自分の足で
初めてちゃんと家出をした日、私は夜の繁華街をフラフラと歩いていた。
華やかな街の煌めきを眺めながら当てどなく歩き、喧騒に身を紛れ込ませると、自分の存在が遠のくような、ふわふわした錯覚に陥る。それでいて、ひとりぼっちじゃない気がしてくる。
その不思議な感覚が癖になっていて、こうしてたまにふらりと家を抜け出して、都会の雑踏へ身を潜めていた。
でもこの日は、二度と戻らないと決めて家を出てきた。
スーツケースをガラガラ鳴らしながら、今日一晩どこで眠ろうかと考えていた。
全財産は3万円。本当はさらに10万円あったのだけれど、全部妹に盗まれた。これからこの財布の中の3万円を少しずつ切り崩して、どうにか生きていかなければならないので、贅沢はできない。
野宿でもなんでも良いから、休める場所を探さなければ。ため息をついた。
机の鍵付きの引き出し部分という、ベタな場所にお金を隠していた私が悪い。
空っぽになった引き出しに気づいた時は、これでは脱出計画はまた先延ばしになってしまうと絶望した。
でも、そんなこともあろうかとコートのポケットに隠していた3万円だけは無事だったので、心底ホッとした。
とりあえずは、なんとかなる。
誰からも存在を消されてひっそりと生きるのは、もうごめんだ。
自分の足であの地獄を抜け出したんだ。そう思うと、とたんに誇らしくなった。
スマホは家に置いてきた。どうせ妹のお下がりのSIMなしだからWi-Fiがないと使えないし、GPSで居場所がバレるといけない。
誰も探しはしないと思うけれど、念のため。
不意に背後から声をかけられた。振り向くと、お酒くさいおじさんが立っていた。
「お姉ちゃん可愛いから、2万でどお?」
ラッキー。探す手間が省けた。
こうして私は、初日から仕事をゲットした。




