88 森には魔物が住んでいる2
「いくよ!!」
クリスの号令と共に、戦局が動く。
「ドリュアデス、奥の奴の足を止めて!」
フェルが叫ぶと、地面の蔦がからまり、赤毛熊の足にまとわりつく。
赤毛熊には大した効果はないのはわかっているが、赤毛熊の意識がそちらにいけば十分である。
同時に攻撃されるのを避け、各個撃破できる体制をとることが大事なのだ。
クロスボウが赤毛熊の前足に半分ほど刺さる。
強靭な筋肉に阻まれて血がながれてはいるが、おそらく軽傷だ
しかし、痛みを感じたか、傷つけられたことに怒ったかは定かではないが、2足で立ち上がり大きく吠えた。その姿は、実際の体長以上に大きくそして力強く感じる。
だが、逆にそれは腹を見せることにもつながっており、一瞬の隙となる。
その赤毛熊の腹に向けて祝福<ブレス>の効果をうけたニースの槍が深々と刺さる。
赤毛熊の筋肉は、女性のあつかうような槍でそうそう傷つくようなものではない。
驚きと怒りの色が赤毛熊に浮かび、そのまま右腕を力いっぱい振り下ろす。
ニースは、躊躇せずに槍を離すと盾で身を守りつつ素早く倒れ転がるようにして赤毛熊の前から離脱する。その上を赤毛熊の太い腕が空を切った。
その脇側から赤毛熊の心臓めがけてフェルは剣を突き出す。
フェルの刺した剣は、赤毛熊の毛皮に深々と刺さる。
そして、フェルはそのまま剣を引き絞るように回しながら引き抜く。
すると、胸から大量の血が噴き出す。
流石にこれには、大きな叫び声があがる。
試験の時には、強靭な筋肉に阻まれて心臓には届かなかったが、今回は深々と刺さっている。
即死こそしていないが、致命傷に近いだろう。
フェルの成長か祝福<ブレス>の効果か。
その両方だろう。
確実に、フェルはハンターとして成長をしていた。
「フェル!右」
子熊と思われる赤毛熊が迫りくる。
「大丈夫。」
フェルは、剣で空を切り、赤毛熊を牽制しながら後ろに下がった。
「下がるぞ。」
ウェンツが的確に指示をする。
手負いの獣ほど危険なものはない。
既に親の方にはかなりのダメージを与えており、動きが鈍っている。
しかし、一撃でも貰えばこちらも致命傷を貰いかねない。それだけの力を持っているのだ。
少し離れて、弱るのを待つのが賢明だ。
子熊もこちらを襲ってくるよりも親熊を守るかのように間にはいり、こちらを牽制しながらも親熊の傷をなめる。
「悪いな。こちらも命がけなんでな。」
ギルが、慎重に剣を構えながらもつぶやいた。
赤毛熊に人間の言葉がわかるわけはないし、殺さなければ殺される可能性すらある。
だが、親子の絆とその親の命を奪うということは、魔物といえ思うところがあるのか。
ニースは、予備の剣を抜き備える。
「”岩石落とし”をもう一度かけます。」
今度は、親熊の2m近く上にティルクを向かわせる。
動きが鈍った今ならば、その距離からでも当てることが出来る。
そして、高い位置から落とせばそれだけ威力があがるのだ。
「行くよ」
赤毛熊の親2mほど上から松岩が落ちる。
ただ単に落ちるだけで岩だが、その威力はすさまじく、赤毛熊の腰にあたるとバキッという大きな音をあげる。熊の背骨が折れた音だ。
子熊は、何が起きたかわからず、ビクッと大きく跳ね跳ぶぶ。
そして、親熊はクゥーンという鳴き声をあげるとともに、痙攣をしはじめる。
まだ生きているが、眼に生気はもうない。流血量も多いうえ、背骨が折れて動けないのだろう。
とどめを刺してやるべき状態なのだが、今はそうはいかない。
「あとは、子熊だな。」
「このまま去ってくれれば良いのだけれど。」
「それを決めるのは、俺達じゃないさ。気を抜くなよ。」
クリスがクロスボウに矢をつがえて構える。
逃がしてやるというような立場ではない。むしろ逃げてくれるならば助かるという状態なのだ。
「カティア。あとどれぐらい持つ?」
「5分ぐらいかしら。そこまで持たないわよ。」
オークの時にも使用しているのだから、魔力量にも限界はある。
しかし、今祝福<ブレス>の効果を切るわけにはいかない。
急に襲われたときに対応が出来ないからだ。
しばらくにらみ合いが続くが、終わりの時は必ず来る。
親熊の血だまりがどんどん広がり、痙攣が激しくなる。
親熊は最後に小さく鳴くと眼を閉じた。
それを見た子熊は、最後に親熊の顔をひとなめし、そのまま森の奥へと帰っていった。
本能が死を悟り、そしてフェル達がこれ以上襲ってこないことから去ることを選択したようだった。
赤毛熊が、森の奥へ去っていくのを最後まで見送りながら複雑な表情を浮かべるウェンツ達であった。
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