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中編:頼もしきお供達。犬猿雉

 悪逆非道の鬼。その住処……鬼ヶ島。桃太郎はその地を目指して旅を続けます。

 立ち寄る村々で人助けをしては目的である鬼の打倒を口にしていた桃太郎。彼は応援には快く応じ、悪態には笑顔で流しました。様々な言葉を掛けられても、桃太郎は鬼ヶ島を目指すのを止めるつもりは欠片も無いのですから。


 そんな道中のことです。桃太郎の前に姿を見せたのものが居ました。


「お待ち下され桃太郎殿」

「何奴」

「私は犬でございます」

「お前は人であろう」


 桃太郎は目の前で道の上に膝を着いて頭を下げる自らを犬と呼ぶ人物を見下ろします。


「犬は渾名でございます。なにぶん首輪を付けるのが好きでして」

「そんな物で首を絞めると苦しいぞ」

「……くぅうんっ……」

「なんだこいつ」


 桃太郎は生まれて初めて見る変態(窒息趣味)に戸惑います。しかし頭を下げてまで自分を引き留めているのだから大事な用が有るのだろうと犬の話しを訊いてやることにしました。


「して、劣生に何用か」

「実は私、桃太郎殿の鬼退治に御同行させて頂きたく」

「何。お前がか?」


 桃太郎は驚きます。これまでの道中様々な人に出会いましたが鬼退治にお供したいと申し出てくる者は一切居なかったからです。それだけ鬼と戦うのはゲニ怖ろしいことだったのです。

 犬は地に擦り付けていた額を上げて桃太郎へ申し出ます。


「私に……はぁはぁ……その……くっ……御腰に付けた……はぁあ……きび団子を下されば……鬼と戦う貴殿の手先となりましょう!」


 犬はゲニ(マジ)危うい(ヤバイ)目をしていた。


「戯けがッ!!」

「あひぃいんっ」


 桃太郎、犬を顔面殴打。

 只人なら桃太郎が犬を殴った理由を、嫌らしい目を腰部に向けられた悪寒から咄嗟に手が出てしまったと考えるだろう。……しかしこれは誤解である。


「お前はッ!! 団子一つで命を賭けると申すかッ!? そのような軽き考えで鬼と戦うなど言語道断ッ!! お前をそこまで育ててくれた父母に申し訳無いとは思わんのかッ!!」

「ッ!?」


 桃太郎は激怒していた。犬の言葉に。その自分の命を軽んじているような言動に。


「この先に待ち受ける鬼との戦いは地獄ッ!! 軟弱な気持ちでは共に歩くことはおろか立つことすらままならぬぞッ!! ()()ねぇええいッ!!」


 犬の申し出は素直に嬉しく思う。しかし覚悟が伴わない者を連れて行くほど桃太郎は無慈悲ではない。

 これは桃太郎の思い遣りなのである。


「も、桃太郎殿っ……!」


 その気持ち、犬に通じた。犬は殴られた頬のかいか……痛みすら忘れて感涙する。


「私が間違っていました! ―――桃太郎殿! 私は貴方様と共に悪い鬼を懲らしめたい! ですから何卒! この私を桃太郎殿の(家来)にして下され!!」


 嘘偽り無い、真の言葉。


「……あいわかったお前の覚悟。ならば劣生と共に参れ……犬よッ!!」

「御意!」


 こうして桃太郎は頼もしい変態()をお供にして鬼ヶ島へ向かう道に戻りました。


「劣生は酒が呑めん。故に盃代わりにきび団子を交わそう」


 桃太郎はお腰に付けたきび団子を一つ取り出すと半分にし、片方を犬に渡します。


「……できれば桃太郎殿の囓りかけが……げふんげふん。……有り難く頂戴します」


 犬は恭しくきび団子を受け取ると、桃太郎と共に食します。


「旨しッ!」

「くぅうん」


 桃太郎はきび団子に舌鼓を打ち、犬は気管に詰まらせます。

 そうして元気になった2人は意気揚々と旅路を行くのでした。




 ◆◆◆




 逆非道の鬼。その住処……鬼ヶ島。桃太郎と犬はその地を目指して旅を続けます。

 立ち寄る村々で人助けをしては目的である鬼の打倒を口にしていた桃太郎と犬。彼等は応援には快く応じ、悪態には笑顔で流しました。様々な言葉を掛けられても、桃太郎は鬼ヶ島を目指すのを止めるつもりは欠片も無いのですから。


 そんな道中のことです。桃太郎と犬の前に姿を見せたのものが居ました。


「ちょっとお待ちよそこなお二人さん」

「何奴」

「自分は猿さ」

「お前は人であろう」


 桃太郎は道脇に生える木の上に腰掛け自らを猿と呼ぶ者を見上げます。


「猿は渾名さ。なにぶんまっぱで山を駆けるのが好きでね」

「病に罹るぞ」

「今も脱ぎたい」

「なんだこいつ」


 桃太郎は初めて見る特性の変態(露出趣味)に戸惑います。しかし自分を引き留めているのだから大事な用が有るのだろうと猿の話しを訊いてやることにしました。


「して、劣生に何用か」

「実は自分、桃太郎の鬼退治に着いて行きたいんだ」

「何。お前がか?」


 桃太郎は驚きます。これまでの道中様々な人に出会いましたが鬼退治にお供したいと申し出てくる者はこの隣で細い首に縄巻いた犬以外居なかったからです。それだけ鬼と戦うのはゲニ怖ろしいことだったのです。

 猿は服を(はだ)けながら木の上から桃太郎へ申し出ます。


(ちまた)じゃあ……へへへ……裸になったらしょっ引かれるけどよ……悪い鬼の前なら関係ねえだろ……だから自分を鬼退治に……」


 猿はゲニ(マジ)危うい(ヤバイ)目をしていた。


「うつけがッ!!」

「げふぅうっ」


 桃太郎、猿を腹部殴打。

 只人なら桃太郎が猿を殴った理由を、往来で全裸になりたがる気色悪さから咄嗟に手が出てしまったと考えるだろう。……しかしこれは誤解である。


「お前はッ!! 服を脱ぎたいという理由だけで命を賭けると申すかッ!? そのような軽き考えで鬼と戦うなど言語道断ッ!! お前をそこまで育ててくれた父母に申し訳無いとは思わんのかッ!!」

「ッ!?」


 桃太郎は激怒していた。猿の言葉に。その自分の命を軽んじているような言動に。


「この先に待ち受ける鬼との戦いは地獄ッ!! 軟弱な気持ちでは共に歩くことはおろか立つことすらままならぬぞッ!! ()()ねぇええいッ!!」


 猿の申し出は素直に嬉しく思う。しかし覚悟が伴わない者を連れて行くほど桃太郎は無慈悲ではない。

 これは桃太郎の思い遣りなのである。


「も、桃太郎っ……!」


 その気持ち、猿に通じた。猿は殴られた腹の疼き(キュン)……痛みすら忘れて感涙する。


「自分が間違ってた! ―――桃太郎! 自分はあんたと共に悪い鬼を懲らしめたい! だからどうか! この自分を桃太郎の(子分)にしてくれ!!」


 嘘偽り無い、真の言葉。


「……あいわかったお前の覚悟。ならば劣生と共に参れ……猿よッ!!」

「応!」


 こうして桃太郎は頼もしい変態()をお供にして鬼ヶ島へ向かう道に戻りました。


「劣生は酒が呑めん。故に盃代わりにきび団子を交わそう」


 桃太郎はお腰に付けたきび団子を一つ取り出すと半分にし、片方を猿に渡します。


「……できれば桃太郎が舐めた物が……げふんげふん。……有り難く頂くぜ」


 猿は恭しくきび団子を受け取ると、桃太郎と共に食します。


「旨しッ!」

「むぅう」


 桃太郎はきび団子に舌鼓を打ち、猿は桃太郎の肉体美に見惚れる。

 そうして元気になった3人は意気揚々と旅路を行くのでした。




 ◆◆◆



 悪逆非道の鬼。その住処……鬼ヶ島。桃太郎と犬と猿はその地を目指して旅を続けます。

 立ち寄る村々で人助けをしては目的である鬼の打倒を口にしていた桃太郎と犬と猿。彼等は応援には快く応じ、悪態には笑顔で流しました。様々な言葉を掛けられても、桃太郎と犬と猿は鬼ヶ島を目指すのを止めるつもりは欠片も無いのですから。


 そんな道中のことです。桃太郎と犬と猿の前に姿を見せたのものが居ました。


「お待ち下さいそこのお三方」

「何奴」

「私は雉でございます」

「お前は人であろう」


 桃太郎は道端の岩に腰掛けて自らを雉と呼ぶ人物を見ます。


「雉は渾名でございます。なにぶん悪口が過ぎた(雉も鳴かずば)物で村八分(打たれまい)に……」

「他者を貶すのは感心せんな」

「……とにかく虐めたい……」

「なんだこいつ」


 桃太郎は初めて見る特性の変態(加虐趣味)に戸惑います。しかし自分を引き留めているのだから大事な用が有るのだろうと雉の話しを訊いてやることにしました。


「して、劣生に何用か」

「実は私、桃太郎様の鬼退治に御一緒させてもらいたく」

「何。お前がか?」


 桃太郎は驚きます。これまでの道中様々な人に出会いましたが鬼退治にお供したいと申し出てくる者は犬と猿以外居なかったからです。それだけ鬼と戦うのはゲニ怖ろしいことだったのです。

 雉は岩から腰を上げると桃太郎へ申し出ます。


「鬼っ……悪者っ……つまり合法的に悪口を言える……ふひ……さあ、この私を貴方様の鬼退治のお供に!」


 雉はゲニ(マジ)危うい(ヤバイ)目をしていた。


洒落臭(しゃらくさ)いッ!!」

「ぴぎっ」


 桃太郎、雉を頭部殴打。

 只人なら桃太郎が雉を殴った理由を、捻くれた性根に嫌悪を感じて咄嗟に手が出てしまったと考えるだろう。……しかしこれは誤解である。


「お前はッ!! 罵りたいだけで命を賭けると申すかッ!? そのような軽き考えで鬼と戦うなど言語道断ッ!! お前をそこまで育ててくれた父母に申し訳無いとは思わんのかッ!!」

「ッ!?」


 桃太郎は激怒していた。雉の言葉に。その自分の命を軽んじているような言動に。


「この先に待ち受ける鬼との戦いは地獄ッ!! 軟弱な気持ちでは共に歩くことはおろか立つことすらままならぬぞッ!! ()()ねぇええいッ!!」


 雉の申し出は素直に嬉しく思う。しかし覚悟が伴わない者を連れて行くほど桃太郎は無慈悲ではない。

 これは桃太郎の思い遣りなのである。


「も、桃太郎様っ……!」


 その気持ち、雉に通じた。雉は殴られて頭のネジが嵌まっ……痛みすら忘れて感涙する。


「私が間違っていました! ―――桃太郎様! 私は貴方様と共に悪い鬼を虐めたい! ですから何卒! この私を桃太郎殿の(下僕)にして下さい!!」


 嘘偽り無い、真の言葉。


「……あいわかったお前の覚悟。ならば劣生と共に参れ……雉よッ!!」

「仰せのまま!」


 こうして桃太郎は頼もしい変態()をお供にして鬼ヶ島へ向かう道に戻りました。


「劣生は酒が呑めん。故に盃代わりにきび団子を交わそう」


 桃太郎はお腰に付けたきび団子を一つ取り出すと半分にし、片方を雉に渡します。


「……できれば桃太郎様が手ずから食べさせ……げふんげふん。……有り難く頂戴します」


 雉は恭しくきび団子を受け取ると、桃太郎と共に食します。


「旨しッ!」

「むむむ」


 桃太郎はきび団子に舌鼓を打ち、雉はまた桃太郎に怒鳴られたいと考える。

 そうして元気になった4人は意気揚々と旅路を行くのでした。




 ◆◆◆




 悪逆非道の鬼。その住処……鬼ヶ島。桃太郎と犬猿雉はその地を目指して旅を続けます。


「桃太郎殿。ちょっとこの首紐をですね……ギュッと引っ張って欲しいと」

「よし。脱ごう。おい桃太郎も脱ごうぜぇ……人目もそんなにねえし」

「この救えぬ変態共め。こんなのが下僕仲間とは。……ああ仲間にひどい口を利いてしまいましたっ。叱って下さい桃太郎様!」


 賑やかなお供。


「馬鹿者共がッ!!」


 桃太郎はそんな犬猿雉を畳返しで吹き飛ばします。

 ※(『畳返し』とは地面の表層を畳の如く引っ剥がして投げ捨てる攻防一体の技。窮地を脱する為に過去の武人が開発した技であり、その技の源名は『祟身(たたみ)(がえ)し』であるのは余りにも有名)


「ぎゃぁああああ!?」


 天地をひっくり返され吹き飛ばされた犬猿雉は土砂に埋もれました。

 しかし直ぐに這い出てきて顔を出しました。


「ぜ、全身が締め付けられるのも……また良しっ」

「服が汚れたら脱がねえとなっ。仕方ねえもんなっ」

「口汚い私が身も汚れる……ふひっ」


 桃太郎のお供は逞しかった。


「むう! 今ので堪えない頑強さ、ゲニ心強しッ! お前達の武勇を期待しているぞッ!」


 桃太郎一行は最後の旅程……海向こうの鬼ヶ島を目前にいただくまでになっていました。


「船が要る。……お前達、当てはあるか?」


 桃太郎は犬猿雉に尋ねます。しかし誰も船の当てはありません。


「ならば近場の漁師に頼むか」


 桃太郎はこの近くに住む漁師と交渉し、無事に一隻の船を借り受けることに成功する。


「―――借りれた」

「流石桃太郎殿!」

「兄貴は頼れるぜ!」

「その威圧は伊達ではないですね」


 口々に褒める犬猿雉。しかし桃太郎は渋い顔をする。


「船は借りれたが……―――借り元の漁師とその家が煙のように消えた」


 運良く出会えた漁師の男。その者に船を貸してもらえないか桃太郎が頼んだところ快く承諾。……しかしその後、桃太郎に渡した船を残して忽然と消えた。全て消えた。


 怪奇現象である。


「なにそれこわい」

「ゆゆゆゆ幽霊とか有り得ねえしっ?」

「――――――」


 犬猿怯え、雉失神。これから鬼退治をする者共が幽霊の類いを怖がるのはすごい滑稽(いとおかし)

 しかしその3人と違って桃太郎は別のことで頭を悩ませていました。


「困った。これでは礼を出来ん」


 この発言には流石の犬猿雉(へんたい)もびっくら仰天。桃太郎は船を借りた返礼のことで渋い顔をしていたのです。桃太郎は霊の類いが一切恐くない男だった。


「……仕方が無い。また会える機会が在れば、その時に改めて礼をしよう」


 いくら考えても仕方が無い。お爺さんとお婆さんも「細かいことは気にするな」という有り難い言葉を遺してくれている。だから桃太郎は目的に集中することにし、船に乗り込んだ。


「流石桃太郎殿!」

「兄貴は頼れるぜ!」

「その威圧は伊達ではないですね」


 恐怖が八割膝に来ていた犬猿雉は桃太郎に縋り付くように続けて船へ乗り込んだ。桃太郎は全員が揃ったのを確認すると目的地を見据える。


「待っていろ鬼共。劣生と頼もしい供がお前達を成敗してくれる」


 目指すは鬼ヶ島。悪鬼の巣窟。

 いざ出航なり。

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