どうか笑ってやってください
障害者の人に対して同情をするのは間違っているのか?そんな事をちょっと題材にしてみたりしてみなかったり。たとえ障害者でも人を笑わせる事は出来る!そんな思いで書きました!
・・・・人生なんて楽勝だ・・・
「きゃー、誠也くーん!」
昔から女は俺に夢中だ。
なんたって俺は生まれつきイケメンだし、頭もいいし、運動神経も抜群。
こんな男を世の中の女が放っておくわけがない。
生まれてからずっとモテモテな俺は、小学校の時クラスの女子全員と付き合った。
中学校では全女子生徒の半分と肉体関係になり、今の高校では2年にして既に好みの女全員と付き合っている。数で言うと200人ほどかな。
「おはようございます!誠也さん!」
そしてそんな俺は男共にもかなりの人気がある。
俺は運動神経が抜群すぎて喧嘩はもちろん、どんなスポーツでも負けた事が無いからだ。
こんな男を世の中の男が放っておくわけがない。
大体俺みたいなイケメンヤリチン男は周りの男共に嫌われるが・・・俺と少しでも仲良くなろうと毎日のように遊びの誘いがくる始末だ。
・・・ああ、なんて人生は楽勝なんだ・・・
「誠也くん・・・今日はどこにいこっか?お金なら私が全部出すよ」
今の俺の彼女の中で一番の金持ちである美由紀は、某大企業の社長令嬢だ。
親から限度額無限の最強ブラックカードを授かりし美由紀は、お金の力で俺を独り占めしようとしてくる。他の彼女たちはそんな美由紀に少しでも対抗しようと、夜な夜な如何わしいお店でアルバイトしては、給料日に美由紀と俺の取り合いをするようになった。
そのおかげでお金にも一切困らない生活が出来ている。
「そうだな・・・今日はフレンチが食べたいかな!」
「オッケー!じゃあ3つ星のレストラン予約するね!もちろんその後のホテルも予約してるから最後まで付き合ってよね!」
美由紀はホントに性欲が強い女だ。
その日は珍しく美由紀のお迎えが来なかった。
どうやら途中で事故に巻き込まれたようだ。
仕方がないので広い道まで出てタクシーを捕まえる。
学校から広い道までは車が一台通れるかの狭い道が続いている。
そんな狭い道だから基本車は通らない。
はずだったのだが・・・・。
何故か目の前から大きなトラックが車体を壁に擦りつけながら走ってきやがった。
あり得ない出来事にとっさに美由紀を近くの壁に上がらせ助けたが、俺は間に合わず思いっきりトラックに轢かれた。
ベキバキと下半身の骨が砕ける音がし、トラックは俺の下半身を通り過ぎるとそのまま走り去ってしまった。
痛かったかって?そんなもの感じるわけがない!
あまりの激痛にすぐに気絶したからな!
目が覚めると病院のベッドの上にいて、横には付きっきりで看病してくれていた母親が疲れたように寝ていた。その後意識が戻った俺を見た看護師が医者をすぐに呼び、親はもちろん、周りのすべての人間が目を覚ました俺を見て泣いて喜んでくれた。
そして医者は俺にこう言ったんだ。
「残念ながら下半身の機能は全て再起不能です」ってな。
何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、確かな事が一つだけあった。
それは下半身の感覚が全くないって事だ。
まるで腰から下が何も無いように・・・感覚が全くないって事だけは確かだった。
後から分かったんだが、俺を轢いたトラックは美由紀を狙ったらしい。
社長令嬢はどうやら命を狙われていたみたいだ・・・。
そんな女と一緒にいた俺はつくづく運がない。
入院してから毎日のように俺を慕う人間が何百人とお見舞いに来てくれた。
でも1ヶ月経つと誰も来なくなった。助けた美由紀でさえ来なくなった。
2ヶ月経つと親もチョコチョコしか来なくなった。
これも後で聞いたんだが、美由紀の親父が娘を助けてくれたお礼にと、俺の親に何億か渡したそうだ。そのせいか親の機嫌も良く来る回数も減った。
まあ来ても泣くだけだからいいんだけど。
そして6ヶ月経った頃には俺は3回自殺未遂をしていた。
痛みも何も感じない下半身をハサミで切り裂いて出血多量で死のうとしたり、
喉を斬って死のうとしたり、夜中に階段まで這いずり落ちてみたり。
その度にすぐに治療されて生かされた。
やっぱ病院で、ましてや下半身が利かない状態で自殺するのは無理がある。
気が付くと1年経った。
毎日、毎日・・・。
毎日毎日毎日毎日毎日・・・。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日、
俺はずーっとベッドの上で、上半身だけで生きている。
以前のようにSEXはもちろん、走ったり飛び跳ねたり、当たり前のようにトイレしたり、
何もできない。ご飯も消化器官がイカれてるからたいした物は食えない。
「あの日・・・フレンチを食べるはずだったんだよな・・・」
涙が出る。少しでも以前の幸せを思い出すと涙が出る。
「あれなの?天はニ物を与えた代わりに下半身を奪い取るルールでもあるの?」
気持ちをどこにぶつければいいのか分からなくなる。
「じゃ、じゃあさ・・もういいから・・ニ物は要らないからさ・・・」
少しでも何かにすがりたくなる。
「普通の顔で・・・普通の運動神経でいいからさ・・・」
少しでも希望を持ちたくなる。
「どうか・・・どうか僕の下半身を返してはもらえませんでしょうか・・・」
ベッドの上で叶わない希望を泣きながら神にお願いする。
その願いを神が聞いてくれたのかは分からない。
ただ、そう願って三日後、一人の少年が俺の病室に入院してきた。
でも見た目はとても元気そうな少年だった。
少年の親が俺に挨拶をしてくる。
「この子は空と言います。どうか仲良くしてあげてください」
俺は布団に包まったまま、挨拶してきた少年の親を無視した。
その少年は毎日病院で小学校の勉強をしたり、たまに友達が来てゲームで楽しんだり、入院をする必要がない程に元気だった。
「・・・・・うるせええええええええええええええ!」
ある日俺は少年に叫んだ。
いつものように友達とゲームで楽しそうにする少年を見て心底ムカついたんだ。
そしてこうも言った。
「もうお前・・退院しろよ!元気なんだろ?歩けるし走れるんだろ?頼むから目の前から消えてくれよ!」
その日、少年の母親が少年が騒いだことを俺に謝罪してきたが、俺は布団に包まったまま、謝罪してきた少年の母親を無視した。
そしてその日の夜、消灯時間になり眠ろうと布団に包まった時だった。
少年は俺のベッドの横にやってきてこう言ったんだ・・・。
「僕は・・もうちょっとで死んじゃうんだ・・・」
その言葉の意味が分からなかった。
「・・・ケンカ売ってんのか・・・?」
俺は大人げなく少年に怒りを向ける。
「ううん、違うよ・・・本当なんだ・・・」
「・・・お前・・・元気じゃん・・・」
「今はね」
「歩けるし・・・走れるんだろ?」
「ううん、もう走ったらダメなんだ・・・」
「なんで?」
「走ったらね・・・・心臓が止まっちゃうんだ・・・」
「・・・・」
「友達とゲームをしていいのも今日が最後だったんだ・・・」
「・・・・」
「だからいつもより大きい声で騒いでごめんなさい・・・」
「・・・・」
布団に包まった俺の背中にそう語る少年の言葉を聞き、少年にばれないように俺は泣いた。
次の日、少年の容態が急変し集中治療室に運ばれていった。
看護師に少年の事を聞くと、生まれつき心臓の病で12歳まで生きる事が難しい不治の病だということと、少年が今11歳だという事を知った。
容体が急変したのは昨日騒いだ事で心臓に負担が来たようだ。
それから三日後、少年は息を吹き返し容体も安定して病室に戻ってくることができた。
「お前、空って言うんだろ?」
「うん・・・お兄ちゃんは?」
「俺は誠也っていうんだ」
「誠也にいちゃんだね」
「空はさ、生きてて楽しいのか?」
「うん!楽しいよ!」
「でももうすぐ死ぬんだろ?」
「そうだよ」
「じゃあなんでそんなに楽しめるんだ?怖くないの?」
「怖いよ・・・」
空は下を向き、少し泣いた。
でもすぐに涙をぬぐって笑いながら言ったんだ。
「でもね、だからね、生きている間に少しでも楽しみたいんだ!」
笑顔でそう答える11歳の少年を見て、唐突に自分が情けなくなり、涙が止めどなく溢れ心が痛かった。
「お兄ちゃんはすぐ泣くね!(笑)」
「う、うるせえ!」
「僕ね、もし心臓が治ったらお笑い芸人になりたいんだ!」
「・・・なんで芸人なんだよ・・・カッコ悪いじゃん」
「カッコいいよ!」
「・・・どこがだよ!」
「だって・・・だって怖い気持ちを忘れさえてくれる僕のヒーローだから・・」
「ヒーロー?」
「うん!死んじゃう怖さを消してくれるもん!」
「だからって芸人なりたいと思うか?」
「お母さんもお父さんも僕のせいでいつも泣いてるんだ」
「・・・・・」
「・・・こんな心臓のせいでいつも泣かしちゃってるんだ・・・だから笑わせてあげたい」
「笑わせる?」
「うん、僕を見て泣くんじゃなく笑ってほしい・・・」
空の言葉が俺の心臓を貫いた。
いつからだろうか・・俺を見て皆が哀れんだ表情をするようになったのは・・・。
いつからだろうか・・俺を見る度に隠れて親が泣き始めたのは・・・。
いつからだろうか・・周りの人間の同情に甘えるようになったのは・・・。
空は俺よりも何歳も年下なのに、俺の何倍も立派だった・・・。
それから1週間後、空は死んでしまった・・・。
そして俺も、退院する事になった・・・。
実はいつでも退院できたのだが、世の中に戻る事が怖くて、世の中に同情されるのが辛くて、ずっと退院を先延ばしにしてきた。
でも俺は空のおかげで退院する事を決めれた。
空のようにこんな自分を見て笑ってもらえるように生きたいと思えた。
だから俺は・・・・お笑い芸人になると決めた。
親は反対したが関係ない。
自分の人生、自分が決める。
とは言え、どう芸人なればいいのか分からない俺は、たまたまいたお笑いオタクの知り合いに連絡を取り、色々相談した。
以前の俺なら絶対に付き合いをしないようなオタクだが、そんなプライドは捨て去り、俺は何が何でも芸人になってやると決めていた。
「車椅子漫談ってどうよ?」
オタクの隆は俺にそう提案してきた。
「車椅子でさ、そのまま舞台に上がって漫談するのよ!斬新だと思うよ!」
漫談って難しそう・・・。
そう最初は乗り気ではなかったけど、隆が色々と漫談の動画を送って来てくれて、研究する事にした。
「今度さ、近くの老人ホームでイベントやるらしいんだけど、そこで何か余興をやってくれる素人を募集してるから一回出たら?」
突然のチャンスに胸が躍る!
イベント当日・・・俺は練習した漫談を必死にやった。
お客さんは30人ほどで、ほとんどが老人ホームの利用者である高齢者ばかりだった事もあり、皆ニコニコと聞いてくれたが笑いは殆ど起きなかった。
それどころか望んでいもいない声が聞こえてきた。
「あら~下半身がね~可哀そうに・・・」
「偉いねえ~あんな体でも漫談やるってのは大したもんだ!」
いや・・・そんな言葉が聞きたいんじゃねえんだよ!!!
漫談を終えると俺はすぐに家に帰って物に激しく当たった。
「くそ、くそおおお!!!」
結局俺は哀れみの目で見られていた。
隆が先に帰った俺を心配して家にやってきた。
「なんだ・・・もう諦めるんだ・・・」
「うるせえええ!結局無駄なんだよ!こんな俺の体じゃ誰も笑えないんだよ!」
「お前、本気で言ってんのか?」
「・・・は?」
俺は隆に思いっきり殴られ車椅子ごと横に倒れた。
「ふざけんじゃねえぞお前!いつまで甘えてんだよ!」
「・・・ぃてえな・・俺は下半身が動かねえんだぞ・・・・」
「それだよ!それ!お前は結局同情されてええんだよ!」
「はあ!そんなわけあるか!ふざけんな!」
「じゃあなんでもっと本気で笑いを獲りにいかねえんだよ!なんで自分から体の事いじらねえんだよ!」
「そんな事したら客が引くだろ・・・」
「引かれてもいいだろ!そんでまた轢かれちゃったー!ってボケたらいいだろ!」
「お前に俺の気持ちが分かるのかよ!」
「分かんねえよ!そして客も分かんねえよ!お前は自分の辛い気持ちを分かってほしいのか?気持ちがわかる人間の前じゃないとしないのか?じゃあやめちまえよおおおおお!」
隆は怒鳴り部屋を出ていった。
事故をしてから初めて人に怒られ、殴られた瞬間だった・・・。
「・・・う・・・・ううううう」
俺は久しぶりに平等に扱ってくれた隆に感謝をし、嬉しくて泣いた。
それから5年後・・・・。
いろいろ苦労したが俺は初めてプロの舞台に上がる日がやってきた。
「どうもどうも、世界初の車椅子漫談師、車椅子亭の誠也でございます。あらお客さんたち、もしかして僕の事を可哀そうだとおもってます?逆です逆!見てください!他の芸人たちは皆ちゃんと立って、一生懸命漫才したりコントしてるでしょ?僕はそれを見ててしんどそうだなーと思ってるんですよ。でも私は座ったまま他の芸人と同じギャラが貰える訳ですから・・・なんともラッキーな事か!そう思うでしょ!だからね・・ふざけんなと!座ってる分、他の芸人よりもっと面白い事しろよ!と。厳しい目で見てあげてください!それでね!もしお客さんが思ってるより、面白い事を僕が言ったらその時はね・・・」
「どうか笑ってやってください!」
おわり