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子供たちシリーズ

美しく咲く花の子へ

作者: 総督琉

この物語はきっと良いものとなりますように。

「ねえ、天音(あまね)。どうして君はそんなに泣いてるの?」



あの日からあの子のことが頭から離れない。昔一度だけ会った女の子。今の俺と同じ12才だ。


「…え伊東(いとう)。ねえ伊東。伊東。……おいっ!」


せっかく人が恋い焦がれていたのに、邪魔をするな。その言葉は心にしまっておき、平然と聞き返す。


「なに?」


すると詩歌(しいか)が顔を赤くし


「何?じゃないでしょ。人が何度も聞いているんだから、返事くらいしなさい。」

「正論だな。伊東」


「割り込んできておいてなんだその汚い面は?」と言いたい心を抑え謝る。


「それよりなんだったの?」

「来週の修学旅行についてだよ」


三郎が切り出す。相変わらず割り込みが得意だな。


「それで班組むことになったの。入るでしょ」


入らなかったら一人になるし、組んどくか。


「ちなみに誰いるんだ?」


どうせお前ら二人とだろ。俺らみんな、幼稚園の頃からの幼なじみだし。


「それは私、昼川詩歌と三郎。」


だろうなと思いつつ話を続けようとすると、


「僕もいれてくれないかな。」


その声の主はクラス1のイケメンの(りん)だった。さすがに二人共返答に困っていた。こいつら二人のように緊張してるとおもわれたくないので


「何でうちに入りたいんだ?」と強気に出る。


するとイケメンの凜が、


「君達面白いからだよ」と言った。


実際俺達は面白い。そんなことはわかってる。クラス1かっこいいのがお前でも、クラス1面白いのは俺だ。


「へー。」


とりあえず頷いとく。


「別に一人増えるくらい良いだろ。一人分楽しくなると思えば」


いい意見だ。だが俺はそんなに優しくないんだよ。少し図星をついてみるか。


「一人増えるから一人分楽しくなるといっても、一人分つまらなくなるかもしれないんだよ。つまりお前が俺らの輪にはいれるかは、別なんだよ。」


顔をしたに向けたままあげようとしない。少し追い詰めすぎたのだろう。少し反省しよう。


「すまん、いいすぎた。別に俺はいいよ。おまえとは仲良くしたいと思ってる。」


「じゃあいいの」


こんなに微笑ましい笑顔をされると、照れちゃうよ。


「いいよ。お前らもいいよな」

「意義なし」

「ミートゥー」


喋れるんだったら、フォローしろよ。まあだが一件落着ということで、あとで遊ぶか。と思いつつ凜を眺める。確かにクラス1のイケメンだ。


「今日、家来てよ」


こいつがこんなに積極的だったとは、驚きだ。今日は特に用事もないし、ちょうど遊ぼうと思ってたんだ。


「ああ、いこうぜ」


そして俺達は家へ行った。


「嘘だろ」


さすがにこいつがここまでだとは思わなかった。俺達は膝から崩れ落ちた。


「どうだい、僕の家は」


こいつの家は、まるでマンガに出てくるような豪邸で、敷地内に使用人らしき人達が一列に並んでいるではないか。詩歌と三郎も驚きのあまり、声が出ずに硬まっていた。もちろん俺もその一人だ。


「何で誰も喋らないんだ?」


こいつはこれが普通だと思っているのか。


「はやくはいってよ」


凜は困惑しつつも、家に招待してくれた。

家に入っても使用人が迎えてくれた。そして螺旋階段を上がり、凜の部屋に入る。


「何する?」


凜がトランプを持っていた手を少し隠しつつ歩いてきた。俺は世界一気が利く男と呼ばれてるんだよ。


「トランプする?」


凜の方を見ながら言うと、詩歌らも察したのか


「いいよ。トランプ楽しいから」と言った。


その後凜が馬に乗ろうと言ってきた。さすがに無理だと思いつつ、この機会はないと思い馬に乗る。


「気をつけて、死なないようにね」

「えっ、死ぬの」


刹那の時と共に馬が暴れだした。


「あっ、死んだな」


えっ、お前今なんて言った。馬が暴れたまま止まらない。心臓が早鐘を打つ。詩歌らの笑い声が聞こえる。


「凜、止めろ」


そして俺は落馬した。


「ちくしょう。」


それから俺は死ぬ気で練習した。なぜか詩歌らも一緒に練習している。

暗くなり始めた頃、帰路に発つ。


そして修学旅行の日が来た。


「楽しみだな、京都」


興奮を隠しながら、バスに乗り込む。程なくしてバスが出発する。暖かいバスの中で、委員長がクラスを盛り上げる。


2時間後、目的地に着く。


京都タワーがよく見える。その後自由行動となり、詩歌らと共に、京都水族館や建仁寺、清水寺などを訪れた。


その後、八坂神社に着く。


「かわいいね、このハート型の絵馬。」


詩歌はとても興奮しながらも言ってきた。だがハート型の絵馬ってそういうことなんだよな。どう返答しようか迷いつつ、冷静に言葉を返す。


「絵馬って高いところに飾れば、ご利益あるらしいぞ」


すると詩歌はひらめいた顔をし


「じゃあたくさん書こー」と言ってきた。

「詩歌さん、詩歌さん。」


詩歌は何もわからない顔をした。 


「神様は願いひとつしか叶えられないのだよ。そんなに書いたら神様困っちゃうよ。」


正論だと思ったのか、絵馬をしまう。ふと三郎を見ると、お参りをしていた。


それから1分経ち絵馬を書き終わり、飾る。高く飾ったので良いこと起きるかなと思い三郎を見るとお参りをしていた。


「1分くらいふつうか」


凜はというとお守りを買っていた。


5分後、凛と合流し金閣寺に行こうとする。そのため三郎を見る。


三郎は "お参りをしていた"。


10分後、三郎はお参りをしていた。

20分後、並んでいる人に殴られていた。

30分後、戻ってきた。


「金閣寺いこうぜ」


三郎はぼこぼこの顔でそう言った。少しかわいそうだと思ったが、仕方ないと思った。


そして金閣寺に着いた。金閣寺は…凄かった。さすが金箔20万枚使っているだけはあると心の底から思った。


「ん?」


今確かにいた。人が。


「どーした」


詩歌が聞いてきた。だがさすがに人がいたとは言えず、なんでもないよと答えた。


「金閣寺の中ってはいれるの?」


分かりきった事だが聞いてみる。


「はいれるわけないでしょ」


詩歌は何でみたいな顔をしてた。そうこうしてるうちに日が落ち、辺りが暗くなり始めた。


「帰ろーぜ」


ホテルに着いた。騒がしい。近くにいたやつに聞いてみる。


北島(きたじま)が女子風呂覗いて捕まってる。」

黒谷(くろたに)も捕まった。」


全く覗きとは、恥ずかしくないのか。


そして22時となり、就寝する。


「若丸君。起きて、起きて。」


目覚めた。辺りを見渡したが、声の主が見当たらない。詩歌も三郎も凜も寝ている。眠ろうとまぶたを閉じるが、眠れない。

カーテンを開けて外を見ると、小さな女の子がいた。僕と同じ12歳だろうか。何でこんな時間にと思いよく見ると、手招きをしていた。


すると脳内に、


「金閣寺きて」と聞こえた。

「テレパシー?だがロマンがあるな。」


行ってみる価値はあると思った。それに……いや、今は急ごう。部屋の外をドア越しに見る。見回りの教師がいる。


「敵は一人か」

「ああ、そうだ」


っておい。起きてたのか。


「私だけじゃない。凜も三郎も起きてるよ」

「夜中の脱獄、面白そう。」


凜はとてもたのしそうだ。だがこいつらに頼むのもいいかもしれない。


「お前ら、頼みがある」


凜はとてもワクワクしていて、詩歌は少し心配そう。三郎は無表情。だがやるしかない。


「今から金閣寺に行く。ついてこれるか?」


三人とも同時に


「「「了解」」」と宣言した。


楽しくなってきたじゃねーか。教師対生徒。勝ってやるよ。俺達が、


「チーム名は"脱獄団"だ。」


さすが三郎、すぐ思い付くな。


「これを」


凜が渡してくれた。謎の腕時計。


「これは通信機能がある。」


スゲーな。さすが金持ち。


「それよりどうする。あの教師」

「任せろ」


凜のこの自信はなんだろう。


金持ちの力(スキル)金を操作する(コントロールマネー)


かっこいいな。さすがイケメン。だがただの一万円札だろ。金で交渉しに行くのか。


金を操作する機械(マネーコントローラー)


背負ってるリュックの中から謎のコントローラーをだした。コントローラーをいじったら一万円札が動き出した。そのまま一万円札が教師の方へいく。教師が拾うとすると、避ける。また拾おうとする。避ける。それを繰り返す。


その隙に三階に下がる。階段までの道に教師が4人


「どうする」


詩歌が心配そうにしていた。さすがに金を操作する(コントロールマネー)は使えないのか困っていた。だがきっと凜には秘策があるのだろうと信じ、託した。


「みんな、これをつけてくれ」


ゴーグルを渡された。とりあえずつける。何をするんだろうとひやひやしながらも、期待してしまう。


金持ちの力(スキル)火事かもしれない(ファイヤースモーク)


周囲に煙が撒き散らされる。教師達が混乱する。


「行くぞ、今だ」


俺達は一斉に階段に向かって走り出す。二階にまで煙が撒き散らされている。このまま一階に行く。一階には二人の警備員がいる。


「警備員はまずいんじゃねーか」


警備員に変なことをすれば、ただじゃ済まない。これは諦めるしかないと思った。だが彼は進む。


「お前ら、来い。金持ちの力をみせてやる」


困惑しつつも、俺達は凜を信じる。


「お前ら、とまれ」

「この私を誰か分かっているのか?」


警備員達は固唾を飲む。


「私は桃俵(ももだわら)財閥の御曹司 桃俵凜だ」


警備員達は桃俵財閥に雇われてるらしく、すんなり通してくれた。案外楽だった。ここからは森を抜けるだけだ。だが道は長い。1時間かかっても着かない距離だ。


「みんな安心しろ、」


またしても凜君だ。俺も金持ちの家に生まれてきたかった。


金持ちの力(スキル)膨らむ風船車(バナナボート)。みんな膨らませるぞ」


今まですごいとおもってたのに。まあこういうのあってもいいかも。


10分後 やっと終わったよ。


どんだけでかいんだよ。これなら先が思いやられる。


「いくぞ」


そこまで速くないと確信していたのだが、しっかり捕まってないと落ちるくらいの速さだ。30分ほどで金閣寺に着いた。金閣寺の周りには、警備員がウジャウジャいる。こいつらに桃俵家の権力が通用するかはわからない。下手したら捕まるかもしれない。(おの)ずと動きは制限される。


「どうすればいい」


別に見ず知らずの女の子なんだ。だからいかなくても…


「お前がここまで来たのは理由があるんだろ。行かせてやる」


いくら凜が金持ちだからって無理だ。


「さすがにお前でも無理だ。」


そりゃそうだ。金閣寺は日本の宝だ。巨大な財閥の御曹司でもいれるはずがない。


「楽しかったよ。またな」


凜は笑顔で警備員のもとへ行った。


「見せてやる。僕の最後の生き様ってやつを。金持ちの力(スキル)死なない弾丸(BBガン)


凜はBB弾銃を取り出して、警備員に向けて打つ。もちろん警備員は追いかける。


…凜


その隙に金閣寺に入る。だが警備員が戻ってきた。やはり無理だった。凜が犠牲になる必要なんて……


「ねー、伊東。」


詩歌が何か覚悟を決めた顔をする。


「まさか…お前…」

「あんた、決めたんだろ。なら私たちの人生すらも越えていけ」


…詩歌


「やるときが来たな。じゃあな、伊東」


…三郎


お前らがいないで、どう生きろって言うんだよ。


「凜、お前が桃俵財閥の御曹司だって知ったときは、驚いたよ。」


お前には驚かされてばっかだよ。


「詩歌、お前はとにかく明るかった。俺らのムードメーカーだったんだ。」


お前がいればいつでも楽しかった


「三郎、お前はすごいしゃべるから、うるさかった」


そのうるささが心地よかったよ。


俺は金閣寺の上階へ向かう。何で彼女を追いかけるのか。だってもしかしたら、天音。君かもしれない。だから会いたい。でも傲慢過ぎたよ。…俺は。


やがて上階へ着く。


「遅かったな」


やっぱりお前だったんだな。


「久しいな、若丸」


ああ2年ぶりだ。


「なぜなにもしゃべらぬのだ?」


話したい。でも無理なんだ。


「なぜ、泣いているのだ」


もっと普通に会いたかった。…友を失いたくなかった。


「すまぬな、友を守れず。」


俺の身勝手で人生をどぶに捨てさせたんだ。


「ほんとにすまん」


だからもっと普通に会いたかった。道で偶然ばったり会いたかった。そしたら俺がお前を見つけて、それで昔話をして…それで…それで…。俺はそれを期待していたんだ。でも…現実は…


「なえ、若丸」


なんだ。


「久しぶりに空でも飛ばない。」


懐かしいな。


「そういえば…お前、超能力者なんだよな。」


うまく出た言葉。今から話し合うんだ。それがあいつらへの…


「来て」


だけど一つ謎があったんだ。


「何でお前…ここにいるんだ」


天音は少し顔を下げて、悲しい顔をした。


「私、国に言われて今…ここに…いる」


それなら納得だ。警備員がウジャウジャいるのはそのせいか。それに天音は超能力を持ってるんだ。それを政府が利用してるんだろうな。


「すまないな」


あの頃、泣かせてしまった。


「いいよ。会えたんだか」


天音は複雑に微笑んだ。


「逃げよう、天音。一緒に」


それ以外に思い付かないんだよ、お前を救う方法が。


「…」


本来はもっと長い沈黙なのだろう。だが短く感じてしまう。俺らの年では厳しいことが何個もおきているんだ。


"俺達は弱い"


だから悩み続ける。苦しい。あいつらは怖いのだろう。いや、怖いはずだ。でも俺達のために、身代わりになってくれた。


ありがとう。


「私は救いたい」


天音は決心したのだろう。止めるわけにはいかない。


「救ってくれ。……あいつらは………仲間なんだ。」


半ば諦めていた。


「応答せよ。脱獄団」


凜から貰った腕時計から凜の声がした。


「よかった。捕まってなくて」


凜が無事で、つい安堵のため息を吐く。


「あいつらは無事か?」


とにかく詩歌達が無事か気になった。


「連絡しているのだが、応答してくれない」


なぜだ?捕まったのか?考えれば考えるほど不安がつのる。とにかく連絡してみる。この腕時計は一斉通信らしいから、聞こえてるはずだ。


「おい、詩歌、三郎。今すぐ助けてやるから、場所を教えろ」


一か八かだ。警備員が近くにいたら終わりだろう。だけどこのままあいつらをほっときたくない。


だから…


「私たちは今、警備員に捕まってクルマに乗せられてる。多分だけどさっきバナナボートで通った道の途中にいる」


そうか


「はやく…助けて」


待ってたよ。さすがお前らだ。お前らの勇気に感謝する。


「今すぐ助けてやるから、安心して待っとけ」


出来る限りのことはやる。救ってやるよ、脱獄団のこの若丸が!


「天音、瞬間移動できるか?」


天音は少し困った顔をした。つまり出来ないのだろう。


「じゃあ、馬出せるか」


詩歌はまた困った顔をした。


「じゃあ」と切り出そうとしたその一瞬を天音が遮る。

「本物の馬は出せないけど、記憶から馬をだせるよ。」


まさかの答えだった。だが、いまは刹那の時さえ無駄に出来ない。


「頼んだ」

「分かった」


なぜか天音は少し顔を火照らせ、空中に指を走らせ文字を書く。程なくして馬が現れる。さすがは天音だ。心の中で天音を褒めながらも、言葉にはせず驚いたふうに装う。その後颯爽(さっそう)と馬に乗る。


「いくぞ、天音」


天音はなぜか、さっきよりも顔を火照らせていた。


「うん」


照れながらも、小さく返事をしてくれた。魔法を使うのは恥ずかしいのか?

そんなことを思いながらも先を急ぐ。


「凜の家で鍛えた馬術を見ろ」と言わんばかりのテクニックを見せつける。


警備員を蹴散らしながら、詩歌らを追いかけるの。


「おい若丸。俺はどうすればいい?」


凜のことをすっかり忘れてしまっていた。聞くことも無いので居場所を聞く。


「僕は今、金閣寺の池の中にいる」


また金持ちの力(スキル)かとおもいつつ、こっちに来るよう指示した。


「了解。おい、詩歌達が右に曲がったぞ。」

「何でわかるんだ?」


まあ察しているんだがな。


「君たちの腕時計全てにGPSを組み込まさせてもらった」


だろうなと思いつつも先を急ぐ。


「また右に曲がったぞ」

「ありがとう」


詩歌らを追うため、右に曲がる。右は森だから、時折木にぶつかりそうになるも、ギリギリで避ける。


「少しくらいな。」


天音はまた空中に文字を書く。すると俺達の周りに光が灯る。


「明るいな」


心の中で天音に感謝する。やがて車が見えてくる。やっと追い付いた。


「光を消せ。天音」


すると光が消えていく。あいつらがこちらに気付いた様子はない。


「いける」

「ありがとうな、天音。お前のおかげであいつらを守れそうだ」


天音が少し微笑んだ。すると気が抜けたのか、馬が消える。


「すまない」


天音は目を潤ませ、謝ってきた。


「なあ、天音。ここまで来れたのはお前のおかげだ。だから悔やむ事はない。誇っても良いくらいだ。ありがとう」


だからここからは俺一人でやる。確実に追い付けないだろう。でも諦めたくない。救うって言ったんだから、最後までやりきるんだ。そのため立ち上がった。


するとすかさず天音も立ち上がり、俺の手を掴んできた。何をするのか困惑しつつも、天音の手を握り返す。

天音は顔を火照らせつつも空中に文字を刻む。


「おーーーーい」


いきなり天音が叫ぶ。周りを見渡すと


「さっきと景色が違う」


さらにクルマも見える。


「もう一回やるから、ちゃんと捕まってて」


まさか瞬間移動できたのか。起こった状況に混乱しつつも、天音を信じる。再び天音が叫ぶと、追っていたクルマの中にいた。運転手はビックリしてクルマを木にぶつける。その隙にクルマから出る。


「なあ、この後どうすればいい」


詩歌は悩んでいる顔をした。俺も同じだ。こんなことをしているんだ。心の中で何度も葛藤と更新の繰り返し。きっとみんなそうだろう。だからみんな表情が暗い。だんだん何も考えられなくなってくる。


「このまま終わるのだろうか」


そんなことを思ってしまう。分からない。わかりたいのに分からない。だれもが発することをやめた。


きっと誰もが苦労する。そんな世界でぼくらは生きてる。ずいぶんと苦しい世界だな。このまま終わるのがいいのだろうか。


「なー、お前ら。一つ提案がある。」


詩歌らは難しい表情を浮かべる。


「結局戻れないんだ。だから始めよう。俺達で新世界を作ろうよ」

「子供の発想にしては怖すぎだろ」


自分でもそう思った。これでいいのかと思っている。でも分からない。世界の時間を戻さない限りは無理なんだ。それが俺達の選んだ道。だからとまれない。人の思いは止まらない。


だから……だから…………これで…いい


「言い訳ないでしょ」


心の声を遮ったのは天音だった。さすがだ。心の声まで見えるのか。でも仕方ないだろ。これしかないんだ。


「泣いてるよ。若丸の心」


そんなわけない


「頑張ったよ、若丸は。私を救ってくれた。」


救えてない。何一つ救えてない。


「救ってくれた。金閣寺に閉じ込められてた私を、外に出してくれた」


そんなんで言い訳ない。天音は…


「天音は自由に生きたいと思わないの?もっと自由に生きようよ」


なぜかまぶたから雫が降り落ちた。


「それが若丸の心だよ。」


何で俺は泣いている?救いたかった。天音の英雄になりたかった。でも救えない。弱い俺じゃ。


「強くなりたい」

「いいよ、もう。私はもう十分だよ。」


天音。お前も泣いてるじゃねーか。きっともう楽しい日々(日常)に戻れない。


「分かってる。だから戻すの、時を。」


やめてくれ。そんなことしたら、お前はきっと


「そうかもな」


何で笑っていられるんだよ。せっかく会えたんだ。もっと一緒にいたいよ。


「ごめんな」


これでさよならなのか。天音は指で空中に文字を刻む。


「好きだよ、若丸」


世界が光に包まれた。


最後に天音は泣いていた。



「ねえ、天音(あまね)。どうして君はそんなに泣いてるの?」



彼らは巡り会えたのか。

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