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僕は、魔法が使えない。  作者: アーシェス
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05 来た時よりも美しく

ちょっと角ウサギの肉を持って帰るつもりだったのでそこまで遅くなるつもりはなかったのに、町に戻ってきたら、もう夕暮れ時だ。

まぁ、一応最後の晩餐だからな・・・ちゃんと家で食べるかという程度で、特に急ぐこともないんだけれど。


あのあと、フェルは、身体をもらったタオルで拭きながら、とんでもない”閃き”をしてみせた。


「ねぇ、さっき大狼の血抜きで”転送”したっていったよね?」

”転送”。フェルは妖精の倉庫とのやり取りをそう呼ぶことにした。

「ええ。できるわよ。私が”触れている物”の中から、転送する物範囲を選ぶの。

その中で、”除外するもの”を選べるのよ。まぁ、何もしなくても病原菌とかの類は除外されるけど。」

「だったら、僕の血まみれの服や鎧から血を残して転送ってできるの?」

ティルクは、何が言いたいのかまだ理解できないようで、不思議そうにフェルに答える。

「そらできるわよ。さっきの大狼とかわらないじゃない・・・・って、あ・・・・」


ティルクはフェルが何を言いたいのか気が付いた。

「ちょっとまって、試してみるね」

そういうと、フェルの服と鎧に触って目をつむり、「ぬ」っと気合の声をかける。

すると、フェルの革鎧や衣服が消え、地面にそれらにまとわりついていた血がボタボタと落ちる。

「わ、ちょっと」

フェルは、いきなり上半身裸になったので慌てる。

いや、狙い通りなんだけれども、ちょっと気持ちの準備ができていなかた。


そして、ティルクがちょっと離れた綺麗な地面の上で、また少し目をつぶって、「ぬ」っと気合の声をあげている。

そこに、使い古されてはいるけれど、綺麗になった革鎧とチュニックのような服が現れる。

さすがに、綺麗にたたまれたりはしていないけれど。


「すごい。これなら街で洗濯屋さんで食べていけるんじゃ・・・・」

フェルが変な感想をいうと、あわててティルクがいう

「ちょ・・・だめだよ。転送だって、ちょっと僕は疲れるんだからね。特に除外指定とかは。」

今まで、気づかなかった便利な使い方を考えたフェルには驚きだけれど、ティルクはこんなことをずっとやらされたくはない。

なにせ、”洗浄”魔法は”洗浄泡発生”から”異物浄化”までいくつも存在するが、ここまで簡単かつスピーディ、完璧なものはないはずだ。

万一、ティルクが洗濯屋さんをはじめてしまったら、ティルクは大忙しである。

全力で否定しなければ。

それに、疲れるのは嘘ではない。”ちょっと”の定義の問題だ。


「まぁ、そんなことをしたら、冒険にでれなくなっちゃうか。」

フェルは、ティルクの慌てようを面白く思いながらも、洗濯屋になるつもりはないといった。


「あと、剣とこのタオルももう一度綺麗にしてもらっていいかな」

「まぁ、それくらいなら大丈夫。」

そういって、ティルクは転送をして、剣とタオルも”洗浄”する。


ティルクは、綺麗になったタオルで再び全身を拭くと、装備をつけなおす。

さきほど大狼の血まみれであったフェルは、戦う前とほとんど変わらない姿になっていた。

いや、正確には革鎧などの古い染みもとれているので、ちょっと綺麗になったぐらいである。

もちろん、傷などはそのままなので、言われて気づくかどうかという程度ではあるけれど。


・・・


家に帰ったフェルは、最後の晩餐をする。

といっても、特に豪勢な料理が出るというわけではない。いつも通りである。

一応、形上はみんな揃ってはいるが、特に話すことはないという感じで沈黙が続く。

まぁ、これもいつものことである。

それでも、今日は流石に気を使ったのか次男がフェルに話しかけてきた。


「そういえば、おまえ、私の作った剣を持っていくらしいな。

あの剣は、ちょっと自信作なんだ。「水樽」の魔法を籠めてある。

商人とかが、移動中の飲み水を馬車に積み込むのを見て思いついたんだ。

まぁ、樽ってのはちょっと大げさだけど、それでもその半分ぐらいの水は貯められる。

ちょっと貸してみな」

そういうと、剣の腹を触りながら「排水」とつぶやく。

すると、剣の柄のあたりから水が刀身をつかって流れて、コップに注がれる。

「な。便利だろ。水の補給は、刀身をつけて『給水』でできるんだ。」


兄は自信満々に言う。

確かに便利だけど、剣を使った後だと、ちょっと飲む気にならない気がするぞ・・・その水。


「それは試作品だから、ちょっと容量が大きいけど、その半分ぐらいの容量の”水瓶の護身刀”を売り出すから、どんどん使って宣伝してきてくれ。ああ、ちゃんとうちの名前を出してくれよ。ここにロゴもはいってるから。」


説明はありがたいし、いいものなのもわかったけど・・・

”広告”なのね・・・。

ああ、父がこの剣をすすめたわけがわかった気がする。


そして、その後は誰もしゃべらないまま、最後の晩餐は終了したのであった。





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