3.アンソニー
“一、二、三、さあ!”と、エデンはピアノの前で軽やかに号令をかけた。
デイヴィッドは電子ドラムに向かい、ラマーはギターを構え、アリヤは歌を口ずさむ(まあ、実際は歌が得意というわけではないが、雰囲気づくりのために)。
音楽が始まった。
空を裂くように、あの「カラミティ(災厄)」が無防備なトニーめがけて突進してきたが、突然砂に引き込まれるかのように軌道を変える。音の振動に引き寄せられたのだ。
その瞬間、サリーは我慢できず走り出し、倒れている息子を抱えて家へ連れ戻そうとした。
ソフィーが家で待っていた。
トニーは大きな笑みを浮かべ、ソフィーに向かって手を差し伸べた。
「見て、ソフィー…泣きもしなかっただろ?」
「ええ、本当のヒーローになったみたいね」
そう言うや否や、トニーは意識を失った。
サリーは急いでトニーを寝室に運び、必死に対応を探る。
居間ではミセス・ボーンズが震える声で祈っていた。
「主よ……あなたは私から最愛の夫を、リックとケイティを連れ去った。でも、どうか、トニーだけは奪わないで……」
その頃、エデン、ラマー、アリヤ、デイヴィッドの4人は基地の中心部に集い、まるでステージを作るかのように弧を描いて演奏していた。
遠くからでもその音ははっきり聞こえる。
長い足を持つカラミティがぞろぞろと彼らに向かい、さらに地底を裂いて進む一体のカラミティが背後から迫る。
「エデン……エデン……」と、ラマーは焦りを隠せず繰り返す。
「このままじゃ、喰われてしまうぞ!」と、デイヴィッドも声をあげた。
だがエデンは冷静だった。
「もう少し待って。まだその時じゃない」
モンスターたちがじわじわと押し寄せてくる。
「なんだそれ……まだなのかよ、バカか!」と、ラマーが怒鳴る。
「待って!待ってて!」とエデン。
カラミティは速度を上げ、デイヴィッドがついに我慢できず狂おしくドラムを打ち始めた。
衣服が炎のように燃えるかのごとく、彼の腕は複数に見えた。
エデンは叫ぶ。
「続けろ、デイヴィッド!燃え上がれ!息子の命が君にかかってるんだ!」
ラマーはショックを受けて、
「お前、本性を現したな……悪魔か何かだ!」と罵るが、エデンは淡々と言った。
「いいから、準備はいいな?三、二、一…今だ!」
装置を引き、砂中に仕掛けられた罠が作動。
カラミティは電撃に打たれて空中へ放り出され、鎖の絡まったまま地に崩れ落ちた。
演奏は終わりを迎え、彼らは歓声をあげた。
そのとき、サリーからの電話が基地に響く。
「デイヴィッド、どう?」
「捕まえた。カラミティは確保したぞ」
「でも……トニーが……今、息を引き取ろうとしてるの……!」
――その直前、トニーはわずかに意識を取り戻していた。
血を吐き、痛みに身をよじらせながら、必死で笑顔を作る。
ソフィー、サリー、ミセス・ボーンズが入ってきて彼の傍に駆け寄る。
「ママ、心配しないで。ヒーローは病気なんかしないから。ちょっと休めばいいだけ…」
しかしその痛みは激しさを増し、トニーは再び血を吐きながら絶叫した。
基地では、エデンが報告する。
「カラミティは捕えた。だが、今度は“核”を取らねばならない」
ラマーが言う。
「じゃあ殺す」
「だめだ!死んだら核も腐る。核が死ねば、全てが終わる」
意識の戻らないカラミティが、無力に倒れる。
「触媒を作れるか?」とエデンはデイヴィッドに問う。
「可能性はあるが、試したことはない」
「やるしかない。息子の命がかかってるんだ」
何とかしてデイヴィッドは透明な液体を注いだガラスのキューブを取り出した。
ラマーに渡しながら、「慎重に扱ってくれ」と。
最上階にぶら下がるカラミティ。
アリヤは血を染み込ませた包丁を両手に握り、身体を静かに研ぎ澄ませていた。
「準備はいいか?トニー、核は落ちてる」
「よし…今だ!」とアリヤは飛び込み、カラミティの口を貫通するように刃を突き入れ、真っ二つに斬り裂いた。
核は地面へ落ち、ラマーは飛び込んでそれをキャッチ、触媒で封じ込めようとする。
だが手が滑り、キューブは割れ、核が散乱してしまう。
「ラマー!口の中に入れろ!」とエデンが促す。
「え?俺が?」とラマーは狼狽えた。
「これしか方法がない。安全な環境が必要なんだ」
恐怖で震えるラマーに、エデンは微笑を浮かべて一歩近づく。
「頬を刺すように打つ。液体が成長を止めてくれる」
ラマーは泣きそうな顔で注射器を見つめる。
それでも、トニーを思って彼は覚悟を決め、針を頬に刺された。
3人は急いで脱出しようとする。
ラマーだけが後方に取り残されたが、金属の腕が突然起動し、彼はモンスターを次々に叩き潰す。
しかし制御を失い空中に飛び、基地へ戻されてしまう。
ようやく3人も帰還し、トニーのもとへ駆けつける。
ソフィーは枕元で泣きながら懇願する。
「全部私のせい…トニー、お願い、ずっと一緒に遊ぶって約束するから。だから…行かないで…」
デイヴィッドが調合した解毒剤を打ち、医療室に運び込む。
エデンとデイヴィッドは懸命に処置をするが、トニーは微動だにせず、心臓の鼓動は止まっていた。
• 主人公たちを襲う悲報




