、そしてナイフに目を向けると、
静かに立ち上がる。
そして、ずるりずるりと足を引きずりながら離れていった。
そして、輪の中心に残るのは僕と女――松村千穂の2人になった。
「ほ、ほたる……。い、痛いよ、すごい。
痛い……痛い」
涙を流し、苦悶の表情を浮かべ、僕に助けを求める千穂。
僕は。
僕は。
僕は。
――何もできない。
千穂が静かに瞼を閉じる。
なんだ、それ?
さっきの言葉がもしかして最後になるのか?
どうしてこんなことになった?
誰が望んだ?
誰が決めた?
「お、おい秋野!」
斎藤が遅れてやってくる。
「あぁあああああ!
松村さん! お、俺警察と消防車呼んでくる!」
遠巻きの傍観者たちはこんなにもいるのに何もしない。
斎藤は意外と頼りになるんだなーと的外れのことを僕は考えていた。
第一、僕も千穂の横に棒立ちするだけで何もしていない。
映画のように手を握り、「死ぬなー」と叫ぶわけでもなく、
怒りのままに犯人を追うわけでもなく、ただ周りにいる事態を把握できず、
棒立ちする傍観者と一緒だ。
再びの疑問が頭をよぎる。
なぜこんなことになった?




