目覚める当日
「……ん?……君!」
どこかで、声が聞こえた。
聞いたことがあるような、声だった。
「ねぇ……君!……君!!」
それは、今にも引き裂かれそうな、脆い声だった。
それでも、誰の声なのか思い出せなかった。
「返……てよ………君!!」
声は、どんどん消えていく。
ラジオのノイズの様に、声を引き裂いていく。
そして、声は完全に消えてしまった。
自分の、意識と共に。
「…………、?」
何も無い、本当に何も無い地面の上で、少年は目覚めた。
まだ桜が咲き始めの時期なので、日光も暖かいのだが、少年はこの時期にしては厚着だったので、熱気が籠ってクソ暑い。長袖にジャケット着て寒い方がおかしいくらいクソ暑い。
しかし、そんな事も気に留めない程少年は大きな問題を抱えていた。
「……僕、何て名前だったっけ?」
そう、大きな問題というのはこれの事だった。
自分に関することや、過去の思い出、他人の情報などなど。
それらの事を、何一つ思い出せない。そんな問題だった。
せめて、持ち物から何か割り出せないだろうか。
そう考えた少年は、自分の持ち物を全部出してみることにした。
結果、出てきたものは二つだけ。
紙切れと、片方が千切れているイヤホンが接続された携帯音楽プレイヤー。
紙切れには、『天使の風』と書いてある。
「……少なくとも、こんなキラッキラな名前じゃないよな?」
こんなのが名前だったら、軽く三日はふて寝出来そうだ。いや、絶対に出来る。I can do itだ。
音楽プレイヤーは、電池が切れていた。気絶している間に切れてしまったのだろうか。
何にしても、身分が証明出来る物は持っていないようだった。
次にやるべきことは、住居を探すことである。クソ暑いのは我慢すればいいし、食べ物は公園の水で凌ぐ事にしても、住む所が無ければどうしようもない。というか公園すら無いのだが。
という訳で、住居や公園を探すべく少年はここから移動することにした。
「それにしても……今日はクソ暑いなぁ」
まずジャケットを脱ぐという選択肢は頭に無い少年であったが。