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あなたは私のおじいちゃんですか?

「あなた、私のおじいちゃんですよね?」

 

 無機質で冷たい声。

 それが嘘つき女、夢野彼方ゆめのかなたの最初のクエスチョンであった。

 

 

 大学とはモラトリアムだと誰かが言った。

 立派な大人になる為の準備期間だと。

 高校を卒業して、そのまま就職するという選択肢もあった中、

 僕はその他大勢と同じように大学入学という広く立派な道を選らんだ。

 

「君は大学で何がしたいのですか?」


 仮にこのような質問されたとして、僕には嘘でもそれらしい言葉を言うことはできないだろう。

 何をしたい?

 そんなことは僕が教えて欲しい。

 僕は何がしたくて大学に入ったのか……。

 少なくとも勉強をしたくて入ったのではない。

 ……ということは、声を大にして言えるのだけれど。


「なんという、ゆとり」

 

 自覚はあるが、我ながら駄目な人間だと思う。

 ヤル気が出ない。

 僕のヤル気スイッチはどこにあるのだろう。

 誰でもいいから手っ取り早くそれを押してほしいものだ。


 

 7月も終わる、そんな日の黄昏時。

 茜色に染まる空。地上線の果てまで続くような長い川沿いの道。

 僕は当てもなく歩いていた。

 うん、青春っぽい。

 さらに隣に美少女がいれば言うことない。

 

 そんな時に聞こえたのだ、彼女の声が。 

 

 聞き間違いかな? 

 と思いながらも僕は振り返る。

 

 背後に立っていたのは女の子。

 そして、それはもうとびきりの美少女だった。 

 金髪の流れるような癖1つないショートヘア。

 小柄だがスラリとした肢体、大きな瞳。小さいが、ふっくらと柔らかそうな唇。

 非の打ちどころがない。

 

 いや、非はあった。

 ありました。

 一目で見つけてしまいました。

 

 服がおかしい。

 

 一言で言うなら銀色宇宙人。

 体にピタッと密着した薄いビニールのようなスーツを着ている。

 首下からつま先まで銀色で覆われている。

 

 うん……変態だ。

 

 口を阿呆のようにポカッと開けてまじまじと少女を見つめてしまう。

 確かにそれだけの魅力のある女ではある。

 どこか神秘的な美しさがある。


 だけど、見れば見るほどおかしい。 

 

 変態と喋っちゃまずいよね。

 お母さんもそう言っていたし。

 

 僕は首を進行方向に戻す。


「あの、どうして無視するんですか?」

 

 再度の質問が投げかけられる。


「おじいちゃん」

 

 いや、おじいちゃんじゃないから。

 僕はまだ19歳だから、子供いないから。

 というか彼女いないから、いたことすらないから。

 

 ……。 


 くそ……余計なことまで暴露してしまったじゃないか。

 そもそも僕がおじいちゃんなら君は一体いくつなのって話だよ。

 

 とりあえず無視だ。

 こういう輩と会話をしてしまったら負けな気がする。


「おじいちゃん耳が遠いのでしょうか? いえ、この時代のおじいちゃんはまだ19歳のはずだからそんなはずはないはずですが」

 

 ……。


「あっ、わかりました」

 

 ポンっと後ろで手を叩く音がする。


「これがこの時代のコミュニケーション方法なのですね。親しい間柄こそ会話などいらない。どちらかが一方的に話していればその内互いの心がシンクロする、そういうことですね」

 

 違います。意味がわかりません。


「実はですね、おじいちゃんには頼みがあるのです」


「……」


「実は哀しいことに、未来ではもうすぐ楽しい夏休みが待っているのですが、難儀な宿題があるのです。

その宿題の内容というのが過去に飛んで、その時代の街並みや文化をレポートにする極悪非道な内容なのです」


「……」


「レポート用紙30枚というふざけた量ですので、最低でも2週間はこの時代に滞在し、研究をしなければいけません。全くふざけています。私のサマーバケーションを返していただきたいです」


「……」


「ですが、ご存知の通りこの時代に私の知り合いは限られています。私は勿論、お父さんお母さんすら生まれていません」


 ……なんかすごく嫌な予感がしてきた。


「というわけで私にはおじいちゃんしかいないのです。

というわけでおじいちゃんの家に2週間ほど居候させてください、以上」

 

 というわけで、僕は引き続き無視をすることに決めた。

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