43 帰還
「なにこれ?」
頭だけがつぶされた岩蜥蜴の死体をみてクリスが驚きの声をあげる。
「何か岩のようなものが見えたが・・・あれは?」
「収納魔法の応用で、岩を瞬時に岩蜥蜴の上に落としたんだ。あまり離れたところにはできないんだけれど・・・」
「何ソレ?収納魔法のそんな使い方聞いたことないわよ?」
「ウーン。ほら、ネールさんも言ってたけど、ちょっと他の人のつかう収納魔法と違うみたいだから。
それに、このやり方だってこないだ思いついたばかりだし。
収納容量の関係もあるから、そんなに岩なんて持ち歩けないし・・・。」
とりあえず、フェルは嘘のない範囲で誤魔化す。
フェルの”転送”は他の収納魔法と違うし、この方法を思いついたのは3日前だ。
”そんなに”の定義の問題はあるが、容量に上限はある。
今、フェルはあのサイズの岩を2つ、さらにでかいサイズを1つ持っているのだが、それをいうつもりはない。
「じゃぁ、とりあえずこれで”肝”もとれるだろうから、持って帰ろう」
そういうと、フェルは岩蜥蜴を転送した。
「あんたの収納って・・・、すごい容量ね・・・。」
クリスが、ちょっとあきれたようにつぶやく。
「いや、いいのよ。助かるし。」
クリスはそういうが、バーンは少し考えてからフェルに話しかける。
「確かに、フェルの収納が大きいのは俺たちには助かるが、他の者にはあまり気づかれない方がいいかもしれない。俺たちは新米ハンターだろ? 収納持ちというだけで、利用しようとする面倒な連中がでてくるかもしれんのに、それが馬鹿でかい容量を持ってると知られれば、厄介毎にまきこまれるリスクがふえる。商人だけじゃない。軍なんかに眼をつけられるとやっかいだ。
そして、その厄介毎を振り払う実力は残念ながら、まだ持ち合わせていないからな。」
たしかに欠点はあるにしろ”収納魔法”は便利だ。
そして、その価値は容量に比例する。
尻尾がないにしても岩蜥蜴1匹に岩蜥蜴の尻尾2つ、そして大岩がはいるとなるとそれなりの容量だ。
しかも実際は、その数十倍は入れようと思えば入れられるだろう。
しかも、フェルはまだ少年といってもいい歳である。
彼がいれば、例えば武器などが持ち込めないような場所に大量の武器を持ち込むようなことが、容易にできてしまう。
これが、実力のあるハンターなら手出しなどされないが、フェル達は駆け出しのGランクハンターである。よからぬことに利用しようとする連中が出てきてもおかしくないのだ。
「わかってる。人前ではなるべくこの技は使わないし、使った後は岩は置いていくようにするよ。」
とりあえず、使った岩を置いていけばその後に何かを”転送”してもおかしくはない。
岩を入れていること自体はおかしいのだが、それは訓練のためとかいえば、まぁ何とかごまかせるのではないかと思う。
それに、この技自体あまり頻繁に使うつもりもない。
今回は、頭だけうまく狙えたが、頭はかなりぐちゃぐちゃになってしまっている。
素材をダメにしてしまう可能性が高いし、これに頼っていては自分たちのレベルアップにつながらない。
あくまでいざというときの奥の手なのだ。
「わかっていれば、いいんだ。君がいてくれて本当に助かっているのは、間違いないんだけどね。」
「まぁ、結果オーライよ。さて、帰りは徒歩なんだから、そろそろ帰りましょう。
リザードマンとかに遭遇しないうちに!」
クリスが撤収を促す。確かに行きは馬車で早かったが、帰りには2時間かかる。
それに、リザードマンの群れにあったら、またひと悶着おきそうだ。
「そうだな。日が暮れたら大変だ。帰ろう。」
・・・・
幸いなことに、帰り道は特筆すべきこともなく予定よりも早い時間で帰ることができた。
2時間というのは、通常のパーティでのスピードであり、荷物の少ないフェル達はかなり早く歩けるのだ。
懸念していたリザードマンや盗賊も受付嬢が言っていた通り、そうそう頻繁に現れるわけでもないのだろう。今回は遭遇することはなかった。
もっとも、”その偶然”に対する備えを怠ると死につながるのだから、甘く見てはいけない。
ガランゴロン
ギルドには、日が沈む少し前に戻ることが出来た。
依頼の報告などで、受付は順番待ちになっている。
ほどなくして、フェル達の順番になった。
「えっと、岩蜥蜴の討伐と尻尾と肝の採取なんですが、尻尾だけの場合ってどういえばいいんですか?」
バーンがハンターカードを若い受付嬢に渡しながら確認する。
「えっと、尻尾だけの場合は、買取だけで評価ポイントはつかないので言わなくて大丈夫です。
あと、依頼の方は、素材を提出してください。順番でいいですよ。」
「じゃぁ、まずは、ゴルダの丘で、岩蜥蜴を1匹討伐しました。」
真実の口に手を入れながらバーンが報告する。
「あと、肝なんですが、うまく獲る自信がなかったんで、そのままなんです。
よごれちゃうので買取カウンターの方でいいですか?」
「ああ、そういえば収納魔法をお持ちでしたね。では、買取の方でご提出ください。
ネールさん。すみません。岩蜥蜴の肝の依頼なんです。お願いできますか。」
「なんだ、お前さん達。もう岩蜥蜴に手を出してるのか。あんまり無茶するなよ。」
そういいながら、ネールさんは岩蜥蜴を出すように促す。
収納魔法自体は、貴重だが希少ではないので、ネールさんも岩蜥蜴を収納から出すこと自体は驚く様子はない。ただ、死体を見たネールさんは怪訝な顔をしていた。
「なんだ、この死体は・・・。首を切断ってのはよくあるが、ものすごい力でつぶされてやがるな・・。
破壊槌をつかってもこうはならんぞ・・・・。お前たちどうやって・・・・。」
ネールはそう言いかけたが、他のハンターの眼を気にして言い直す。
「いや、どうやってかは聞いちゃいかんな。ちょっとまってな。」
そういって、岩蜥蜴の腹にナイフを入れ捌いていく。
岩蜥蜴の皮膚は、結構堅かったはずだが、まるで魚でも捌いていくかのような手つきだ
「ほれ、肝だ。このまま預かっとくから手続きすましちまいな。他にも買取があるかい?」
そういうわれて、フェルは岩蜥蜴の尻尾を2本出す。
「おいおい・・・。お前さん達稼ぐなぁ。」
まわりのハンター達もちょっと驚いている。
「クロスボウが、早速役に立ちまして・・・・」
「収納持ちがいると、効率がいいのはわかるが、リザードマンを見かけたら、迷わず逃げろよ。
絶対深追いするな。お前たちじゃ絶対勝てん。
それから、メリア以外にも行くなら、冗談抜きでもう一度指導を受けに来い。
無茶をさして、お前達になんかあったら、エドガー達に申し訳がない。」
ネールにそういわれて、渋々ながら訓練依頼を受けることを約束するフェル達であった。




