3.妖精さんと遺跡の鍵
リクオルが取り出したのは一本の鍵だった。
「それは、この間の?」
「そうそう。くまさんの足にささってたやつ。」
それはつい先日、ミッドナイトシェード探しの最中に出会ったクロウベアの足にささってた鍵だ。
普段はおとなしいクロウベアが、足の痛みに大暴れしていてちょっと危ない目にあった。
ほけほけとリクオルは嬉しそうだけど、わたしは期待したようなものじゃなくてがっかりした。
「そんなの、どこかの物置小屋の鍵かなんかじゃないの?」
途端にリクオルは砂を噛んだような顔になった。
「・・・ジェルバちゃんって、ほんっと、夢がないよね?」
そりゃあ、小さいころから、夢見がちな妖精さんにさんざん振り回されているからね。
そんな鍵は特段珍しいものでもない。
この村の人たちは、森の木を切ったり、薬草を摘んだりするのを生業にする人も多い。
その人たちの使う小屋は、森のなかのあちこちにあった。
しかし、リクオルは、もったいぶったように、ちっちっち、と人差し指を振った。
「ここ、よく見て?ここに紋章が彫ってあるでしょう?」
わたしは小さな鍵をよく見ようと覗き込む。
同じように覗き込んだミールムが、小さく、あ、と声を上げた。
「これは!」
「そう。古代パラアマン文明の紋章によく似てるでしょう?」
「古代、ぱ、ら?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、目の色を変えたミールムが早口言葉のように一息に言った。
「パラアマン文明。別名、古代超大陸国家。大昔、この大陸に存在していたという巨大国家の王家の紋章にこれがよく似ているんです。」
「こだいちょうたいりくこっか?」
「簡単に説明するとね?
大昔、大陸全部を支配するような大きな国があってね?
その国の王様の紋章がこの鍵についてる、ってわけ。」
「しかし、パラアマン文明については、諸説あって、そのような超大陸国家などなかったという説が今は主流なのです。なんにせよ、科学もなにもない世界で、そのような巨大国家が存在できるはずないというのが、彼らの主張です。それはわたしももっともだと思う部分もあり、パラアマン文明については眉唾ものだと考えていたのですが・・・。しかし、もしもその文明が存在したという遺跡が発見されたのなら、それは、今世紀最大の発見になるでしょう。」
立て板に水のごとく話すミールムは、さきほどまでとは別人のようだった。
「これは、ひょっとすると、ひょっとするかもしれませんよ?先生!
世紀の大発見!ということになるかもしれません!」
両手をもみ絞りからだを震わせてミールムは叫んだ。
「そっか。そうなるとお金も儲かるかな?
ここにお店作って、パラアマンせんべいとかパラアマンまんじゅうとか。
遺跡を見学に来た人たちに売れるよね?
そうだ!パラアマン遺跡の発掘のきっかけになったこの鍵なんか、グッズにするのによくない?
チャームにしてお守りにしたり、ペアネックレスにして恋人同士でどうぞ、なんてのも。
ああ!そうだ!鍵をもたらしてくれたくまさんだって、グッズにすればいいよね?
宝の鍵をもたらしたくま、とかなんとか、置物にしたら売れそうって思わない?」
なんか、ふたりして視線を上に向けて、うひひ笑いを始めてしまった。
うーん、このふたり、最初は全然違うタイプに見えたんだけど。
こうして見ると、ふたりとも似た者同士だわ。
なるほど、ミールムは間違いなくリクオルの友だちだ。
類は友を呼ぶ、とか言うんだっけ?
「・・・それは、そんな遺跡が本当にあったら、でしょう?」
森の中の遺跡なんて、村の子どもたちの間の七不思議のようなものだ。
だいたい、そのパラなんとか文明だって、あったかどうかも分からないのに。
「まったく・・・ジェルバちゃんってば、夢がないなあ。」
水を差されたリクオルはつまらなさそうにこっちを見た。
「いえ。
盛り上がりやすいわたしたちには、ジェルバさんのように常に冷静な人は有難いブレーンですよ。」
ミールムは咳ばらいをして水を一口飲むと姿勢を正した。
「とにかく、この鍵についている紋章は、パラアマン文明の王家のものにそっくりだというのは間違いありません。
なんなら、この鍵の発見だけでも、学会発表のネタになるくらいのものですよ。」
「森のくまさんの足にささってた、って?
なんか、それだけじゃ、発表してもつまんないな。」
リクオルは、つまらなさそうに言う。
「やっぱさ、せっかくだったら、遺跡のひとつやふたつ、見つけとかないと。
インパクトって、大事でしょう?」
なんだろう、学会発表って、インパクトとか、関係あるんだろうか。
「しかし、パラアマン文明とはまた・・・
一つ間違えれば、わたしたちは色物扱いになります。」
ミールムは眉根を顰めてリクオルを見た。
「よほどの物的証拠がなければ、発表は危ういネタなのは間違いありません。」
「でもさ、わくわくしない?」
リクオルのほうはけろりとしてミールムの懸念なんかちっとも気にしていないようだった。
ミールムは、一声、うーん、と唸って、それから、ですよね?とけろりとした顔で笑った。
「せっかく苦労するんだったら、やっぱりわくわくするネタでやりたいですよね?」
「でしょ?」
ふたり、手を取り合って、でしょう?だよね?と繰り返す。
うん。やっぱ、このふたりは同類だ。間違いない。
「というわけで、探索に出るよ。」
くるっ。
こっちを振り返ったリクオルが宣言する。
もちろん、わたしの答えなんぞは求めていない。
「よろしく御願いしました。」
まったく同じ顔をしてミールムも宣言する。
「あー、はいはい。分かりましたよ。」
よくよく見るとふたりとも背も同じくらいだし、顔は似てないのに雰囲気はそっくりだ。
もっとも、ミールムのほうはリクオルのような羽は生えてないんだけど。
リクオルひとりでも持て余しているのに、なんだか迷惑な人がひとり増えてしまったようだった。
これは、なにかな。
やっぱりリクオルはなるべく早く王都に返したほうがいいということかな。
これからも際限なく迷惑な人がぞろぞろぞろぞろと現れるのを想像して背筋がぞくりとする。
一匹いたら五十匹はいる、って言うもんね?