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番外編

石崎香織の目線の番外編です。

番外編は、一応、二話の予定ですが、あとから増えるかも知れないです。


その日、私は午後の授業をさぼって屋上に来た。


腹立たしいというか、納得がいかないことがあったからだ。


学校自体をさぼっても良かったのだが、真面目に登校してしまうところが悲しい性だ。


とても、眠い授業なんて受ける気にならない。


だったら、誰もいない場所で寝てる方がマシだ。


何で今さら…。


今まで、二人でなんとかやってきたじゃん!


家のことは、私がちゃんとやってきたじゃん!


今さら、その人をお母さんなんて思えないよ!





学校の屋上に一つだけあるベンチには、残念ながら先客がいた。


デカイ男だった。


ベンチに横になって寝てるが、体が収まっていない。


コイツのことは、知っている。


知っているも何も、同じクラスの男だ。


まだ、話したことはないが、皆は『タク』と呼んでいる。


確か、『カワグチタク』だったかな?


あれ、『スグル』だったかな?


彼の頭の上の方から、彼を見下ろしながら、そんなことを考えていた。


「なんだ、ブルマか…。」


不意に下の方で声がした。


慌てて制服のスカートを押さえる。


「なに見てんのよ!」


抗議の声を上げてみる。


「お前こそ、なに見てんだよ!」


その男は、意に介さず、起き上がりながら言い返してきた。


「ベンチを占領されてたから!」


負けずに言い返す。


「今、授業中だろ?」


「その言葉、そっくりそのまま返す。」


「まぁ、さぼりたい時もあるよな。」


「まぁね…。」


これが、私と彼の出会いだった。





それからしばらくの間、二人でベンチを分け合って、ただ、座っていた。


何かを話すわけではなかったが、それだけで心が落ち着いた。


「お前、何か悩み事でもあるんじゃない?俺でよければ聞いてやるよ。目が覚めちゃったし。聞いてやるしか出来ないけどな。」


「別にいい!」


これは、彼に話したくないという意味ではなかった。


「素直じゃねぇな、お前。話すだけでも楽になるのに。」


コイツになら話せそうな気はしてた。


「うちの父親がさぁ…。」


誰かに話せば、もっと楽になるかも、という誘惑に逆らえず、なんとなく話し始めてしまう。


父が、昨夜、女の人を連れて来て、私に『この人と結婚しようと思ってる』と、言ったことを…。


彼は黙って聞いていたが…。


「まぁ、一つアドバイスをするとすれば…。」


そこで、彼は一呼吸おいた。


「…?」


彼の言葉に期待した。


「スカートの下に、ブルマは履かない方がいい…いってぇー!」


つい、彼の脛を蹴ってしまった。


「死ね!」


言葉より先に…。


コイツに話すんじゃなかった!


私の期待は、見事に裏切られた。


「だから、聞くことしか出来ねぇって言ったじゃん!」


「アンタなんかに話すんじゃなかった!」


そうは言ったものの、15歳の男に、たいしたアドバイスなんか出来るわけはないということは分かっていた。


「イヤ、俺に話して正解だよ。」


「もういいから!この話は終わり。」


なおも、何か言おうとする彼をさえぎり、強引に話を終わらせようとした。


「俺の家も同じだったから…。」


「えっ?」


「俺の場合は、母親が連れて来た方だったけどな。」


「そう…なんだ。」


同士を見つけた。


「でも、それなりに上手くやってるよ。こういうことは、時間が解決してくれるんじゃないかな…。」


彼の言葉に、私は救われた。





それから、彼とはちょくちょく話すようになる。


一緒に授業をさぼることは、あの一度きりだったが、二人だけで話をすることもあった。


気が付けば私は、彼を目で追うようになっていた。


私は、コイツのことが好きなのか?


私の頭は、少し混乱した。


何でコイツなんだ?


そう思うこともあった。


友人も同じ疑問を持ったようだった。


「ねぇ、香織は何で川口君なの?香織なら、もっといい男でも充分いけるんじゃない?」


「んー、何でだろう?」


私は、彼に好きになってもらう為に、色々、努力した。


外見に気を使い、メガネを止め、コンタクトにしてみたり。


一向に振り向く気配のしない彼のために…。


他のどうでもいい男は、寄ってくるようになったが、ウザイだけだった。


「川口君って、不細工じゃないけど、明らかにイケメンじゃないでしょ?」


そうかな?


結構、いい男に見えるんだけど。


「長身だけど、横にも少し広いでしょ?」


あれは、筋肉なんだよ。


彼の筋肉はすごいよ!


「頭は結構いいけど、ちょっと行動がバカじゃん。」


真面目なガリ勉より、全然マシ!


「運動神経もいいけど、柔道部じゃん。」


県の上位クラスの強さなんだよ!


強い男って、ちょっと憧れる!


「柔道って汗臭そうじゃん。」


スポーツやってれば汗臭くもなるよ。


気が付けば、友人の疑問全てに反論出来るぐらい、好きになっていた。


何回か告白しようともしたが、こっちから言うのは何か尺に触った。


本当は、相手にされないのが怖いだけだったのだが…。


そして、私と彼は、別々の道を進むことになる。


進学の為に上京すると、連絡をとることがなくなった…。









実家で、高校時代の卒業アルバムを眺めながら、懐かしい思い出を振り返る。


アルバムの最後のページには、彼とのツーショットの写真が挟まっていた。


卒業式の日に撮った、最初で最後の二人だけの写真…。


「タクちゃん、若い!やっぱり、今よりちょっと細いじゃん!」






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