第7話
ゴールデンウィーク3日目の4月29日、月曜日。
私――――苫前ののかは朝からとてもイライラしています。
イライラの原因は言うまでもなく、2週間前からお試しで交際している年下の男の子・北見佑。本人は30歳であることを自称していますが、見た目はどう見ても高校1年生のそれ。泣き虫だし。
その佑がここ2日ほど、メッセを送っても返事をしてこない。既読すらつかず未読スルーしていやがります。
ん? 未読だからスルーという言い方は適切ではないかも・・・?
ともあれ理由ははっきりしています。
先日、佑に昔の恋人を紹介しました。
紹介というより説明に近いかもしれません。
きっとそれが理由。タイミングもばっちり。
私は私が『忘却現象』と名付けたくそったれな現象と共同生活しています。他の人から私に関わる記憶がなくなるというものです。それも毎日。
私がだれかと遊ぶ約束をしても、相手は翌日になると私と話したことはおろか、私の存在そのものを忘れてしまう。ただし完全に忘れるわけではなく、『だれかと話した気がするけどだれとなにを話したのか思い出せない』という状態になるのです。皮肉なことに身をもってそのことは検証済みです。
私の存在が朧げになるというか。
とにかくその神のいたずらのごとき現象のせいで、私にとって友だちや恋人は『だった人たち』となってしまいました。
おそらく佑は『自分はその人たちの代わりだ』とでも思ったのでしょう。
なぜなら佑は私のことを忘れないから。私が知る限り唯一私のことを忘れない――――『忘却現象』の影響を受けない存在。
それゆえに代わり。
佑は佑だというのに。まったくバカな男の子です。
※※※
「北見くんなら、連休中は家に帰るって言って出て行ったよ」
男子寮にある佑の部屋を訪ねると、彼のルームメイトである中標津和真がそう教えてくれました。
帰省? そんな話はされていません。
仮にも恋人である私になにも言わずに帰るとはいい度胸ですね。
「佑の家、知ってる?」
「うーん。北見くん、あんまり自分のこと話さないからね」
「そう。ありがとうございます」
私は機械的にお礼の言葉を口にすると、1階にある管理室へ向かいました。
寮母である梓さんならなにか知っている。そう思って。
「北見くんのご実家の住所が知りたい?」
「はい。お願いします」
「うーん。そう言われてもねぇ」
佑の恋人であることを明かしたうえで頼み込んでみたのですけれど、やはりというべきか、個人情報は教えてくれないみたいです。
「あ、えっとね。教えられないのは立場上そうなんだけど、実は私も北見くんのことはよくわからないのよ~」
梓さんは普段どおりののほほんとした口調でそう口にした。
「なんかね、気がついたら入寮することになってて・・・ごめんね」
「いえ。失礼しました」
男子寮に背を向ける。
そういえば、佑は基礎力診断テストの結果が散々でしたね。
あれで入学試験を突破したのなら驚きです。
もしかしたら彼は本当に30歳なのかもしれない。
入寮の件といい不可解な部分が多すぎます。
だとすると実家ではなく、本来住んでいた自宅へ帰ったということになるのでしょうか。たぶん高校生になる以前は独り暮らしだったろうし。
そもそも佑の両親が彼の高校生化と無関係だと仮定した場合、高校生になった息子を見て素直に受け入れるとは思えませんよね。
どちらにせよ、彼の居場所を特定するのは不可能。
私はゴールデンウィークが明けるのを待つほかありませんでした。
※※※
5月7日の火曜日。連休明け最初の登校日の朝。
佑の部屋を訪ねるために男子寮へ入ったところで、彼のルームメイトである中標津和真が階段を下ってくるのが視界に映りました。
彼は女子である私を一瞥するも、すぐに前を向いて私の横を通り過ぎていきます。
「すいません」
そんな和真に声をかける。
和真は振り返り、辺りを見回してから私に向き直りました。
「おれですか?」
「はい。佑のルームメイトの方ですよね?」
わざとらしくそう尋ねる。
和真の記憶では私とは初対面なのです。
「ゆう・・・? ああ、北見くんですか」
「はい。ゴールデンウィーク中は帰省すると聞いたのですが、帰ってきましたか?」
「いえ。それがまだなんですよね。もしかしたら今日は休むのかもしれません」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえ」
まだ帰っていない・・・帰ってくるつもりはないということ・・・?
佑は高校生として生活していく必要がない。
実年齢は30歳とのことなので、仕事もしていたでしょうから、成績が悪かろうと留年しようと関係ありません。
「佑・・・」
※※※
5月10日、金曜日の放課後。
結局今週は佑とは出会えなかった。メッセも未読のまま。
「・・・・・・」
心が、チクチクと痛む。
この感覚は、以前にも経験したことがあった。
『忘却現象』が起きていると気づき始めた頃。友だちにも、恋人にも忘れられて、ひとりぼっちで悲しみに明け暮れていた遠い日の記憶――――。
笑いあいたいのに・・・一緒にクレープを食べに行きたいのに・・・手を繋ぎたいのに・・・それはもう二度と叶わないのだと悟ってしまった。
近くにいるはずなのに、手の届かない場所へと行ってしまったのだと。
――――あいつのことは忘れろ
「うるさい・・・」
たまに脳に直接 囁きかけてくる悪魔のような声。
くぐもっているというか、ボイスチェンジャーでも使っているかのような声。
その声が、私に話しかけてきました。
――――おまえも言っていたじゃないか。あいつは異端な存在だと
「静かにして・・・」
そう――――たしかに彼は私にとって異端な存在。
私がこれまで出会うことのなかった男の子。
――――どうせあいつもおまえのことを忘れてしまったのさ
「黙って・・・」
そんなことはない。
彼はいつか私のことを、私との思い出を忘れてしまうかもしれないけど・・・何日経っても忘れていなかった。
だからきっと、忘れるのは今じゃない・・・。
――――あいつはおまえの日常を脅かす危険な男だ。向こうから去ったのなら、これを機に関わるのはやめたほうがいい
佑はそんな人じゃない。
『忘却現象』に気付いて、受けいれてくれて。記憶を取り戻す手助けをしてくれると約束した。なんとかしたいって、そう言ってくれた。
――――仮におまえの言う『忘却現象』が起きなくなったとして、その後はどうする? あいつが気がついたのは『忘却現象』のことだけだろう? また、同じことを繰り返すつもりかい?
忘れられるのも、同じことを繰り返すのも、もう慣れっこ。
どうせ死ぬに死ねないのだから、仮に佑が私に危害を加える人間だったとしても、一縷の望みにかけてみてもいいではありませんか。
――――おまえが思い出せないと言っていた記憶――――その記憶を思い出すことになるかもしれないぞ? その記憶が楽しいものという保証がないではないか
「・・・・・・」
私には『ある日』の記憶が欠如している。
とある年の3月31日の記憶が・・・。
どうしてそのことを認識できているのか説明するのはやぶさかではないのですが、それを説明するためには佑が気付いていない――――というか気付けるはずのない『忘却現象』とは別に私の身に起こっているもうひとつの現象について説明する必要があるのです。
「人は恐ろしい記憶ほど忘れたいと願うものですからね」
――――そうさ。きっとそれは、思い出す必要のないおそろしい記憶だ。なんならいっそ、忘れたままでいたほうがおまえのためになるやもしれん
「・・・珍しく、私のことを気遣ってくれるのですね」
――――言葉の綾さ。私がおまえを気遣ってるって? 自意識過剰さね
この声は、私の心の弱さが生んだ幻聴なのかもしれない。
この声が聞こえるのは、決まってそういった時だったから。
その声が私を気遣っている。
悪魔の囁きだと思っていた声が・・・。
「こんにちは。苫前ののかさん」
「・・・・・・?」
不意に私の名を呼ぶ声が正面から聞こえてきました。
そこは女子寮の入口。
悪魔と対話していて気がつきませんでしたが、寮の前まで着いていたらしいです。
そんなことより・・・。
「だれですか」
私の名を呼んだのは、見知らぬ制服を着た同い年くらいの男の子。
私の記憶にはない、佑と同じく会ったことのない存在。
「突然ですが、ボクは未来からやってきました」
「・・・・・・」
頭のおかしな人でした。
「・・・・・・」
と思いたかったのですが、以前佑が未来人と会ったと言っていたのを憶えていたので、彼が次に言葉を発するのを沈黙という形で待ちました。
「ボクはあなたが置かれている状況を知っています」
「・・・・・・」
「あなたの正体と、あなたが抱えているふたつの現象がなんなのか・・・そしてなぜそんな現象が起こっているのか。もちろん、これからなにが起こるのかも・・・ボクは知っています」
「・・・・・・」
未来人を名乗る彼の言葉に、しかし私は驚きませんでした。
未来からきたのだから、それを知っていても不思議はない。
私の名前を知って――――憶えていたのも、同様の理由で説明がつきます。
「佑をけしかけたのは、あなた・・・?」
佑が高校生としての日常を送っているのには理由がある。
自称未来人に『ある女性を助けてほしい』と頼まれたから――――その女性というのが、どうやら私のことであるらしいのです。
「けしかけたなんて酷い。ボクは『ある人』に頼まれたことをこなしただけですよ」
この未来人は佑が出会った人物と同一の人物で間違いなさそうですね。
ある人・・・。
未来で私と関わりのある人物ということ・・・?
――――こいつの話には耳をかたむけるな
また声がした。
今日の悪魔はずいぶんとおしゃべりなようです。
「私になにか御用ですか」
でも悪魔の声は無視する。
人前でひとりごちるほど間抜けではないつもりなのです。
「はい。あなたに渡したいものがあります。受け取ってもらえますか?」
そう言って彼は胸ポケットからB5サイズの封筒を取り出し、私に差し出してきました。
「ラブレターなら間に合ってます」
「未来からのラブレターです」
冗談を冗談で返されてしまいました。
あるいは時を超える配達業者なのかもしれません。
なんて素敵な職業が未来にはあるのでしょうか。
私、その会社に就職したいです。
「・・・・・・」
冗談を払拭して無言で受け取る。
「ありがとうございます。それから、助言をひとつよろしいですか?」
「勝手にしてください」
「過去を思い出すことをおそれないでください。あなたはひとりではありません」
「・・・・・・」
「それだけです。それでは、またどこかで」
「・・・・・・」
未来人はそれだけ言うと、いずこかへと歩いて行ってしまいました。
――――過去を思い出す必要なんてない
私が忘れている、3月31日の記憶・・・。
そこに、すべての原因がある――――そんなことはとうに気付いています。
その記憶を思い出したい反面、怖いと怯える私がいるのもまた事実。
もし思い出したら、私はどうなってしまうのでしょう・・・。
そんなことを考えつつも、未来人から受け取った封筒を開いてみます。
「・・・カギ?」
入っていたのは、ひとつのカギと、折りたたまれた小さなメモ用紙。
メモ用紙には、どこかの部屋の住所が書かれていました。
「・・・・・・」
未来人の少年が現れたタイミングから推測するに、これはおそらく佑の自宅の住所。
――――行かないほうがいい。乱●パーティの会場かもしれないぞ
大丈夫。彼は私の知らない人物。
危ないことなんてない。
それに、彼が未来から来たのなら、私がそこへ行くことでなにかが変わるということ。
――――好転するとは限らない
そうですね。
でも・・・それでも私は、くそったれな現象を終わらせることができるかもしれないチャンスを、逃したくない。
ふたつの現象が神のいたずらなら、佑は神に抗うためのキーパーソン。
「・・・・・・」
手に持ったカギを見つめる。
キーパーソン。
上手いこと言った気がするのですがどうでしょう。
――――それ、私に訊いてるわけじゃないだろうね?
※※※
小泉市にある唯一のJRの駅。そこから電車でおよそ25分、みっつ隣にある人口1万人強の町――――星空市へと私は降り立ちました。
人口が限りなく3桁に近い小泉市と比べるとやはり都会で、有名な大型温泉施設なんかもあったはずです。
スマホを取り出してナビアプリを起動させます。
温泉施設の位置を確認するわけではもちろんありません。それはまた別の機会にしましょう。
佑の部屋――――と思われる住所へ凸するのです。
「よし」
そう意気込んだところで、何者かに肩を叩かれました。
「ねぇ」
「・・・?」
振り返ると、小泉高校の制服を着たツインテールの女子生徒――――名前はたしか伊達瑞希。数週間前、佑を取り合ってちょっとした言い合いになった相手が、そこにいました。
あれを『言い合い』と見るかどうかは個人の解釈に任せるところとして。
『忘却現象』の〝おかげ〟というべきか〝せい〟というべきか、彼女にはその時の記憶はありません。
そもそも彼女目線では私とは初対面なのです。
「なんですか」
なぜ彼女がここにいるのか。なぜ私に声をかけたのか。
疑問はいろいろありますが平静な声で返します。
「あなた・・・うちの生徒、ですよね・・・?」
「そうですが」
彼女と同じく私が着ているものも小泉高校の制服。
というかここしばらく、寝るとき以外は常に制服を着用しているのです。もちろん洗濯はしていますよ。
「こんな時間に、こんなところで・・・なに、しているんですか・・・?」
「こんな時間・・・?」
まだ陽は落ちていません。
念のためスマホで時刻を確認してみましたが、午後5時を過ぎたばかりです。
こんな時間というにはいささか早い気がします。中学生じゃあるまいし。
「というかそれ、ブーメランですよ」
「わ、私は、塾がこっちなので・・・」
そう言った彼女の手には、カバンのひとつも握られていませんでした。完全に手ぶらです。手ブラじゃありませんよ。
「・・・・・・」
私の記憶がたしかなら、瑞希は素行の悪い子ではなかったはずです。
バレバレな嘘をついた理由はわからないけど、なにか人には言えない事情があるのかもしれません。私のように。
「困っているのなら、話を聞いてあげてもいいかなと思うのですが」
そう言ったのは私です。
「え?」
「困っているのではないのですか? だから見ず知らずの私に声をかけたのでは?」
「べ、別に見ず知らずってわけでもないと思います・・・同じ学校ですし、気がつかなかっただけで、どこかですれ違っていたかもしれませんし」
「それはそうですね」
すれ違っていたどころか少しとはいえ佑の部屋で話した仲です――――と言うわけにもいかず。
「でも、困っているかもしれない・・・です」
かもしれない・・・妙な言い回し。
でも、私にもそういった経験があります。
他人に指摘されて初めて『そうかも』と思うことが、多々ありました。
「では話してください」
「え、ここで・・・ですか・・・?」
現在地は駅の真ん前。人の往来は少ないですが、それでも立ち話をするような場所ではありません。
「すみません。急いでいるので、長くなるようでしたら日を改めてお訊きすることになります」
自分から言いだしたくせに勝手なこと言ってるという自覚はあります。
それに、日付が変わるといま私と話している記憶を彼女は忘れてしまう。
そのことを理解しているうえで私がそう言うのは、いま優先すべきなのは佑だから。その一点に限ります。
「北見クンのところへ、行くんですか・・・?」
「え・・・?」
北見くん――――どうしてここで、佑の名前が・・・?
私が佑の知り合いであることを、彼女は忘れているはずなのに・・・。
「北見くんとは、どなたのことでしょう」
とぼける。
「あ、そうですよね・・・なんだか、あなたと北見クンが、一緒にお弁当を食べていた気がして・・・」
「・・・・・・」
たしかに、学食で何度か手作り弁当を披露しています。
その結果、朧げに私のことを憶えている――――そういうことでしょうか?
でも、おかしい・・・。
彼女にとってそれは『北見クンがだれかとお弁当を食べている』という記憶になるはずです。
その『だれか』が私であると思い出すことはできません。
たとえば朝の出席で、名簿には私の名前がありますよね。でもそれを見た先生は『苫前ののか』という生徒がどの生徒か、どんな顔をしていて、どんな声で挨拶をしていたか、思い出すことができないのです。なんとなく『そんな名前の生徒いたかも?』と思って終わります。名簿と生徒の顔を見比べれば消去法で『あの子が苫前ののかかな?』と思うことはできても、私が挨拶をした後だとしても『そういえばあの子が苫前ののかだったな』と断定するまでには至りません。
つまり、顔を見ただけでは『だれか』=『苫前ののか』にはならない。
佑が「いつも一緒にご飯食べてる」と私の隣で紹介していたなら話は変わってきますが。
「どうして、そんな気がしたのですか?」
朧気でも憶えている可能性――――原因があるとすれば、それはきっと、異端な存在である佑が影響している。
私の目の前に突然現れて、私のことを忘れることのない、自らを30歳と言う男の子。
彼曰く、私のことを救ってくれるとかなんとか。
「あなたは、神を信じていますか?」
「え?」
質問したのはこっちなのに、質問で返された挙句佑みたいなことを訊いてきました。
神――――瑞希は私を宗教にでも勧誘するつもりでしょうか。
「いるかもしれない、とは思っています。崇めるつもりはさらさらありませんが」
ふたつの『現象』の原因が3月31日にあるにしたって、こんなクソみたいな『現象』を引き起こせる存在は神かそれに準ずる存在くらいだと思っています。
「神はいますよ」
「あなたが神を信じるのは勝手ですが、それを私に押し付けるのはやめてください」
「失礼しました。でもおそらく、私の知る『神』と、あなたが思う『神』は違う存在かと思います」
「そうなんですね。勉強になります」
正直まったく興味をそそられないので、適当に返しておきました。
「それより、私の質問に答えてください。私と佑が一緒にお弁当を食べていた――――なぜ、そんな気がしたのですか?」
「そう言われても・・・なんとなくそんな気がしただけですので・・・」
「なんとなくですか」
やはり、はっきりと憶えているわけではないようですね・・・。
でも、もしも本当に佑がキーパーソンとなっているのなら、佑が不登校を続けているこの状況は打破しなければいけません。
「では、急いでいるので失礼します」
私は瑞希にそう告げて、佑の部屋への一歩を踏みだ――――そうとして、瑞希に腕を掴まれ制止されてしまいました。
「話なら後日聞くと言ったはずですが」
「北見クンは、あなたを悲しませてしまう」
「・・・・・・」
なにを思ったのか、瑞希はそんなことを言ってきました。
彼女が未だに佑のことを好きなのであれば、私に佑を盗られまい――――そういった思惑があっての言葉なのだと・・・そう納得しようと思いましたが、なにかが引っ掛かりました。
「・・・どうして、佑といると、私は悲しむのですか」
『私といると佑が悲しむ』ではなく『佑といると私が悲しむ』――――好きな人を想っての言葉だとすると、言い回しが真逆なのです。
「思い出したくない過去を、思い出してしまうからです」
「・・・・・・」
瑞希は、なにを言っているの・・・?
どうして、なにか――――私の過去を知っているような、そんな言い方をしているの・・・?
「瑞希・・・私の名前は、言えますか・・・?」
おそるおそる、そう尋ねる。
「もちろんです」
瑞希は頷くと、はっきりとした口調で、
「苫前ののかさん」
と。私の名前を口にしました。
――第8話へ続く――