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2話


入学式からニ週間が経過し、クラスで絡む面々も固定されてきたように感じる。


紗季は容姿が良いのと明るい性格もあってか主観を抜きにしてもクラスの女子の中でカースト上位に属していると思える。

一方俺と池も部活には入ってはいないが同様に上位に属していると評価できる。というのも授業と授業の合間の僅かな休憩でも誰かしらが話しかけにくるからだ。


「なーなー、椿は本当に野球部入らないのか?」


誰かしらとは言ったがここ最近は山崎という野球部に入部した左隣に座っている男子が毎時間話しかけてくる。池程ではないが顔が整っていて身長も俺と同じくらいで高身長に属しているので勝手に我がA組の二大イケメンと俺は呼んでいる。


「何回も言ってるけど入らないよ」


「先輩や顧問の先生に毎日言われる俺の身にもなってくれよ」


「いいじゃん、俺をだしに使って交流を深められて」


「そう言われると悪い気はしないけどさ、俺も椿と野球したいんだけど」


ちなみに椿というのは中学時代からの俺の呼ばれ方だ。椿原、略して椿。それか下の名前で呼ばれるのが普通。


「昼休みにキャッチボールくらいならいいよ」


「おっまじで?ピッチャーなんだし変化球教えてくれよな」


「山崎って内野手じゃなかったか?」


なんて会話をしているとチャイムが鳴り次の授業の先生が教室に入ってくる。そして――、


「休み時間毎回騒がしくてごめんね」


「ううん、そんなことないよ」


と、右隣の篠原さんに話しかけるのもルーティンとなりつつあった。

篠原さんは小柄で、あまりこういう表現はしたくないが女の子らしいというのが印象の子だ。

自己紹介のときに言っていた地毛の色素が薄いという言葉の通り、若干茶髪でショートカットが似合っている女の子。


ゴールデンウィークまでは席替えをしないという担任の先生の言葉に若干の不満を覚えたものの、仲がある程度深まるまではそれが無難かと思い直したのはつい先日のこと。

授業を受けているときに今の席に心地良さを感じ、高校生活にも慣れてきつつあるなとペンを握る手に若干力が加わった。





「健二、今日は一緒にお昼食べない?」


紗季に誘われた俺は断る理由もなかったので池に確認して了承を得るといくつかの机を向かい合わせに移動させ準備をする。

すぐに準備も終わったので弁当を広げると紗季と篠原さんが一緒にやって来た。


「珍しいね、篠原さんと一緒なの」


「そうでもないよ、部活で一緒だから」


「篠原さん茶道部なの?」


俺がそう聞くと小さく頷いて、うんと返ってきた。


「へ〜知らなかった」


「私が入部した日に話したはずだけど」


「そうだっけ、覚えてない」


「とりあえず二人とも座ったら?」


池がそう言うと女子二人は席につき、弁当を広げる。


「こちら篠原春香ちゃん」


紗季が畏まってそう言うと篠原さんは再度名前を言ってお辞儀をしてきた。俺と池は顔を合わせ、すぐに正面を向き直す。


「椿原健二です」


「池内亮です」


二人揃って同じようにお辞儀をした。なんだこれ。


「えっと、何、部活仲間の紹介?」


「うん、まあ、そんなところ」


「池君と椿君って呼んでも大丈夫?」


「大丈夫だよ」


池が爽やかにそう言うと篠原さんはホッと安心したように胸を撫で下ろした。


「椿原君から椿君になったから一階級昇進だ」


「もう一つ上がったら名前呼びになるよ」


「どうやったら上がるの?」


「重いもの持ってあげたり、困ってるところを助けたり」


「ポイント制度みたいなものなんだ」


「逆に困らせたら椿原呼びに戻るからね」


「ゲームじゃないんだから」


紗季と俺の会話を聞いて篠原さんは口元を隠しながらクスクスと笑っていた。

その姿を見て山崎が言っていたことを俺は思い出していた。

自分達が所属する五組の中で篠原さんが男子からの人気が一番あると言っていたのを。

容姿だけでなく仕草とかが可愛いのもあるんだろうなと俺は場違いなことを考察した。


「俺と池は普通に篠原さん呼びでいいんだよね?」


「えっと、うん。それでお願いします」


「春ちゃん敬語じゃなくても大丈夫だよ」


「あまり男の子に慣れてなくて。でも、うん、頑張るね」


「篠原さんってバス通学?」


「ううん、あまり遠くないから歩いて来てるよ」


「へぇ、10分くらい?」


「うん。それくらいかな」


「あれ、じゃあこの中で一番学校から家が遠い人って池になるのか?」


「俺はバス通学だからな」


「椿君と紗季ちゃんって家近いんだよね?」


「近いっていうか向かいっていうか」


「何だっけ、あの表現。小学生の時の国語で習った斜め向かいのこと」


「斜向い?」


「それそれ。健二とは家が斜向いなんだ」


「俗に言う幼馴染だね」


「いいなぁ、小さいときからずっと一緒って。池君は幼稚園のときだけ一緒だったの?」


「そうだよ。小学生に上がるときにちょうど今住んでる家が完成して引っ越した感じ」


「そうなんだぁ」


「篠原さんってもしかして一中?」


「そうだよ。椿君たちは二中って聞いてる」


ということは中学時代の学区で言うと隣か。おそらく家はそこそこ近いな。


「いいよな、この辺の中学だと一中や二中で通じて。俺の中学なんて全部言わないとわかってもらえないんだぞ」


「じゃあこれから池は新たに三中出身を名乗ったら?」


「生憎中学校名に三の文字は入ってないんだよ」


「大事なのは心だから」


「脊髄で会話してるでしょ」


バレた?と笑うと紗季からバレバレだよと返ってくる。

それから篠原さんに質問をするのを中心に会話は進んだ。5歳の妹がいること、家の方向が一緒なこと、紗季と同じで着物が来たくて茶道部に入ったことなど。

楽しい時間はあっという間なもので気がつくと昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、机を元に戻す作業をする。


「あの、椿君、池君」


「ん?どうした?」


「また今度お昼一緒に食べない?」


「全然大丈夫だよ」


「健と二人きりだと寂しかったしちょうど良かった。毎日でも大丈夫だよ」


「よかったぁ」


安堵の表情を浮かべる彼女は本当に嬉しそうで。それに幼い子を見守るような温かい視線を紗季は向けていた。

俺は二人きりは寂しいと言った池に文句の一つでも言ってやろうと顔を見ると、笑顔の篠原さんに目を奪われていた。

おーいと軽く声をかけても届いてなさそうで。

人が恋に落ちる瞬間を始めて見てしまったなとしみじみと考えながら自席に戻ると隣に篠原さんが座って、ああそういえば隣の席なんだったと苦笑した。





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