表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

正義のヒーロー メリーさん

作者: たなか

「もしもし、俺だけど……」


「私、メリーさん」


「……メリーちゃん、こんにちは。お嬢ちゃんはハーフなのかな。お父さんかお母さんに代わってくれるかい?」


 とある事務所でガラの悪い男が詐欺の電話を無作為に掛けている際中、幼い女の子の声が電話口から聞こえてきた。慣れた様子で大人に電話を代わるよう催促する男だったが……。


「私、メリーさん。今、近くの駅にいるの」


「……お嬢ちゃん。いたずらは駄目だよ。おじさん、お父さんとお母さんに大切な用事があるんだ」


「私、メリーさん。今、ビルの前に来たわ」


「……おい、クソガキ! いつまでもふざけてんじゃねえぞ!」


 声を荒げる男に、事務所内で同じように電話を掛けていた同業者達も不審がる。だが、電話の向こうの女の子は一向に怯える様子もなく、変わらぬ調子で話し続ける。


「私、メリーさん。今、事務所の前にいるの」


「……ははっ、そうかい! じゃあ、中に招待してたっぷり可愛がってやるよ!」


 受話器を放りだし、事務所のドアまでずかずかと進む男。扉を開けて誰もいないことを確認する。分かりきっていたことだが、内心ホッとするとともに恥ずかしさがこみ上げ、電話口の生意気な子供を号泣して失禁するまで怒鳴りあげることを決意していた。


 机の上に置かれた受話器から漏れ出る声は、頭に血が上った男には聴こえていなかった。


「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」


「おい、佐藤。なんだその人形は?」


「えっ? ……うぐああああっ!!」


 事務所の入り口に立ち尽くす男の背後には、いつの間に現れたのか、小さな可愛らしい人形がピタリとくっついていた。その手に握られた不似合いな出刃包丁は、深々と男の背中に突き刺さっている。本来、彼らにとって荒事など日常茶飯事だったが、あまりにも常軌を逸した異常事態に一人も動けずにいた。


 誰の耳にも届いていなかったが、受話器からは相変わらず女の子の声が聴こえていた。それまでの抑揚のない声とは違い、彼女の言葉には恋する乙女のような熱と狂気が込められていた。


「私、メリーさん。今、悪い人をやっつけたわ。はると君はヒーローが大好きなんだって。私はヒーローっぽくないから捨てられちゃったの。だから、たくさん、たっくさん悪い人をやっつけて立派なヒーローになってから、はると君に会いに行くの」


 受話器から切断音が響く頃、事務所の床は隅々まで真っ赤に染まり、身動き一つしなくなった男達が人形のように転がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪を以て悪を制するダークヒーロー系メリーさん。 ヒロシ君、生きているのでしょうか。
[良い点] ドアを開けて招き入れてしまったのは、振り込め詐欺グループの大きな過ちでしたね。 吸血鬼もそうですが、ドアなどを開けてウェルカムな姿勢を取ってしまうと、超自然的存在は大手を振ってやって来てし…
[良い点] メリーさん物は色々あって面白いん [一言] このあとはるとくんはマリオネッターとしてヒーロー活動するんですよね分かります。メリーさんから逃れるためにわざと危険な目に合うはずがメリーさん無双…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ