「書籍化したから(したら)、仕事をやめよう!」と考えている方がいたら、ちょっとお話を聞いてほしいのです。
小説家、作曲家、Youtuber……。
プラットフォームの充実、制作環境の向上などもあって、今では誰しもクリエイターになれます。
大変喜ばしい反面、例えば、
趣味でやっていたクリエイターでの収入だけで生活できるようになった→それまで勤めていた仕事をやめた→クリエイターの収入が減少し、生活が困難になってしまった
こんな声も、結構聞くのです。
・好きなことだけで生きていく
・それ一本でやっていく
なんだかかっこいい響きですよね。
しかし、クリエイティブを主な生業として個人事業主を続けている身からすれば、収入の不安定さに加え「いつハシゴを外されるかわからない恐怖」が常につきまとい、決して楽でもなんでもありません。
今回はそんな自分の老婆心を、少しだけ語らせてください。
タイトルに書きましたが、「書籍化したから(したら)、仕事をやめよう!」と考えている方がもしいらしたら、ちょっと待ってください……。
自分は、小説作者の皆様の作品が書籍化やコミカライズ、アニメ化などされたとしても、仕事をされている方は極力続けるべきだと思います。
というのも、まず印税の目減り具合というのは半端ないです。
自分も初回の振込で数百万円入った曲が、今では1回の振込で数千~数万円という曲もあります。
ですので、アニメ化まで行って大成功、円盤の印税も入ってかなり儲かり、数年は潤ったとしましょう。
ですが、10年後はどうなっているでしょうか。
あの数年が夢だったかのような収入額になっている可能性があります。
そして、創作活動で継続的に収入を得るには「作り続けること、売れ続けること」が必要になってくるのですが、たとえ一廉の成功を収めたとしても、自身が作ったものがずっと他者に受け入れられ続けるとは限りません。
自分は主にプレゼン先のクライアントが相手ですが、贔屓にしてくださっていた相手でも一度飽きられるとすぐに忘れられます。情熱と才能に満ち溢れた競争相手は、他にいくらでもいるからです。
魅力ある「商品」であり続けるためには汗をかき続けなければなりませんし、かといって必ず売れる保証もありません。
ですので、書籍化やアニメ化にこぎつけても、仕事をされている方は極力やめるべきではないと考える次第です。
さて、ここまでいかがでしょうか、もしかしたら「夢のない話」と思われるかもしれませんが、それは漠然と「見る」だけの夢であり願望であって、
もし夢を「叶えたい」のであれば、とことん「現実」を知って向き合い、その上で計画を立て実行すべきかと。
ちなみに自分も、印税が入るようになってもしばらくアルバイトを続けましたが、毎月数万円でもちゃんと入る収入があるということは、心に確かな安心感をもたらしてくれました。
そして今も、本業の他に別の収入源を確保しています。
その別の収入源もなかなか修羅の道なのですがそれはさておき、コロナ禍でエンタメ業がほぼ壊滅してからは、その別の収入源がなければ相当に厳しかったです。
また、友人に優秀なサポートミュージシャンがいて、有名アーティストのドームツアーとかにも普通に出ているのですが、コロナ禍で仕事が片っ端から吹っ飛び、自殺を考えました。
なんとか宥め、援助もし、各種補助金の申請なども手伝いましたが、それまで年中ツアーで全国を飛び回っていた彼が未来に絶望し、意気消沈している姿は、自分の心にも大きなショックを残しました。
彼は十分、「それ一本」で食っていける腕の持ち主です。
ですが、こんな形(コロナ禍)でハシゴを外されては稼ぎようがありませんし、2019年の段階で「来年エンタメ業界が目の敵にされる」なんて予想できるはずがありません。
このように、予測不能のリスクがいつ襲ってくるかわからない不安は、個人事業主には常につきまといます。
さらに、福利厚生面や税制面でもサラリーマンの方に比べて不利です、頑張って稼げば稼ぐほどに税金を取られていきます。
かといって、税金対策にと経費を積みすぎたり、稼いでいるのに無申告のままでいれば税務署に目をつけられ、税務調査に入られれば追徴課税を課されます。
例えば、こんな話とか。
〜〜メルカリ転売で儲けたら、家に税務署がやってきた〜〜
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78989?page=3
こう見ていくと、「社畜」「会社の歯車」なんていう言葉もありますが、「労働者」って実はかなり守られていると思いませんか?
個人事業者は単に稼ぎの問題だけではなく、色々な責任が自分自身に降りかかってくるのです。
ちなみに印税の場合は振り込まれる時点で所得税がおよそ10〜20%天引きされており、これは多くの方の場合「払いすぎ」になりますので、確定申告すれば全額とは言わずとも還付を受けられるでしょう。
なお、確定申告自体は国税庁のサイトに作成ページがあるので、特に白色申告で済ませてしまうのならば数字を入れたりしていくだけで結構簡単にできます。
また、急に収入が増えた年は「平均課税」という制度を適用すれば、かなり節税できます。
〜〜印税や契約金で税額が多額に!何か手立てはないの?【平均課税】〜〜
https://www.zeiken.co.jp/zeikenpress/column/0001zp20210218/
その他、「開業届」に関するあれこれや、副業が会社にバレたくない方などは、こちらも。
〜〜開業届の提出期限はいつまで?出さない(出してない)場合には罰則があるのか?〜〜
https://www.unchi-co.com/kaigyoblog/kigyo_kaigyo/kaigyo_kigen_dashiwasure.html
〜〜会社員が個人事業主として副業をする場合の確定申告や社会保険、会社にバレない方法まで解説!〜〜
https://sogyotecho.jp/office-worker-and-sole-proprietor/
最後に、誤解なきようお願いしたいのですが、自分は小説作者の皆様が仕事をやめても暮らしていけるくらいの大ヒットを生み出す可能性を否定したり、無理だと言いたいわけではありません。
そのような志を持って努力されている方は心から応援したいですし、大ヒットを飛ばして大儲けした後にはどうぞ、「仙道のやつ脅かしやがって、こんなに入るじゃないか!」と罵倒してください。
それに、今では書籍化後の収入情報などもある程度出回っているでしょうから、今回のエッセイタイトルのように考える方は実際はそれほどいないとも思います。
ただ、ここのところ「副業が好調→仕事をやめた→副業の収入が激減して生活苦......」というエピソードを立て続けに聞いたもので、釈迦に説法と存じつつも、お話をさせていただきました。
そして、改めて思うのはやはり、創作活動は「楽しむこと」がまず第一だということです。
お金はあくまで副産物の一つでしかありません、「それ一本」で生涯の自分の経済力を賄おうと過度な期待をしてしまうと、人生が狂ってしまうかもしれません。
また、お金や結果を目的としすぎる、そこに執着しすぎるのも危険であり、創作活動の本来あるべき趣旨とは違うように感じます。
創作活動はお金以外にも沢山のギフトを作者様にもたらします。
お金では買えない価値の方が多いくらいです。
ですので、作品作りを通して楽しみや学びや喜びを得ることで、日々の暮らしや歩む人生そのものに、ポジティブな影響と彩りをもたらすこと。
それを何より大事にして、自分は今も創作活動と向き合い続けています。
なんて偉そうなこと書いてますが、実は自分自身、以前は完全な一攫千金狙いでした。笑
その頃の夢は、「一発当ててランボルギーニ乗りてえ!」です。笑
そんな自分もある時現実を突きつけられ、抱いていた夢や収入構想が木っ端微塵に打ち砕かれました。
しかし、そこから粘り強く諦めずに続けていった結果、予期せぬ道が開け、気づけばあの時に考えた構想以上の収入になりました。
(ただし、ずっと音楽一本でいこうという考えは捨てました)
自分が当初考えていた道とは違っていましたが、何かに一生懸命取り組んでいると、いつか思わぬ形で花開くこともある。
散々現実を突きつけておいて何なんですが、一方ではそんな可能性もあるということを、お伝えしたいと思います。
ちなみに。
以前の構想以上の収入を得てもランボルギーニではなく、コミコミ15万円の中古軽自動車を買いました。笑