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2.妖精さんと森の遺跡

リクオルはバスケットいっぱいにうちの母さんの料理をつめて持って帰ってきていた。


「だーって、ジェルバちゃん、ひとりでご飯なんて、淋しいでしょ?」


つーん、と口を尖らせてそっぽを向いてみせる。


「わたし、ここにあったの、もう食べたんだけど・・・」


「構わないよ。ママンのご飯ならオレ、いっくらでも入るし。

 ジェルバちゃんは食べられるだけ食べたらいいよ。」


いや、そういうこと、言いたいんじゃないんだけど。


リクオルは知らん顔をしてそそくさとテーブルに料理を並べ始めた。

それはもう、見事なほどにリクオルの好物ばっかりだ。


「ミールムも、食べる?

 ジェルバちゃんのお料理も上手だけど、ママンのも美味しいよ?

 なにより、ママンはオレの嫌いなもの、ちゃんと入れないでおいてくれるから。」


とことんうちの母親に甘やかされているリクオルは、にぃっこりと嬉しそうに笑う。


「ほう。これはこれは、豪華な晩餐ですな。

 では、わたしもご相伴させていただきましょう。」


ミールムはにこにこと席に着くと、嬉しそうに料理に手を伸ばした。


「ほら、ジェルバちゃんも、おいでよ。ね?」


リクオルは、とんとん、と自分の隣の椅子を叩く。

さっき、わたしのことを鬼悪魔呼ばわりして飛び出して行ったことは、もう記憶の彼方らしい。


しかし、そんなことを蒸し返して怒るのも面倒なので、わたしは大人しくリクオルの隣に座った。


「ああ、この人は、ミールム。ミールム、この人がジェルバちゃんだよ。」


リクオルに適当に紹介されて、ミールムは丁寧にお辞儀をした。


「ご挨拶が遅くなりました、レディ。

 ミールム・エードゥカートルと申します。

 リクオル先生とは魔法学校の同期になります。

 入学式で初めてお会いして、それ以来、なにかと親しくさせていただいております。」


「あ。ジェルバ・ベレンヘーナです。

 リクオルとは、その、幼馴染です。」


レディなんて初めて呼ばれて、どきどきしつつもなんとか自己紹介する。

名字なんか普段名乗らないから、うっかり舌を噛みそうだった。


「で、こんなとこまで、何しにきたの?ミールム?」


リクオルはハンバーグを口いっぱいに頬張ってミールムのほうを見る。

口に物を入れてしゃべるなと、何度言えば分かるんだか。


ミールムは口のなかのものを飲み込むと、丁寧にハンカチで口元を拭ってから答えた。


「先生。どうしてもあなたに助けていただきたいことがありまして。

 実は、また教授が行方不明に・・・」


「また?」


リクオルは露骨に嫌そうな顔になった。

しかし、話し方といい物腰としい、このふたりのまとう空気の差はいったいなんなんだろう。


「奥さんとは仲直りしたの?」


「ええ。それで仲直りのフルムーン旅行に行くと、書置きひとつだけ残して・・・」


「はあ?

 よくもまあ、あの人は、それで学校をクビにならないよね?」


「一応、実力はそれなり、な方ですから。」


リクオルはフォークを置くと、はあ、とため息を吐いた。


「だけど、オレはもう、知らないよ。

 なんだかんだ言って、一年は恩返しだと思ってやってたけど。

 もうこれ以上は、手伝う義理もない。

 だいたい、オレにはやりたいことがあるって・・・」


「ええ!それは、わたしたちも承知いたしておりますとも。

 しかしながら、教授も不在、先生も不在となると、研究が完全にストップしてしまいまして・・・」


「・・・それ、オレには責任、ないと思うんだけど・・・」


「おっしゃるとおりです。

 しかし、来月には学会もあって、このままではうちの研究室の研究費は取り上げ、最悪、研究室ごとお取りつぶし、という事態に・・・

 そうなれば属する研究者も学生も、みな露頭に迷うことになってしまいます。」


ミールムは困り果てたというふうにため息を吐いた。


「どうか、助けていただけませんか?先生?」


縋るような目をむけられて、リクオルはむぅとうなったきり黙り込んだ。


そのまましばらく続く無言の間がやりきれなくなって、思わずわたしは口を開いた。


「さっきから、先生、先生、ってリクオルのこと呼んでますけど・・・

 リクオルって、先生だったの?」


確か、四年で卒業するはずだった学校を二年で卒業した、と聞いたけど。

だったら、いつ、先生、なんてやってたんだ?


「ああ、学校は一年で卒業したんだ。

 でも、恩のある教授が病気で療養しなくちゃならなくなって。

 仕方ないから、一年間、残って研究室の手伝いをしてた。」


リクオルはこともなげにそう答えた。


「先生がご指導くださってから、うちの研究室は一年の間に新しい発見を三つもしたのです!

 おかげで学内外から注目され、立派な賞も何度も頂いて。

 しかし、そんな栄光ももはや過去のものに・・・」


よよよよ、とミールムはハンカチを目のところに押し当てて泣く真似をした。


「だけどさ、オレは魔法考古学には興味ないし。

 教授の研究室に入ったのは、フェアリー魔法の体系を教えられるのは教授しかいなかったからってだけだから。

 オレとしてはなるべく早く帰りたいのを、一年も我慢して手伝ってたんだよ?」


「それも承知しておりますとも。

 しかしながら、無情にも学会は来月に・・・」


ミールムのあれはどう見てもウソ泣きだけど。

それでも困っているのは見ていて分かって、なんだか気の毒になってきた。


「手伝ってあげたら?リクオル?

 どうせ、急ぐ用もないんだしさ。」


「なに言ってんの?

 オレたちのお店を作るって大事な用があるでしょう?」


リクオルはむきになって言い返すけど、それも、そんなに急ぐわけじゃない。


「調香ならわたしひとりでもできるし。

 小屋の改装なら、リクオルの描いた絵の通りに、ちょっとずつ進めておくよ。」


リクオルは絵が上手で、香水瓶やらお店の内装やら、もっぱらデザインはリクオルだ。

リクオルは、多分、なかなかいいセンスを持っていて、実用第一主義のわたしには思いつきもしないような絵を描く。

あのちょっと不思議で可愛い感じは、わたしにはどうやっても出せそうにはない。


しかし、実際の調香や大工仕事となると、今度はほとんど役に立たない。

いやむしろ、あれこれ口を出されると余計な仕事が増えるばかりで、仕事がいっこうに前に進まない。

それならいっそ、わたしひとりで作業したほうが、よっぽど効率的というものだ。


むぅ、とリクオルは不満そうにうなる。

役に立たない、と思われてることは、リクオルだって分かっているんだろう。

ここは、あと一押し、押したら押し切れそうだ。


「せっかく、こんなにあてにしてもらえてるんだしさ。

 リクオルがお役に立つってんなら、そこは頑張ろうよ?

 適材適所、っていっつもリクオルの言ってることじゃない。」


その台詞はリクオルがもっぱら力仕事をさぼるときに使ってるやつだ。

ここぞとばかりにリクオルに返してやると、リクオルは、ぶう、と頬を膨らませた。


「それで?学会発表のテーマは?

 あとひと月ってことは、方向性くらいは決まってるんだよね?」


しぶしぶというようにミールムを見る。


「それが・・・まだ、なんにも・・・」


気まずそうに目を伏せるミールムに、リクオルは盛大なため息を吐いた。


「そんなこったろうと思った。」


「先生さえ戻ってくだされば、ひと月でも十分に発表に間に合わせることができる、と。

 先生は最後の砦。みなに残された希望なんです!」


がばり、と手を取るミールムを、リクオルは嫌そうに振り払う。


「・・・そんな期待されても困るんだけど・・・

 オレは、魔法遺跡とか、そういうのには、まったく興味ないんだって・・・」


言いかけて、リクオルは、あ、と何かを思いついたような顔をした。


「あ。そっか。それがあった。」


「え?なに?」


ミールムとわたしは同時にリクオルを見る。

リクオルは自信たっぷりな笑顔になってわたしたちの顔を見回した。


「ちょうどいいのがあるよ。

 じゃ、さっさと遺跡調査して、原稿仕上げてしまおうかな。」


「さすが、先生!」


手を叩いて喜ぶミールムに、リクオルはてきぱきと言った。


「とりあえず、学会発表に間に合うくらいの発見があればいいんだよね?

 だったらうってつけのがある。

 あれなら、発掘とかの手間もいらないよ。

 完全に危険はないとは言えないけど、ジェルバちゃんもいるし。」


「ジェルバちゃんもいる?」


なんだかその言い方に不穏なものを感じて、わたしはリクオルの顔を見る。

それって、また、わたしに厄介ごとを押し付けようって魂胆なんじゃ・・・


「もちろんだよ、ジェルバちゃん。」


あんまりタイミングよくリクオルがそう言ったのでぎょっとした。


「やっぱり!厄介ごと押し付ける気なのね?」


リクオルはとんでもない、と純真無垢な笑顔を見せる。


「やだなあ・・・押し付けるなんて、人聞きの悪い。

 オレたちは、同じものを目指す同志、人生のパートナーじゃないか。

 それに、気の毒だから助けてやれって言ったのは、ジェルバちゃんだよ?」


わたしは大急ぎで逃げる口実を探した。


「わたしには、調香や小屋の改装の大工仕事が・・・」


「うん。一緒に早くそこに戻るために、余計な用事はさっさと終わらせるに限る。」


リクオルはあくまで、一緒に、を強調する。

いやこれは、どうにか逃げないと非常にまずい。


「・・・わたしに魔法とか研究とかの役に立つ能力はないと思うんだけど・・・」


「大丈夫。適材適所。ちゃんとジェルバちゃんの役に立てるところがあるから。」


リクオルはさっきの仕返しとばかりにそう言うと、にぃっこり、鮮やかにほほ笑んだ。

これは、まずい。何か他にいい言い訳はないだろうか。


「・・・旅をするとなると、わたしもいろいろと準備もあるし・・・」


言ってる自分もこれは明らかにただの言い訳だと思っているもんだから、なんだか中途半端にごにょごにょと語尾は誤魔化してしまう。

それにもリクオルはにっこりうなずいた。


「大丈夫。旅はしないよ。

 いつものジェルバちゃんの大荷物だけあれば十分さ。

 あ、ママンのお弁当は必須、かな?

 明日はお弁当三人分よろしく、って、ママンに伝えといてくれない?」


「明日?三人分?」


なんだか遺跡調査というよりは、どこかにピクニックにでも行くというように軽く言うリクオルを、わたしはまじまじと見返した。


「そうそう。

 ここの森の奥には古い遺跡がある、って聞いたことあるでしょ?

 今回はその調査をする。」


「え?でも、その遺跡って・・・」


実際に見た人は誰もいない。

遺跡の噂は、子どもたちが話す七不思議のレベルだ。


「発見なんて、そういう小さなところから偶然現れるものなんだ。

 たとえもしなかったとしても、ないことの証明だって、ちゃんと意味はあるよ。

 それに、オレは、ない、とは思ってないから。」


リクオルは不敵に微笑んだ。


「勝算はあるんだ。

 証拠を見せてあげる。」

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