これなーんだ?
「松村千穂さん。綺麗な方ですね。
おじいちゃんには勿体ないくらいです」
9割方声の主が誰かは予想が付いていたが、恐る恐る振り返る。
「僕はもう会うことはないものとばかり思っていたのだけれどね」
僕のTシャツとジーパンを履いた夢野が薄い笑みを浮かべて立っていた。
大学キャンパスに入っていく人々がチラリチラリと横目で見て、通り過ぎていく。
それも仕方がないとは思う。どうみても男物の服を着ているし、それにあまり言いたくはないが、とびきりの美少女だ。
「どうです? 胸ときめく再会ってやつですか?」
残念ながらときめきはゼロである。
「私もしばらくは会わないかなって思ってました。けど、もう一人のターゲットがここに来たもんで。嫌なんですけど、見なくちゃいいけないんですよねぇ」
「ターゲット?」
「秘密でーすよー」
あっそ。まぁ、僕には関係のないことだ。
それよりもこんな変な女と一緒にいたという妙な噂を広げられるのも御免被りたい。
僕は夢野に背中を向けて歩き出す。
「あれ、どこへ行くんですかー?」
「図書館だよ。自習でもしてる」
という名目で昼寝でもする。
「それは困りますよー。図書館って学生証とかないと入れないですよね?」
「だからなんだ。
君は君で好きにすればいい。僕に付いてくる必要はない」
「もうー、ツンデレなんですからー」
どこをどう解釈すればツンデレになるのか教えてほしいくらいだ。
この女はやはり気に入らない。
なぜ気に入らないのか、その根拠は薄弱だがこいつと付き合っているとよくないことが起きると直感できる。
そう、シックスセンスだ!
「これなーんだ?」
夢野は立ち止まり、甘ったるい声音でそうクエスチョンを告げた。
振り返る。
「……銀行の通帳だ。
おまけにそれは僕のものだ」
「返してほしければ、私とトークをしましょう」
ある事実を確信する。
僕のシックスセンスも馬鹿に出来たものではないな、と。




