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僕は、魔法が使えない。  作者: アーシェス
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06 愛も青春もないけど・・・旅立ち

コケコッコー

いつものように、家の鶏の鳴き声で起きる。

うん。いい天気だ。

朝日の入った屋根裏部屋には、粗末なベッドの他には、何もない。

そう、最低限あるはずのタンスや机なども


「ティルク、このベッドも”転送”していいて」

「はーい。」

そういうと、ティルクは先ほどまでフェルが座っていたベットに触れて「ぬ」っと掛け声をかける。

その瞬間、部屋の中は文字通り「空っぽ」になった。

あとで、誰かがこの部屋をみたら驚くだろうなと思うが、まぁ、フェルには関係ない話である。


ここまで育ててもらったので、それなりに感謝はしている。

だが、もうここに戻ってくることはないだろうし、それを望まれてもいないだろう。


「じゃぁ、そろそろ行こうか。」

そういうと、剣と背負い袋を背負って部屋を出る。

流石に何も持ってないというのは変だ。

だから、背負い袋には、替えの服と保存食糧をいれている。

これなら、そんなに重くない。

重い水がもらった剣のおかげでもっていなくても不自然ではないのは助かった。

まぁ、水樽5配分は”転送”しているので、水に困ることはない。


家での別れのあいさつは簡単だった。

見送りも父だけだったし、形式的なものである。

父は悪い人ではないし、虐待のような悪い思い出もないが、良い思い出もない。

血はつながっているが、それだけであった。


その後、一人で町はずれの墓地で母の墓に軽く手を合わす。

ただ、こちらも礼儀としてきただけだ。

母は、まだフェルが赤ん坊だったころんいなくなったので、母の記憶がないのだ。

評判では、たいそう器量の良い母だったようだ。

まぁ、死んだ人の悪口をいうのはよほどなので、鵜呑みにはできないが・・・。


・・・・


「えっと、エルア行きの馬車ってここですか?」

フェルは、人の好さそうな中年男性に話しかける。

「ん。そうだよ」

道具屋の前に3台の馬車が止まっており、その前に男が5人集まっている。

皆、何かしらの武器は持っているが、2名は剣を佩き革鎧をつけており、いかにも冒険者という格好をしている。おそらく護衛であろう。


「すみません。僕はフェルと言います。ウィッド家の3男です。エルアまで行きたいのですが。」

そういうと、その中年男性は

「ああ、聞いているよ。お代ももうもらっている。

 馬車は、その先頭やつだから乗ってまっててくれ。まぁ、その、あれだ。大変だね・・・。」

と少し同情するような眼でフェルと背負い袋をみながら、馬車を指さす。


馬車は2頭立てで、荷台部分に2つのベンチが馬に並行に置かれているつくりのものであった。

幌などはない。

お世辞にも綺麗とはいえないが、上級貴族のものでもない限り、そんなもんである。

ベンチが並行に置かれているのは、乗っている人たちが互いに背中を見せないですむことと、悪路の時に後ろに転がり落ちないようにとの知恵だ。


「ありがとう。」

そういって、フェルは馬車に乗り込む。

男が、大変だねと言ったのは、下級貴族や商人の3男以下はフェルのように家を追い出されることが多く、その大半が”所在不明”になるからである。そして、フェルの背負い袋は決して大きくはない。


しばらくすると、冒険者らしき2名がフェルの向かいに座る。

30代半ばといった感じの口髭のある男性と頬に傷のある男性だ。

「よっこいしょ。フェルといったか。よろしくな」

髭の男が声をかける。

「よろしくお願いします。」


後で聞くと男たちの名は髭の男がエドガー、傷のある男がリュークというらしい。

そして、フェルが最初に話しかけた中年の男が、この商隊の隊長さんで商人のミンツさんというらしい。

あとの二人は荷馬車の御者さんだ。


「そうする、エドガーさんとリュークさんはエルアの街のハンターさんなんですか」

フェルが確認する。

「ああ、そうだ。まぁ、護衛をうけるのは普通ハンターだからな。当たり前と言えば当たり前だが。」

エドガーがトレードマークの口髭をなでながら答える。


「フェルは、エルアについたら何をするんだ?

もう行先は考えているのか?」

「ええ、僕はあの町から出たことがないので、冒険者になって、色々なところを見て回りたいんです。

なので、僕もハンターになろうと思っています。」


エドガーは、ちょっと苦笑しながら

「そうか。じゃぁ、後輩候補ってわけだな。

だけど、正直思っているほど楽な商売じゃないぞ。」


「ええ、でも食べていく必要があるし、なにより狩りとか結構好きなんです。

これでも、角ウサギなら100匹以上捕まえていますよ。」


「そうか、それはすごいな。

だけど、ハンターの相手はもっと強力なものが多い。そんなに甘くないぞ。」

エドガーはそういってかえすが、ついリュークは鼻で笑ってしまった。

角ウサギというのは、本当に駆け出しのハンターでも相手にできる獲物だからだ。


「まぁ、俺たちの仕事にあこがれてくれるのはうれしいし、実際に田舎・・いや失礼。地方から出てきてハンターになろうとするやつは多いけど、本当に簡単じゃないぞ。試験もあるし。」


「試験?」

フェルは、自分の生まれた町から出たことがないので、初耳だった。

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