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1話







春休みの自堕落な生活に引きずられるままに寝坊してしまった俺は母が用意してくれた朝食をできる限りの速さで食べていた。

入学式ということもあり、いつもより少し豪華な朝食を終えた俺は洗面所に向かう。身支度を整えながら新しく始まる生活に思いを馳せていると玄関のチャイムが鳴った。





「バカ息子が待たせてごめんなさい」


「いえいえ、うちの子も朝慌てて準備してたから大丈夫よ」


「ちょっとお母さん、内緒って言ったでしょ」


「あら健二君だけ悪者にするわけにはいかないでしょ?」


「大丈夫よ、紗季ちゃんがしっかりしてるってことは昔からよくわかってるから」


「お待たせしました、バカ息子です」


制服に着替え、前日に用意したプリントなどが入っているスクールバッグを持って一階のリビングに降りると談笑が聴こえてきたので自虐しつつ話の輪に入る。


「あら健二君、やっぱりお兄ちゃんで見慣れたと思ってた制服も男前が着ると違うわね」


「ミオさん、ありがとうございます。でも兄貴のほうが顔は整っていると思いますけど」


「私は健二君の顔の方が好みね。紗季はどっち?」


「私は…うーん…」


頭を傾げ考え込んでいるのが幼馴染の一ノ瀬紗季。俺の好きな人。

春休みに会ったときにはロングだった髪の毛は肩より少し下くらいのセミロングになっていて制服姿も相まって心臓の弾みが大きくなってしまう。


「ほらそんなことより急がないとせっかくの入学式に遅刻しちゃうよ」


「いや原因アンタだから」


「入学早々手厳しいな母さんは」


「ふふっそうね。それじゃあ行きましょうか」


ミオさんがそう言って立ち上がったので出されていた飲み物などを手早く片付けて家を出る。

言う機会を逃すと何となく嫌だなと思った俺は玄関のドアに手をかけた紗季に声をかける。


「髪、結構切ったんだな」


「うん、どう?似合ってる?」


「似合ってるよ。あと制服も」


「ふふっありがと!健も制服似合ってるよ!」


ミオさんと同じ微笑み方なのに何でこんなに違うんだろうか。そんなことを考えながら家をあとにした。





学校に着くと保護者と分かれ教室へと向かう。校舎に入る前の掲示板に大きく貼り出されたクラス表を見る。


「あっ、私のあった!」


「いいな、あ行の一ノ瀬は見つけやすくて」


「た行の椿原は真ん中だもんね」


紗季と同じクラスだといいな思い、目で追っていたクラスを中断し、彼女の名前が並ぶクラスの方を見る。


「ん、俺も同じクラスだ」


「本当!よかった〜」


「いやいや本当によかった。てことでまずは一年間よろしく」


「こちらこそよろしくね」


クラス替えまでは同じクラスでいられることに安堵しつつ教室に向かう。すれ違う人達の中に見知った顔はいないかなと探すが会うことなく教室に着いた。

黒板に入学おめでとうございますと書かれた横に当たり前のように貼られている座席表がひどく不釣り合いに見えて、小さく笑うとどうかした?と紗季に顔を覗かれた。


「いや何でもないよ。それよりほら、座席」


「完全に名字順だね」


「だね。あっ俺一番後ろだ」


「私は前から三番目か〜」


「一番前じゃなくて良かったじゃん」


「そうだけどさ。あーあ、早く席替えしないかな」


「どうだろうね。でも紗季の列の一番前の人の苗字最強じゃん」


「相内って名字が強そうってこと?椿原のほうが格好良くない?」


「いやいやそうじゃなくて。あいうちだから間違いなく出席番号一番になるでしょ?」


「ああ、そういうことか」


またしょうもないことを言っているなと紗季は呆れたように笑う。


「先生が来るまでまだ時間あるね」


「そうだな」


「どうする?他のクラスでも覗く?」


「うーん…どうしよ。紗季に任せる」


「じゃあ初日だし大人しくここで話してようか」


「了解」


親同士が仲がいいので紗季とは幼い頃から、それこそ物心ついたときには既に一緒にいた。

何がきっかけだったのかなんて今になってはわからないことだけど、好きになったのは当然だと思う。


漫画や小説の世界でよく見られる好きな人と会話するときに何を話せばいいのかわからないということは、幼馴染の自分には無縁なことで初めて登校した高校というアウェーな環境でもそれは変わらなかった。

同じクラスになった人達にうるさいなと思われないような音量でしばらく話していると横から男子に話しかけられたので二人揃ってそちらを見る。


「健君と紗季ちゃんだよね?」


「そうだけど…、えっ誰だろ、紗季わかる?」


「私の交友関係にこんな高身長なイケメンはいないけど…」


「ほら、幼稚園の時に一緒だった池内亮だよ」


「「え、池君!?」」


驚いてハモってしまった。


「そうそう、池だよ。久しぶり!」


「えー!あの鼻水垂らしてた子供がこんなに格好良くなるもんかね」


「健が177センチだから180センチ以上あるよね」


「うん、今182センチかな」


「2.5センチ分けてくれない?そしたら同じ身長になるんだけど」


「その願いは俺の力を超えている」


久しぶりに再開した池君は昔の泣き虫だった頃の面影はなく、それはもう誰かわからないくらいに格好良くなっていた。

余談だが幼稚園のときなど幼い時は大抵友達のことを名前で呼ぶが、池君を亮君と呼ばず名字で呼んでいるのは俺の兄の名前と音が同じだからだ。


「健君は高校でも野球やるの?活躍してたのが雑誌とかに載ってたけど」


「いや、高校ではやらないつもりだよ」


「そうなんだ、何か勿体ないね」


「やっぱ池君もそう思うよね!」


「俺の中に未練はないからいいの。池君は部活とか何かやってたの?」


「サッカーをやってたけど高校ではやらないかな」


「おっじゃあ帰宅部予定?」


「そうなるかも。紗季ちゃんは?」


「私は茶道部に入る予定だよ」


「それオープンキャンパスの部活体験したときから言ってるよな」


「だって着物可愛いし、活動内容がお茶飲んでお菓子食べて話ししてるだけなんて最高じゃない?」


「体験のときに飲んだお茶苦くなかった?」


「そうかな?美味しく飲めたよ」


「何か盛られてて美味しく感じただけじゃないの」


「だとしたら同じの飲んだんだから健ニも美味しく感じてると思うけど」


「あはは、相変わらず二人は仲いいね」


「いえいえ、伊達に15年幼馴染やってませんから」


「健君も紗季ちゃんも変わってなくて安心したよ、これからよろしくね」


「よろしく。それより池君さ、俺らもう高校生じゃん?」


「うん?そうだね」


「君付けこそばゆくない?」


「わかる!ずっとムズムズしてた!」


「じゃあこれからは呼び捨てでいこうぜ」


「了解、健」


「いいな〜、男の子のそういうやり取り」


「何、紗季ちゃん羨ましくなっちゃった?」


「健がちゃんを付けて呼んでくるの鳥肌が立ちそう」


「立ちそうってことは立ってはいないんだ」


「言葉の綾ね」


三人で話していると担任となる先生が入ってきて席を立っていた生徒は俺達を含めて全員が自席に戻る。

そのまま流れるように体育館に移動し入学式が始まり、校長先生や来賓してくれた人のありがたい話を聞き、教室に戻ったかと思うと解散となった。

明日は自己紹介があるから各々考えてくるようにと言われたので無難な挨拶で済まそうと思う。


入学式や帰りのHRで固くなった背中を伸ばしてほぐし、紗季に帰ろうぜーと声をかけた。

このとき隣の席に座っていた女子が頑張って声をかけようとしてくれていたことに俺は気が付かなかった。

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