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プロローグ
それはきっと、物心がつく前からだったと思う。毎夜、家の縁側で祖父と一緒に月見をするのが僕の原風景だった。
とある満月の夜、祖父は言った。「月にはウサギさんが居てお餅をついているんだよ」と。僕は「本当なの!?」と驚きながら、祖父から月の模様がそう見える事を教わり「本当だ!ウサギさんがおモチをついてる!」と大興奮だった。
しかし。ちょうど正月の後の頃で、祖父と祖母の息の合った餅つきを覚えていた僕は「でも…ひとりでおモチをついてるの?」という疑問を祖父に尋ねていた。
そんなたあいもない子供の疑問に祖父は「そうだなぁ、一人じゃ大変そうだなぁ…」と言って生真面目に考え込んだ後「ならお前が月まで行って、手伝ってあげればいいんじゃないか?」なんて、大笑いしながら答えてくれた。
祖父は恐らく冗談半分で言ったのだろうけど…子供の頃の僕はその言葉を真に受けて、一つの決意を固めた。
「うん!僕、お月様に行って兎さんを助けてくる!」
これは、その後の僕の人生を決定付ける大切な決意だった。