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どうしても渡したい
今日は男の人気が露になる日。などと言われているが、俺には関係無い。
新作ケーキを開発するために、最近は毎日チョコを口にしている。
従業員の女の子達も同様なので、さすがに食べ過ぎて飽きたのだろう。
今年はバレンタインのやりとり自体が自然消滅していた。
仕事が終わり、1人の女の子に家に誘われた。
夕飯にカレーを食べ、雑談をし、帰り際に玄関まで見送られる。
先輩、気付きましたか?
女の子が俺に、何かを求めて質問してきた。
何のことだ?
何について訊かれているのかすら分からない。
もう、やっぱり気付いてなかったんですね。でも、分からないように工夫した甲斐があったとも言えます。ちゃんと渡せて良かったです。
女の子の言葉には主語が無い。
何について言っているんだ? 渡せた……? 分からないように工夫した……?
…………あぁ、なるほど。
そこまで考えて俺は理解した。
なので、女の子が求めているであろうセリフを言う。
お返しは期待してくれてもいいぞ。
分かりました!
明るい笑顔で返事をされた。
どうやら当たりだったらしい。
俺は自室に戻り、先ほどの食事を思い返した。
そのままでは食べ飽きているからと、カレーの隠し味にチョコを入れたのだろう。
女の子の心遣いと強かさに感服し、カレンダーの3月14日に印を付けた。