36 小さな嘘
メリアの森
クリスが、虎挟を数か所しかけて戻ってくると3人はいつものように採集をはじめる。
採集は順調で、着実に植物や木の実を採取していく。
「カレー草は、もう買取金額が下がっているから、他の物を優先して」
バーンが的確な指示を出していく。
バーン以外の二人も確実に採取の腕が上がっている。新人教育訓練の成果だ。
ただ、新人教育訓練で採集をしすぎたのか、一部の素材についてはほんの少しだが買取価格が下がっていた。
供給過剰ということらしい。
採集はメインにするハンターというのは少ないので、主要な採取の買取値段というのはほとんど変わらない。それだけ、このパーティの採取の能力は高いのだ。
「そろそろ、いいかな。罠の方も見に行こう」
そういって、3人は森の奥の方へ向かう。
残念ながら、罠には何もかかっていなかった。
まぁ、そんなに簡単に狩りは成功しない。そんなに簡単なら、クリスも家はそんなにお金に困らず、ハンターになることもなかったはずである。
「うーん。罠はもうちょっと置いておいて、奥から追い立ててみましょうか。」
そういってさらに奥の方に進む。
「フェル!ドリュアデスが警告をだしてるわよ。何か奥にいるわ」
ティルクがフェルの耳元ではなす。ただ、ドリュアデスも赤毛熊の時のような慌てようではない。
「ちょっとまって、何か気配がする。」
フェルは、先行するクリスを呼び止め、小弓を構えつつ前進する。
クリスも慌てずに姿勢を低くして腰のククリナイフを構える。
バーンは、後方で抜刀して、万一の体制をとる。
ガサガサっという音とともに奥に現れたのは、体調1.5メートル近い魔猪である。
魔猪
短い脚と寸胴に似た体形に見合わない優れた運動能力を持つ猪型の巨大魔物である。
雑食性であるが農作物の他、大型昆虫や死肉を食らう。
まれに、興奮して人間を襲うこともあるが、狼や熊のように爪や牙で攻撃してくるわけではない。
しかし、120kgもある体重での時速45kmものスピードでの全力の突撃を受けると、下手をすれば死亡しかねない。
「バーン。気をつけて!攻撃よりも回避・防御・優先で!!」
フェルは叫ぶと、弓を射かけて注意をフェル向ける。
クリスは、背後からボーラを投げ、後ろ脚の一本に絡まる。
やや動きずらそうにはなるが、本来の目的である拘束はできなかった。
フェルは、さらに第2射を射るが、これも大してダメージが通っているようには見えない。
「フェル。そっちに行くわよ」
クリスは、魔猪の尻に、後方から吹き矢を2発吹き付ける。
吹き矢には痺れ薬が塗られているが、この効果が表れるには少し時間がかかる。
フェルはと魔猪の突撃をかろうじてかわすとさらに矢を射かける。
魔猪には計5本の木の矢がささっているが、突撃の勢いは弱まる様子はない。
フェルが引ける小弓では殺傷力があまり高くないため、中型以上の魔物には厳しい。
フェルは弓を捨て剣に切り替えると大木を背に構える。
猪の突撃を誘い、自滅を狙うつもりだ。
全神経を集中させ、猪が激突する瞬間に、右側へ飛び退る。
ドォゴン という音と共に、木がミシリと軋む。
猪の頭が大木にぶつかったのだ。
フェルは、体勢を整え、剣を魔猪の腹に刺し、思いっきり引き裂く
ブヒャァァ
魔猪が激しくあばれ、剣とともに振り飛ばされたフェルが尻もちをつく。
腹からは、内臓が少し出ている。
さらに後方から、クリスとバーンも剣を刺す。
バーンはネールに教えられた体重を乗せた”突き”である。
素人に毛が生えた程度なのだが、これなら、バーンの腕でもダメージを与えられる。
「離れて!」
フェルはそういうと、もう一度剣を魔猪の腹の切れ目に差し込み、切り裂く。
大量の血が流れ、内臓が飛び散る。
魔猪はまだ動こうとするが、突撃したり暴れまわるほどの体力はなくなっている。
3人は包囲するように魔猪を囲み、最後の一撃を浴びせた。
「はぁ、はぁ・・・狩れた。」
3人とも息が上がっているが、とりあえずエドガーやリュークがいなくとも魔物をしっかりと狩ることができた。しかも魔猪は食料としても毛皮としても優秀な素材だ。
「しかし・・・・120kgぐらいかね・・・。回収依頼かなぁ・・・。」
猪類を運ぶ場合は通常丸太に足を縛った状態で担ぐのが一般的だが、内臓などを捨てていくにしても、100kgは確実にある。屈強なハンターならこの程度でも持ち帰ることは可能なのだが、力の弱いバーンもそうだが、15歳ぐらいの男女であるフェルやクリスにはキツイ。
「ねぇ・・・。”転送”使っちゃまずいかなぁ??」
ティルクは少し考えてから答える。
「うーん。いずれ使えるのを示しとかないといつまでも使えないしねぇ・・・・。
かといって、”転送”っていうフェルにしか使えない力を教えるのは危険なのよねぇ。」
実際には、ティルクの力なのだが、普通の人にはフェルの力に見えるという事が言いたいようだ。
「収納魔法<ストッカー>と言ったらダメなのかなぁ・・・」
しばらく悩んでいたティルクがokサインを出す。
「ちょっと、少し違うとこあるけど、亜種の魔法とかなんとかいってごまかせばいいかな・・・」
フェル達は、ギルドで収納魔法<ストッカー>を使うハンターを何人か見たため、大体のイメージはできている。”転送”のほうが出現時間が速く”パッ””と物が出たり消えたりするが、ストッカーのように出す瞬間に異空間が見えるというようなことがない。
問題は、フェルが無紋と知っているエドガーと受付のおばさんなのだが、まぁ、それもハンターの経歴やスキルの詮索はご法度だからなんとかなると考えたようだ。
そういえば、あのおばさん最近見ないな・・・。
「クリス。大丈夫。僕に任せて」
そういうと、フェルは魔猪の内臓以外を”転送”する。
一瞬で消えた魔猪をみて驚く二人。何が起きたかわからなかったようだ。
「収納魔法<ストッカー>だよ」
『えええぇぇ』
二人の声がハモった。
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(あちらは、まったり更新です。)




