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やってしまった…のか?

久し振りの投稿です。

相変わらず、拙い文章ですが、暖かく見守って下さい。


朝、目覚めると、見たことがない天井が、視界に入ってきた。


ここはどこだ?





まず、自分の置かれている状況から把握しなければならない。


現在、寝ている場所は、フローリングの床に敷かれたカーペットの上。


毛布は掛かっているが、布団の上ではない。


この部屋は、殺風景だが綺麗に片付いている。


俺の部屋は、こんなに片付いていない。


ここは、俺の家ではないことを理解した。


そして、横に目をやると、昨日、俺が着ていたはずのスーツが、ハンガーに吊されている。


ということは、今、俺が身に付けているのは、Yシャツの下に着ていたTシャツとパンツのみ。


反対側に目をやると、ベッドがある。


一人用よりも、少し大きめのベッドである。


そのベッドには、この部屋の住人らしき人物が、頭まで布団を被って寝ている。


コイツは誰だ?





何となく、今、置かれている状況を理解し始めた時、目覚まし時計が鳴り響いた。


声を上げそうになるのを何とか堪え、ベッドの上の方に目をやると、布団の中から伸びた手が、目覚まし時計を止めようと、虚しく空をさまよっていた。


その手が何度か空を斬った後、布団の中から頭が出て来る。


そして、布団の中の住人は、目覚まし時計を止めると、再び、布団に潜り込んだ。


って、オイ!


また寝るんかい!





布団に潜り込んでいる、この部屋の住人らしき人物は、女性だと思われる。


布団から伸びていた手は細く、爪には剥がれかけのマニキュアが塗ってあった。


寝癖で顔までは確認出来なかったが、髪は長く、茶色かった。


俺は、コイツを知っている。


知らない奴の家で寝ていたら、それはそれで大問題なので少しホッとした。


そして、状況を整理する為に、昨日からの行動を一から振り替えることから始めなければならない。









俺の記憶が確かなら、今日は日曜日で、昨日は土曜日。


今日は休みだが、昨日は土曜日にもかかわらず仕事だった。


本来、土曜日は休みなのだが、休日出勤ってやつだ。


仕事を終え、出先から直帰したはずだ。


そして、重い足を引き摺りながら駅に着くと、駅のホームのベンチに、一人でポツンと座っている女性を見掛けた。


「ねぇ、彼女!今、一人?暇ならどっか遊びに行かない?」


こんな風に女性に声を掛けることが出来るなら、彼女いない歴は年齢と一緒であるはずがない。


例えそんな芸当が出来る人間だとしても、この時はそんな気力もない。


俺は、綺麗な格好をしているその女性が気になってはいたが、チラチラと遠巻きに見ているだけだった。


その女性の様子は、明らかに落ち込んでおり、ハンカチを握りしめてる。


その視線は、一点を見つめたまま、焦点が定まっていないようだった。


『ピンポン!間もなく電車が参ります!』


駅のアナウンスが流れた時、その女性がこっちを見た。


チラ見をしていた俺の視線と、見事に合ってしまう。


慌てて反らしたが、彼女には気付かれてしまったようだ。


すぐに彼女は、コツコツとヒールを鳴らしながら、近づいて来る。


やべぇ、文句を言われるかも…。


案の定、そのヒール音は俺の横で止まった。


「なに見てんのよ!」


とは言われなかった。


しかし、彼女の視線は間違いなく俺を睨んでいる…、と思われた…。


「カワグチタク?」


「えっ!」


不意に俺の名前を呼ばれ、振り返る。


「やっぱりそうだ!タクちゃんじゃん!久し振り!」


久し振り!と言われても誰だか思い出せない。


「えーと…、誰だっけ?」


「はぁ?覚えてないの?『親友』の顔を忘れるなんていい度胸だな、オイ!」


そう言われると同時に、脛を蹴られた。


「いてぇー!もしかして、石崎香織か?」


懐かしい痛みと共に、名前を思いだす。


高校時代、よくこうやって脛を蹴られていた。


男っぽい口調の上に、口より先に足が出る奴は石崎しか知らない。


しかし、俺は彼女と親友になった覚えはない。


どちらかと言えば、苦手な部類だ。


ましてや恋愛感情なんて、とてもとても…。


「タクちゃん、仕事だったの?もう終わり?」


一応、俺の名前は川口卓カワグチスグルである。


ただし、周りにスグルと呼ぶ奴は誰もいない。


友人だけでなく、会社の同僚、後輩も、『タク』、『タクちゃん』、『タクさん』と呼ぶ。


家族までもがそう呼ぶ。


高校時代、俺のことを『タク』と呼ぶ女子は、石崎だけだった。


そう考えると、彼女も友人の一人だったとは言えるかも知れない。


「家に帰るところだけど?」


「ちょうど良かった!ちょっと付き合いなさいよ。どうせ、暇なんでしょ?」


そう言い終わる前に、俺は袖口を掴まれ、俺を引き摺るように、石崎香織は改札に向かって歩き出していた。


確かに暇ではあるが、俺に選択権というものは無いのだろうか?





駅前の居酒屋に入り、高校時代の思い出話を肴に酒を飲む。


恋愛関係の話もした。


俺は、見栄をはってみたが彼女には通用しなかったようだ。


表立って指摘はされなかったが、彼女いない歴と年齢が一緒であることを、気付かれたと思われる。


石崎にも、そういう類いの話を突っ込んでみたかったが、何か得体の知れない物に止められた気がする。


酒はしこたま飲んだ。


飲んだと言うより、飲まされた。


無理やりではないが、石崎のペースに合わせたら、いつも以上に飲んでしまった。


石崎は酒が強い。


フラフラになりながら店を出た俺と違い、アイツの足取りは、かなりしっかりしていた…記憶がある。


終電には間に合わず、タクシーで帰る。


二人で一緒のタクシーに乗ったはず。


乗ったところまでは覚えている。


乗って…どうしたんだっけ、俺?


そのまま、石崎の家に押し掛けてしまったのか?


もしかして、やってしまった…のか?









俺の混乱に拍車が掛かった時、もう一度、目覚まし時計が鳴った。


今度は、彼女の枕元ではなく、別の場所で鳴っている。


すると、布団の擦れる音がした後、タンッと床に足をつける音がした。


今度は起きるようだ。


足音がした方を見ると、女性らしい白くて細い足が、一歩踏み出そうとしていた。


ちょ、ちょっと待て!


そのまま行ったら…!


「グェー!」


「キャー!」


ドタン!


男のうめき声と女の悲鳴、誰かが床に倒れ込む音が部屋に響いた。






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