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死に損ないたちの岸辺  作者: ぜろ
第2章
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渡された箱

 アルトに初めて会ったのは、12個目のピアスを開けた時だった。その頃私は、人生で1番どん底にいた。


――まあ、生まれた時から底辺に生息しているのだけれど。


 アルトは私が知っているどの大人とも明らかに違っていたし、なんか変だった。


 気づけば、歩道橋から行き交う車を見ていた。ライトの光が(うごめ)いている。この一つ一つに人がいて、それぞれが思考しているのかと思うと、気持ちが悪かった。


 身近な死に触れたあの日から、やめていた悪い癖がまた再発した。


 久々に切った手首がジンジン痛む。あの感触をまたはっきりと思い出してしまった。


 初めて切ったのは11歳の時。いつも、うっすらと死に憧れていた私は、風呂場にあったカミソリで手首を軽く切った。


 溢れ出る鮮やかな赤が、生を実感させてくれた。心がスッと凪いでいくのを感じた。その日からは、何度も何度も切った。


 ここに来てからは、家にいた時ほど切りたいという発作も起きず、落ち着いていたのだけれど――久しぶりに切ってみて、あの頃のように満足できないことにがっかりした。


 ああ、あの子は楽になれたんだ。そう思うと、彼女にひどく嫉妬した。ここから飛び降りたい。どんどん湧き上がる念慮――。


 ふと、声をかけられた。


 振り向くと声の主が立っていた。アッシュグレーの髪色で、高そうなスーツを着ている。どこか浮世離れした中性的な男性。それがアルトだった。


 彼は、初めて死にたい私を否定せず、胡散臭い励ましの言葉をかけることもなく、普通の会話のトーンで軽く聞いてくれた大人だった。私がここにいることをすんなり受け入れているようだった。


 ただ人生を俯瞰して、期待も疑念も抱かず、淡々と生をこなしているように見えた。だからこんなに適当そうに生きられるのかもしれない。そう思うと羨ましかった。


 去っていく彼の背をしばらくぼんやり眺めていた。手元に残った箱へ視線を落とす。


「……やっぱり、変なやつ」


 コンドームの箱を見つめながら、私はポツリと呟いた。


 その後常連さんに声をかけられたので、そのコンドームを使ってうっかり3万円も稼いでしまった。


 だからその日は、諦めて生きることにした。


 こうして私はまだ、ダラダラと存在し続けている。

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