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第七話





 星宮さんと校門を出る。

 雨は既に上がっており、少し寒さを感じる。

 当然、お互いに通っているのが同じ中学校なので、帰り道が大体同じ。

 要するに、一緒に帰る理由も無ければ、距離を置いて帰る理由もないわけで……。

 当然、俺は星宮さんの意向に合わせるつもりでしたよ?だからこうして二人並んで帰ることも不可抗力ということにして頂きたい……。


 とにかく、何か話さなきゃ。


「あ、あのさ……」

「う、うん?何?」


 さっきまで普段通り話せていたのに、折り畳み傘を返してもらった時のように、会話がぎこちない。

 

「そのブレスレット、綺麗だなぁって思って……」

「あ、これ?これは、お守りみたいなものなの」


 星宮さんは、左手首にはめたブレスレットを大事そうに撫でる。


「お守り?」

「うん、これ、パワーストーンなんだよ〜!」

「へぇ〜! なんていうパワーストーンなの?」

「こっちの黄緑色のが、クソリプレーズって言って、精神を安定させる効果があるの!」

「そっか! じゃあ、こっちのピンク色?はなんていうの?」

「ロードクロサイト。日本だと、インカローズって呼ばれることが多いみたい」


 星宮さんは、人差し指を立てて得意げに言った。


「効果はどんなの?」

「ロードクロサイトは持ち主の活力アップだよ!」

「精神安定と活力アップかぁ〜、なるほどねー!」

「私、結構緊張しやすいから、この組み合わせだと心を落ち着けつつ自分の力を100%出せるように、ってこの組み合わせにしたんだよ!」


 確かに、会ったばかりの星宮さんを想像すると会話も少しぎこちなかったし、緊張していたのだと思う。それを抑制するためのブレスレットだったのだと、今になって思う。

 本当に見つけられて良かった〜!


「……それでね、なんかこれがないとソワソワしちゃってさ、それで戻ってきちゃったんだー」


 困り笑顔でこちらを向く。

 並んで歩いているのだが、それ以上にその表情の距離が近い気がした。


「そっか、大事なものなんだね。見つけられて良かった」

「あ、でも、どうして私がブレスレットを探してるって、わかったの?」

「えっとね……」


 正直に言うと気持ち悪るがられるかも……。そんな気がした。

 そもそも探した根拠なんて一つもなかった訳で……。

 それでも結果的に思った通り、星宮さんのだったし上手い誤魔化しも思いつかないから、正直に言うか……。


「いや、別に根拠はなかったんだけど…初めて星宮さんに会った時とか、傘を返して貰った時とかさ、その時にブレスレットが視界に入って……」


 言葉を区切り、星宮さんを見やると、目を丸くしながら続きを促していた。


「それと、星宮さんはよく手を組むからさ、初めて会った時とか、委員会紹介の時とか……そのこととブレスレットが何か関係があるのかなぁと思ってさ……そして、今日の放課後、傘を渡す時にブレスレットをしてないことに気づいたんだ。ひょっとしたら昼休みに外していて、気づかないうちにどこかに落としたんじゃないかって」

「すごいっ! 名探偵だね!」


 種明かし前の懸念とは違って内心ほっとする。


「でも、本当にたまたまだよ!もし、ただブレスレットをつけていないだけで、ちゃんと持っていたかもしれないし! だとしたら、俺はびしょ濡れ損だからね!?」

「何それ〜!」


 星宮さんが笑ってくれた!

 クスクスと笑い終わった後に、星宮さんは偽りのない、いやこれが偽りだとしても誰もが騙されるであろう声で言った。


「本当にありがとう。全部、黒瀬くんのおかげだよっ!」


 そうして、星宮さんは胸のあたりで左手首を右手でつかんだ。


「私ね、こうしてブレスレットに触れて、一回深呼吸をすると落ち着くの……」


 すぐに委員会紹介の場面が頭に再生される。

 あの時、最初は俯いていた。その俯きに隠れたところで深呼吸をしていたのだろうか。

 そして深呼吸の前までは、緊張で強張った表情がそこにあったのかもしれない。


「あ、私、こっちだから」


 色々考えを巡らせるうちに、別れるところまで来たようだ。


「おう、それじゃ…ハッ、ハクシュンっ!」

「大丈夫!?」


 そういえば、雨で濡れて服がそのままでしたね……。


「あ、明日黒瀬くんが休んだら、私、ノート取っておくから!」


 その言葉でもう、今熱でました。もう、思春期はこれだから困る……。


「ごめん、じゃあお願いするわ!」

「うん、それじゃあ」

「気をつけてね」

「黒瀬くんもね!」


 手をふりあい、別々の道を歩き出す。

 歩きながら、今日の出来事を振り返る。

 そして、あることに気づいてしまう。


「手……初めて握っちゃったなぁ……」


 その夜は、自分で気持ち悪いとわかっていても、その手を洗わず床についた。

 その時だけは、思春期だからとわかっていても、否定する気にはなれなかった。


 願いむなしく、俺は次の日も元気に登校した。

 俺の中の思春期によって、マイナスな気分になりたくなかったので、風邪を引かなかったのは星宮さんが心配してくれたからと、勝手に思うことにした。

 俺の中の思春期も、これで納得いくだろ。全く……。

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