もう一度君の笑顔が見たかった
夢を見た。
とても長いようで短い夢、でもそれは現実だった。
もし、やり直せるのなら伝えない。この気持ちを彼女だけには・・・
「ねぇ?どこ行く?」
気が付くと俺は大切な人を失った日に戻っていた。時間は9時ちょうど。駅前だから人が多い。そして、あの日と同じ白いワンピースを着ている彼女がいる。やっと会えた。
「ねぇ、聞いてるの?」
「聞いてるさ。で?なんだっけ?」
「聞いてないじゃん!」
あぁこのやりとりが心地よい。ずっとこの時間が続いてほしい。ずっと彼女と一緒にいたい。そう思うのは俺だけだと知っているからこの気持ちに蓋をする。心の奥の方に隠しておけば自分自身すら傷つかない。
「もう!どこ行く?映画館?水族館もいいな!」
「じゃあ、水族館に行こうか」
「うん!」
あの日も水族館に行った。それで告白して振られて、彼女は走り去っていった。その時、彼女は事故に遭ったんだ。車にはねられて即死だった。だから俺は何もしない。してはいけない。ただ、あの日の彼女の笑顔が忘れられない。もう一度見たいと思ってしまったから。だから今回も水族館に行く。
水族館に着くとすでに多くの人がチケット売り場に並んでいた。あの人同じ、お得だからという理由だけでカップルチケットを買った。彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
中に入ると、彼女は足早に水槽に近づいた。あの日と同じ行動をしている彼女を見ると涙が出そうになる。大丈夫。俺が最後に告白をしなければ彼女は無事だろう。そんなことを考えていると彼女が心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「大丈夫?もう疲れたの?」
「いや、何でもない。綺麗だなって(君に)見惚れてた」
「そっか。魚、綺麗だもんね」
君なんだけどな。と思いながらも「そうだな」と返しておいた。
「なぁ、イルカのショーがあるらしいけど見に行かないか?」
「いいね!見たい!見たい!」
子供のようにはしゃぐ彼女の反応はやはり美しかった。
イルカショーが始まると周りの人と同じように彼女はキャイキャイはしゃぎだした。イルカが同時にジャンプをしたり、ボールを使って飼育員さんとキャッチボールをしたりと、とても盛り上がっていた。一際歓声が大きかったのは飼育員さんがイルカの鼻先で押してもらった勢いでジャンプした時だ。相当な信頼度がないとできない技であると伝わってくる。最後にイルカがヒレを使ってばいばーいと手を振っているようなしぐさをしてショーは終わった。
「楽しかったぁ!また見たいね!」
「そうだな。また見れるといいな」
これは、また一緒に来たいということでいいのだろうか。彼女が今日事故に遭わないのなら、また一緒に来れるだろう。
その後、俺たちは二人で話ながらゆっくりと館内を回った。もうすぐ5時になる。夜にもショーがあるらしいが、前回のこともあり暗くなる前に家に帰らせてあげたい。
「そろそろ帰るか。暗くなってから君に何かあっても困るし」
「そうだね。また今度一緒に来ようね」
嬉しい一言である。これで彼女に何もなければ一緒に来れる可能性が上がる。
水族館を出て、彼女と話しながら歩いていく。話していると時間があっという間だ。もうすぐ彼女と別れなければならない場所だ。
「家まで送っていくよ」
少しでも彼女と一緒に居たくてそう提案していた。
「大丈夫だよ。家、すぐそこだから」
「そうか。気をつけてな」
「うん。ありがとう。楽しかった!また一緒にどこか行こうね!」
そう笑顔で言ってくれた。やはり彼女の笑顔は素敵だ。
「あぁ。またな。次も楽しみしてるよ」
そういって歩き出した直後、背後で大きなブレーキ音が聞こえた。すぐに背後を振り返ると倒れた彼女がいた。
「なんで・・・」
やはり、どこか間違っていたのだろうか。そういう運命なのか。頭の中をぐるぐる回るが、ひとまず、彼女の安否確認と救急車を呼ぶことにした。
すぐに病院で手術が行われた。幸いというべきか、前回と違い彼女は一命をとりとめた。やはり、俺といると彼女は不幸になる。俺がいなければ、彼女は事故に遭わなかったかもしれない。だから、寝ている彼女の横に手紙を置いた。
『さよなら。事故に遭わせてごめん。俺はもう君に会う資格なんてない。いままでありがとう。約束守れなくなった。こんなサイテーな男、恨んでくれて構わないが、できれば俺のことは忘れてくれ。今日は楽しかった。君のことが好きな男より』
俺はそのまま病室を出た。もう君に会わないことを心に誓った。もう二度と彼女に会うことはないだろう。自分で決めたことなのに涙が止まらない。もっと彼女と一緒に笑い合いたかった。さよなら。愛おしい彼女。
あの日、助けたかった彼女はもう助かった。彼女を助けるために戻れた時間と彼女のこれからの人生の代償は彼女との別れだった。彼女が生きているなら小さすぎる代償かもしれないが、俺にとっては大きな代償だ。
これが全て夢ならどんなに良かったことか・・・
ハッピーエンドが見たい方は、アフターストーリーも読んでください。