91 土木工事
「昨日はありがとうございました。」
そういって、フェル達は、翌朝・・・といってももう昼に近い時刻に、肉屋のサムの店にオークを一頭渡しに行った。
皆それだけの働きを皆してくれているし、実質無報酬となってしまうのは忍びないというのが、メンバー全員の総意だった。
サムは、驚くがありがたく受け取っていた。
ちゃんと捌き、管理をすれば数週間は仕入れがいらなくなる量である。
もちろん、孤児院やグラコへの提供も約束してくれている。
その後、村長の家で工事の打ち合わせを行った。
村の外周の壁を作る場所、開口部の場所などを確認していく。
井戸や洗濯場など日常不可欠な場所の他、たっての頼みで家畜小屋を含める。
その大きさは、想定以上に大きい。
人的被害はなくとも、家畜は狙われやすいのだ。人にも野生動物にも。
「フェル。大丈夫か?」
「うーん。こないだの井戸よりもちょっと大きいぐらいしか掘ったことがないからなんとも・・・」
ウェンツが問うが、フェルにしてもやってみないと何とも言えない。
「ティルク?どう?」
「さぁ。。。」
ティルクもわからないようだし、やってみるしかないだろう。
なにしろ、働くのはフェルというよりティルクなのだから。
・・・
「じゃぁ、やってみますか。」
ウェンツが、あらかじめ壁を作るところに線を引く
そこを中心にフェルが転送をかけて、土を掻き出しそのまま土塁として村側に積み上げる。
その積みあがった土にクリスとカティアが水をかけギル達がスコップで押し固める。
すると、空堀ができ、2メートル近い落差の壁ができる。
1m進めるのに、大体2回の転送なので、フェルの方はかなり早く進む。
大体1時間に50m程度の土を掻き出し壁を作り上げる。
1日で大体一辺の壁ができる計算だ。
「今日は、これぐらいにしておくか。」
夕暮れ前に、ウェンツが声をかける。
まだ1辺は終わっていないが、そこまで急ぐ必要があるわけではない。
かなりの長さの土塁が積みあがっている。
「もう、こんなに壁が出来ているのか」
村長が驚くのも無理はない。普通であれば1週間はかかる作業がわずか半日で終わったのだから。
「さすがに疲れました。」
「そうね・・。私達もくたくただわ。」
「今日は、グラコさんの店で飯を食って早めに寝よう。明日は早めに始めるぞ。」
そういうと、皆でグラコの店に向かう。
店は、流石の御馳走のあとに外食する者は少ないらしく空いていた。
グラコは、フェル達をみるやいなや寄ってきて、肉のお礼を言い出す。
どうやら、サムからかなりの量を貰ったらしい。
「今日は、俺のおごりだ。好きなものを頼んでくれ。」
「いや、昨日のイベントで客が少ないんじゃないのか。いいのかそんなことをして。」
「なに、逆に数日もすれば、いつもよりも客が来るぐらいになる。感謝祭の時もそうだしな。
それに、あれだけ肉を貰えば、十分ペイするさ。」
「そういうことなら、遠慮せずにもらうかな。今日はかなり働いたしな。」
そういうと、ピザやスープなどの料理を頼んでいく。
野菜と村で獲れたチーズがふんだんに使われている。
今回の土塁建築は、このチーズの安定供給にも一役買いそうだ。
「これは・・・うまい。昨日の肉もうまかったが、このピザはエルアで食べたのよりもうまい。」
「まぁ、獲れたての野菜を使うからな。」
クリスなどは特にピザを気に入ったようで、大きく頬張る。
それほどまでに、新鮮な食材でつくられた食事はうまかった。
・・・
「ふう・・・。流石に今日は疲れたよ。ティルクは大丈夫?」
夜に、宿屋の前のベンチに座りながら、フェルはいつものようにティルクと話をする。
旅の途中では自分の部屋などはもてないので、どうしても会話が減る。
普段でも時々は話すことはあるが、周りから見ればひとりごとなので、長くは話せないのだ。
「うーん。私は平気よ。むしろ楽しいぐらい。でも、フェルはかなりしんどかったんじゃない?」
「うん。」
そういって、しばらく考えてからティルクに聞く。
「ねぇ、”転送”ってティルクがしてくれてるんだよね?」
「ええ。そうよ。妖精の家に物を飛ばしたり出したりしてるわね。」
「でも、今日は僕凄く疲れたし、後半は1回転送するごとに、何か力が抜ける感じがしたんだけど・・・。」
「ああ。言ってなかったっけ?
私だけじゃなくて、妖精や精霊が力を使う時って、フェルの力を使うのよ。
だって、転送とかも、いちいち指示されるっていうより、フェルがとりたいものを取れるし、出したいものを出したいタイミングで出せるでしょ?」
「いわれてみれば・・・」
「まぁ、岩落としみたいなやつは、私が出口の場所を調整するけど、出すのはあくまでフェルでしょ。
あれは、いわゆる魔法とは原理が違うだけど、似たようなものなのよ。フェルの力を使って、フェルが命令してるの。」
「うーん。よくわからないんだけど、するとティルクの力じゃないってこと?」
「うーん。上手に説明できないけど、術をそのものは私なの。たとえば、シルヴェストルの風の矢や風の幕なんかも、フェルは術の効果は知っていてもどうしたらそうなるかは知らないでしょ?でも、フェルが依頼をしたら、シルヴェストルはフェルの力を使って術を使うのよ。その時に、フェルのしてほしいイメージをちゃんと読み取るから、的なんかをいちいち指定したりしないでしょ?
カティアとかの使う魔法っていうのは、その効果や的なんかをすべてマナに命じるの。
それはイメージであったり言葉であったり。そのマナの代わりにフェルは精霊に依頼をするのよ。」
「なんか・・・わかったようなわからないような・・・。」
「気をつけて。疲れるのは私じゃなくて、フェルなの。転送は1回1回は消費が少ないけど、これだけやれば力の感覚がわかるのね。まぁ、今回の壁づくりもいい訓練になるわ。」




