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僕は、魔法が使えない。  作者: アーシェス
72/106

72 ネール

「やっぱり、ちょっと勘が鈍ったんじゃないか?」

そういいながら、ネールはフェルの斬撃を木剣で易々といなす。

態度は余裕だが、時々ヒヤッとするような一撃を出すことがあるので油断はできない。

練習用の木剣だし、致命傷になるようなことはまずないが、やはりまだ一撃をもらうのは先輩としての矜持が許さない。


ネールは、元々腕利きのCランクハンターである。

ある事故に巻き込まれて、片目を失明して引退をしたが、もうBランクに手が届く寸前の有望株だった。

大規模な廃坑の崩落事故に巻き込まれたのだ。

通常、失明のような大きなけがでも手当が早ければ、ギルドの手当てで治ることが多いのだが、この時は

救助が遅れた。生きていただけでも、ラッキーであった。今ではそう思う。


リハビリも苦労をしたが、そのかいもあって、ギルドの仕事にもつくことができた。

これは、ネールの経験や実力が優秀であったからであるが、運が良かったのも間違いはない。

だが、やはりハンターとして自由に生きてきたころと比べると、退屈で窮屈だった。

魂の渇きを感じるというか・・・・。


日々の鍛錬も欠かしていない。いまでもそこらのハンターに負けるつもりはない。

だが、やはり隻眼はハンデであるし、長時間の旅には古傷が痛んだりすることがあって身体がきつい。

年齢的にピークを越えていることも自覚がある。

これは、我儘というやつか・・。そう思っていた。


だが、最近面白い新人達に出会った。

自分には子供はいないが、親子といってもいいぐらいの歳の差のある子供達だ。

だが、まるで砂が水を吸い込むように、様々なことを吸収していく。

何よりも、その真剣さと必死さがネールにはまぶしく感じる。

自分にもそんな時があったのだ。


田舎の農家の4男・・・。

村に飢饉があった時に、まるで人減らしのように、このエルアの街に奉公にだされた。

そこで、奉公とは名ばかりの奴隷のような扱いを受けて育ったが、それでも、まだ食事などをちゃんと与えられただけましだった。

ある日、店主が盗賊に襲われて亡くなると、ネールは食べるにも困るようになった。

そんな時に、拾ってもらったのがハンターだった。

最初は、資格もなく荷車を引くだけの役割から始め、ゴブリンから奪った剣で剣を覚え、ハンター資格もとった。

パーティーも転々とした。ネールに別に不満があったわけではない。

メンバーが欠けたり、他のメンバーの不和に巻き込まれるようなことで解散になることはよくあることだ。だから、ネールは強くなった。ただ、がむしゃらに・・・。


そんな昔の姿が、目の前にいる少年・・フェルに被る。

「そうだ。常に全力ではなく、力を入れるタイミングが重要なんだ。

眼に頼りすぎるな。全身で感じるんだ。」

最低ランクのGハンターにかなり、難易度の高いことを言っているが、フェルは素直に頷く。

もちろん、言われてできれば苦労はしないが、理解しようとしているのだ。


ネールは、面倒見がいいといわれているが、今まで自覚はなかった。

だが、今は自分でもよくわかる。教えるのが楽しいのだ。


「そこ。隙だらけだ。攻めるだけじゃぁダメなんだぜ!」

ネールの特訓は続く。




・・・・



”暁のカルテット”の4人は、カティアの回復を待ちながらも、次の活動をどうするかを話し合っていた。

カティアの治療費で、無一文になりそうだったのが、幸いにもゼペットが自分達にも報酬を分けてくれたので、逆に治療する余裕ができていた。

もっとも、つき合ってみて、ゼペットが本当に金貨200枚を求めていたかどうか今となれば疑問なのだが。むしろカティアを助ける資格があるかどうかを確認されたような気がするのだ。


とはいえ、いずれ仕事をしなければ家賃も払えない。

ごくありふれたEランクのパーティーの彼らでは、生活はそこまで余裕はないのである。


「カティアが回復したら、この家も引き払わないといけないわね。」

「ああ。だが、あれだけ長い期間寝ていたからな。リハビリは必要だろう。」

「そうね・・・。手頃なところだと、メリアの森ね。

少し奥の方ならそれなりの獲物もいるだろうし、きつければ早めに撤退できるし。」

そんな話をしていた。


「ねぇ・・・。フェル君とかって、一緒に来てくれないかしら・・。」

口火を切ったのは、ニースだった。

「おいおい・・・。」

非難するように言ったのはギルである。


「あ、いや、フェル君の収納は便利だし、欲しいのは間違いないの。そうなんだけど、それだけじゃなくってね・・・。なんていったらいいのかしら・・・。」

ウェンツが頷く。

「いや、ニースの言う事はわかるよ。実は、俺もそれは考えていたんだ。

フェルの収納だけじゃない。バーン君との繋がりを強固にしておくのも間違いなく今後の役に立つだろう。それにな・・・、なんだろうな。弟みたいなほっとけなさがあるんだよ。彼には。」

「それに、バーン君がいなくなったとわかったら、引き抜き合戦は避けられないわよ。

昨日もあのエドガーさん達が声をかけていたし。できれば、変なところと一緒になられるくらいならうちに来てほしいと思って。」


「助けられといて、言うセリフじゃないと思うがね。まぁ、確かにクリスは女性がいるうちみたいなところの方がやりやすいのは間違いないだろうから、声をかけるのは悪くはないね。」

フェルばかりが注目されているが、ギルはクリスのことも心配をしている。

自分達には、すでに女性が二人もいるので逆に気苦労があったりするのだが、若い女性を欲しがるパーティーは山のようにいる。それに、ギルの言うように彼女の腕は悪くない。助けられた時に見ているし、そもそも3人の新人パーティでリザードマンを討伐したという話まである。経験をある程度積んだ自分達でも容易な相手ではない。


「まぁ、明日にでも声はかけてみよう。

とりあえず、正式なパーティというと考えられてしまうだろうから、当面の間でも構わないし。

変なところに、声かけられないようにも含めてな。」


「うちが変なところと思われないようにしないとな・・・。どうもネールさんやエドガーさん達のお気に入りのようだし・・。」

ギルがボソリとつぶやいた。












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