89 森には魔物が住んでいる3
「行ってくれたか・・・。」
最初に安堵の声を上げたのは、ギルであった。
もちろん、いざとなれば戦うのだが、連戦になるうえ、決して楽な相手ではない。
魔石も魅力ではあるが、無理をしてまで手に入れるものではないと思っている。
小熊といっても、十分に森の中で生きていけるサイズであるし、生半可なハンターでは逆に餌となりかねない凶暴な相手である。
「フェル。まるごと回収できるか?」
ウェンツも一応は聞くが、どうやらもうフェルの収納の容量については、大分慣れてきたようだ。
フェルも頷くと同時に、赤毛熊を収納する。
それを確認すると、すばやく撤収の指示を出す。
ここは血の臭いがしすぎる。
その匂いを嗅いで、いつまた獰猛な魔物が現れるか知れないのだ。
今回の目的は、十分に達成している。少しでも余力があるうちに撤退するのがハンターの心得なのだ。
もっとも、ニースはまたもや武器を失っているし、カティアの魔力も尽きかけだから、余力があるというのは語弊かもしれないが。
「フェル、強くなったね~。」
クリスは腕を後ろ手にしながら軽くいうが、これは本心だ。
クリス達が試験であってネール達が倒した赤毛熊は今回の子熊に近いサイズだった。
ニースの祝福の効果があったし、クロスボウの一撃やニースの槍も効いていただろう。
だけれども、とどめを刺したのは、間違いなくフェルの剣である。
ネールの訓練というか特訓は、かなりの厳しさなのだが、それをフェルは文句ひとついわずにこなす。
ただ、ひたすら剣を振ったり、休みなく攻めたり、ひたすらかわしたりといった基本的なことが多いがその量が尋常ではないのだ。
「いや、実際大したものだ。その年と経験でここまでやれるとはな」
ウェンツとギルも褒めるが、こちらは内心、少し焦りもある。
フェルは、ニースの攻撃のあとに、あのタイミングで盾も持たずに赤毛熊に飛び込み仕留めてしまった。
ハンターランクは二人の方が上だが、技量ではもしかしたら、フェルの方がもう上かもしれない。
そう思えるような動きだった。
本来、フェルは収納が出来るだけでハンターとしての価値があるといってもいい。
どちらかといわれれば、全力で守る価値のあるメンバーといってもいい。
そのメンバーの方が腕がたつとなれば、先輩ハンターとして立つ瀬がない。
ちょっと、訓練依頼を受けようかと思うウェンツとギルであった。
ニースは、オークの持っていた槍をフェルから受け取る。
赤毛熊に刺した槍は残念ながら曲がって使い物にならなくなっていた。
それだけの硬さがあるのだ。
「ちょっと、フェル君に予備の槍を持ってもらった方がよさそうね。」
ニースの使う槍は、その筋肉量から柄の太いものではなく、軽く鋭い突くことに特化したものである。
そのため、普段では問題ないが、今回のような強敵相手では、折れたり曲がったりしやすいのだ。
とはいっても、何本も槍を持ち歩くという事は現実的ではなかった。今までは。
「それぐらいなら、お安い御用です。僕たちの生存確率もそれであがりますし。」
パーティーでは、弱点を作らないことが全体の生存確率をあげる。
ニースに限らず、余裕があれば予備の装備を持っておこうとフェルは考えていた。
・・・
「疲れた〜」
村に戻ったメンバーは、すぐにでも宿で横になりたかったが、流石にそうもいかない。
返り血などにまみれた姿は、あきらかに村では浮いていたからだ。
「な・・なにかあったのか?」
村人があわてて聞いてくるが、ウェンツが軽く説明をする。
井戸の近くで、血を洗い流すと、村長の家に向かった。
オークの肉を提供するためだ。孤児院だけでは1頭分消費するのも一苦労だろう。
今回はさらに肉は余裕がある。
そのため折角なので、世話になった人にも振舞いたいという。
フェル達にしても、うまい飯は嬉しいし、捌くのは大変なので、手伝ってもらえる人が多い方がありがたい。それには、村長に話をするのが一番だ。
「村長。オークを狩ってきた。
孤児院の連中はもちろん、皆に肉を御馳走するから料理ができるやつを手配してくれ。」
「なんと。お前さん方も立派になったな。孤児院の子供たちも喜ぶじゃろう。儂らは良いからそちらに回してやってくれ。」
「いや、かなりの量があるからな。孤児院だけじゃ消費できないさ。
それに、俺達はお世話になった皆に食べてもらいたいのさ。なので、明日の昼にでも広場を開放してほしい。で、俺達だけじゃ、準備が間に合わんからな。」
「そうか。それはありがたい。では、何人か手配しよう。あと、芋も用意したほうがいいか。」
「ああ、頼む。」
「では、肉屋のサムの所に行って手伝ってもらうといい。
最近は、肉の入荷がうまくいっておらんみたいだから、塊一つでも渡せば喜んで引き受けてくれるだろうよ。」
・・・・
「オークが手に入ったのか。ああ、1ブロックもらえるだけで、喜んで手伝うさ。」
「正直助かる。明日振舞ったあと、孤児院に渡す分以外は、サムさんのところでかまわない。」
「で、オークはどこだ?」
サムは、荷車を探すが、どこにも見当たらない。
「フェル。とりあえず2頭たのむ。」
フェルが、店の前にオークを2頭”転送”する。
「おい・・・今どこから出した??。しかも2頭もか!」
「魔法の一種だ。まぁ、とりあえず2頭 捌けるか?」
「ああ。明日の昼までだな。十分だ。それよりも本当に、余った分はもらっていいのか?かなりの量がとれると思うが・・・。」
「ああ。そのかわり、味付けなどもしてもらえると助かる。そのまま焼くだけの状態にしてくれ。」
「それはまかせておけ。いい宣伝になるしな。」
「明日は、パーティーね。」
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