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説明

(固い…)


 まず頭に浮かんだのは、背中に感じる布団越しの板の感触と、体にかけられている掛け布団の肌触りだった。枕も布団同様に固く、普段寝ている自分のベッドとはまったく違う環境に物凄い違和感を感じる。目を開けると見えたのは板張り天井。かなりくたびれたような色をしていて、昔家族旅行の時に観光した古民家がこんな感じだった覚えがある。


 慣れない場所で寝ていたせいか体が痛い。とりあえず顔だけを動かして周りを見てみると、やけに明るい室内に誰かが居るのが見えた。


(そうだ!女の子!)


 瞬間。寝起きで鈍った頭が、まるで冷水をぶっかけられたかのように覚醒した。視線の先には椅子に座り、テーブルに両肘をついて祈るようなポーズをしている女の子が居る。

 記憶を辿って思い出せるのは、真夜中の自分の家から真昼間のへんな村に突然移動してしまった事。目の前に一人の女の子が立っていて、変な言葉を喋っていた事。とりあえず話しかけようとしたら急に体調が悪くなった事。そしてそんな自分を彼女が介抱しようとしてくれた事だ。つまり、今自分がこうして寝かされているのは彼女が運んでくれたからだろう。


(体は…痛くなくなってる?)


 あの時の、深呼吸をした後の激しい痛みはもう感じない。痛いといえば痛いのだが、この体の痛みは固すぎる布団のせいだと思う。試しに軽い深呼吸をしてみても問題無い、ただ…普段嗅ぎ慣れて無い他人の布団の匂いはちょっとキツかった。

 なにはともあれ、体調は回復した…のかもしれない。まずは彼女と話をして事情を説明しよう、早く家に帰らないと父さんと母さんが心配してしまう。


『起きたの?』


 まずは上半身だけ起こしてみようとしたところで、僕の視線に気づいたのか彼女が慌てて駆け寄ってきた。その声はやはり機械の合成音声の様で、心配そうな表情とのギャップに頭が混乱しそうだ。

 僕は上半身を起こしすと、彼女を含め家の中を観察してみた。気絶する前にも思ったけど、内装もまたRPGで見るような民家みたいだ。

 彼女の存在もそうだけどここは日本じゃ無いんだろうか?考えたくは無いけど…もしかして拉致をされて外国に連れて行かれた?夜から昼にいきなり変わったのも眠っている間に連れて来られたからなんだろうか?


『気分はどう?』


 そうこう考えている内に彼女は僕のすぐそばに来ていた。目線の高さから、今更ながら僕はベットに寝かされている事に気付く。彼女はその傍らに立って心配そうに僕を見下ろしてる。


「えーっと…、とりあえず大丈夫です。それよりもここは何処なんでしょうか?日本ではないんでしょうか?」


 聞こえる声は合成音声でも、日本語で話しかけて来ているのは間違いない。僕はとりあえず日本語で話しかけて見たのだけど…彼女は僕の返答に対して物凄く怪訝そうな表情を浮かべている。


「あー…『日本語は話せますか?英語の方が良いですか?』」


 今度は英語で問いかけてみる。見た目からすれば欧米人のようではあるので、これならどうだろう?欧米とひとくくりにすると範囲が広すぎるので、英語なら大丈夫という保証は全く無い。けど少なくとも日本語よりは広く使われている。


『ごめんなさい。あなたが何を言っているのか分からない』


 彼女は申し訳なさそうな顔をしながら、やはり日本語でそう答えた。

 現に今日本語で答えたのに、彼女の方こそ何を言っているのだろう。おかしいと言えば合成音声のような声で頭の中に響くように喋っているのも無視できない。もしや彼女は宇宙人で、謎の翻訳技術を持っているとでもいうのだろうか?そういえばあの時…眩しい光に目がくらんだと思ったらこの場所に移動していた。まさか本当に宇宙人に連れらされでもしたんだろうか?


『あなたは、意思を伝える魔法を使う事が出来ないんですか?』


 バカな事を考えていると、今度は彼女からとんでもない質問が飛んできた。


「魔法!?」


 オウム返しに驚くと、彼女も僕の声にビックリしたのかビクリと体を震わせた。

 聞かれた内容が内容なだけに、どう答えたら良いのか分からない。いや、魔法なんて本当にRPGみたいな事を聞かれても「使えない」としか答えられないのだけれども…。


「………」

『どうやら使えないみたいね』


 僕が返答をしないのを否定と取ったのか、彼女は何かを考えるような顔をしてそう結論付けた。

 つまり…「意思を伝える魔法」なんてものが使えれば、彼女が合成音声で話すように僕も彼女と喋る事が出来るんだろうか?確かに彼女の声の異常さを考えると、魔法を使って話していると思った方が納得出来る。この場所の雰囲気といい、もしかして僕はRPGの世界にでも入り込んでしまったのか?


『ごめんなさい。こんな言葉も場所も分からない場所に召喚してしまって』

「…召喚?」


 彼女がまたしてもファンタジーな事を大真面目に語り出した。その表情がとても申し訳なさそうな感じではあるけれど、言っている事が言っている事なだけに本気なのかどうなのかがまったく分からない。


『私はヒト族の南の村の魔法使い。あなたが元居た場所からここに来てしまったのは、私が召喚魔法で呼んだからです』

「………」


 知りたかった事情を彼女の方から話してくれるのはありがたいが。内容がファンタジー過ぎてまったく頭に入ってこない。これならまだ、拉致して外国に連れてきたと言われる方が信じられる。


『混乱してますよね、突然連れて来られて。貴方が何を言っているのかは分からないけど、表情を見れば分かります』


 ただ一つ助けがあるとすれば、彼女はとても落ち着いた深慮深い人物に思えるという事だ。どうやら僕をここに連れてきたのは彼女なのだろうし、なんとか元の場所に戻りたいという事を伝えられないだろうか。


『そして私自身も困惑しています。まさか召喚魔法が成功してしまうとは思わなかったのです』

「…え?」


 先ほどよりもさらに申し訳なさそうな…辛そうな顔をした彼女の表情とその言葉から、僕はとても嫌な想像をしてしまった。


『召喚魔法で何かを呼び出せたという事は聞いた事がありません。そのくらい、成功率が少ないか…そもそも成功する事は無いと言われる魔法なのです』


 聞きたくない。けど、彼女が何を言うのかもう想像出来てしまっている。きっと僕は今、絶望を感じた表情をしているだろう。


『ですから…あなたを元の場所に戻す手段が、私には分からないのです』

設定資料


ヒト族の南の村の魔法使い

ヒロイン。月見里昇を異世界に召喚魔法で呼び寄せた張本人。主人公の視点からすると同年代(高校生)だと推測。やや赤みがかった茶色の髪と日に焼けたような褐色の肌をしている欧米人の顔立ちをしている美人。


意思を伝える魔法

魔法使いが使っていた魔法。言葉が通じない相手に意思を伝える事が出来る。ただし受け取り側(月見里昇)からすると、機械の合成音声のような無感情で平坦な声に聞こえる。


召喚魔法

魔法使いが使った魔法。月見里昇を地球の日本から、異世界のヒト族の南の村まで呼び寄せた魔法。魔法使いが言うには成功した例が無い。

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