表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4話



入学してから1ヶ月が経過し、ゴールデンウィークが過ぎた頃には一年生らしい初々さもなくなり、学校にも慣れてきたと感じる。

クラスを跨いで行われる合同授業の絡みで他クラスとも交流も増えてきたし、上級生に話しかけられることも多々ある。それは俺に兄貴がいるからかもしれないが。


「椿君、次ってたしか移動授業だよね?」


「実験室に移動だったはず」


「ありがとう〜」


ハルも最初とは打って変わって、向こうから話しかけることが増えてきた。だからかクラスの男子からの視線が少し痛い。

呼び方に関してはハルちゃんと呼ぶことのほうが恥ずかしく感じたのでハルに落ち着いた。


「もうすぐ席替えだね」


「あーそういえばゴールデンウィーク明けにやるって言ってたね」


「椿君とか仲が良い人が隣がいいなぁ」


「一人でも話せる人いたらいいよね」


「だよねだよね。もし誰も知り合いがいなかったらやり直しとかできたらなぁ」


ハルはまだ席に座っている俺とは対照的に、教科書などを両手で体の前で持って目の前に立っている。

なにこれ、一緒に実験室行かなきゃいけないの?一緒に行って友達に噂とかされると恥ずかしいとかないの?


「健〜、早く行こうぜ〜」


「…やべ、ノート忘れた」


「ルーズリーフ貸そうか?」


「ありがたやありがたや」


「池君ってノートじゃないんだね」


「ルーズリーフに板書とか書いて後からノートにまとめてるんだよね」


「そうなんだ。じゃあテストとかバッチリだね」


「それがそうでもないんだ」


池は絵になるような苦笑を浮かべながら言葉を続ける。


「基礎問題はバッチリなんだけど応用問題がね…。地理とか歴史とかの暗記科目とかもいいんだけど」


「弱点わかってるなら克服しようがありそうだけど」


「どうも時間が足りなくて」


「おーい三人ともー。遅れるよー」


呼んでくれた紗季に合流して移動する。

この四人で行動するのも当たり前になってきて、何も言わずとも集まるようになっていた。





「席替えするぞー」


おそらくクジが入っているであろう箱を持って教室に入ってきた先生がHRの開口一番にそう告げたことでクラスがざわめく。


「視力悪い人は今の内に言っとけよー」


一番前の席になるのにわざわざ手を挙げる人を見たことがない。勉強を真面目に取り組みたい且つ目が悪い人くらいだろう。


「椿君は視力いいんだよね?」


「うん、ハルは?」


「私はコンタクトしてるよ」


「へ〜意外」


「意外っていうのは目が悪いのが?」


「それもあるけど、コンタクトが怖くて目に入れられないってタイプだと思ってたから」


「最初の内はそうだったけど今はそんなことないよ」


「へぇ〜やっぱり慣れなのかね」


「そうかも。あっクジ私の番だから引いてくるね」


そう言ってハルは教壇の前に置いてある箱の中に手を入れる。箱から手を出し番号を見ると同時にパアと明るい表情になりこちらに戻ってきた。


「見て見て!窓際の後ろから二番目だよ!」


「最高じゃん。俺が引いたことにならない?」


「窓際の一番後ろだったら変わってあげる」


そう言ってクスクスと笑う彼女を見て可愛いなと思う。紗季が自分の中で一番なのは言わずもがなだけど、可愛いと思ってしまうのが男の性だよなと心の中で言い訳をする。


「ほらほら椿君の番だよ!」


「いやまだ前に二人いる…」


「早く早く!」


はしゃいでいるハルに背中を押され教壇に向かう。

到着するや否やすぐにクジを引くために箱の中に手を突っ込む。こういうときに透視能力に目覚めて箱の中が透けて見えればいいのになと思わずにはいられない。

手を入れて数秒経つが能力の発現には至らなかったので適当に選んだ一枚を掴み、そして開く。

教壇に書いてある番号と見比べ、席の位置を確認し思わず鼻で笑ってしまった。


「どうだった?」


ハルが期待と不安が入り混じった表情で聞いてきたので、


「駄目だったよ」


と返事をすると露骨にショックを受けたような表情になったので吹き出してしまった。

笑わないでよとハルは言うが、俺は笑わずにはいられなかった。





「うぅ〜離れても話しかけに来てねぇ…」


「ハイハイ」


飼い主に構ってもらえない犬のような寂しそうな顔で移動するハルを見送ってから机の中に入れてある教科書などを取り出し移動する、ハルの隣の席へと。


「よっ」


「えっえっどういうこと?」


「つまりはそういうこと」


「でも駄目だったって」


「窓際の一番後ろではないってこと」


「も、もう〜!」


ハルは顔を赤くし抗議してくるが何も嘘は言ってないので笑って流す。


「健と佐々木さんの席はここ?」


「そうだよ、池は近く?」


「佐々木さんの後ろだよ」


「わっ!やった!よろしくね!」


「よ、よろしく」


ハルの満面の笑顔を一身に受けた池は顔を少し赤くし目を逸らしていた。

その様子を見てると肩をトントンと触られたので振り返ると頬に指がささった。


「今どき引っかかる人っているんだね」


「今の時代だからこそ引っかかるんだよ。…紗季の席はどこになったの?」


「健二の前だよ」


「おー、仲いい四人固まったな」


「よかった〜」



俺の前が紗季で隣がハル。ハルの後ろが池でまるでテトリスの逆Zみたいな席順だなと思うと面白くなって一人で笑ってしまった。

そんな俺を見てハルはどうしたの?と聞いてきたが、言ったところで通じないだろうなと思い、何でもないよ、と返すと彼女は口を尖らせた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ