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会いたい

時計を目にして、さっき脱いだ服に着替え、カバンも持たずに家から駆け出した。


私の家から俊平の家までは歩いて5分。

急いで出てきたので足はサンダルだった。

ブーツ履く時間が惜しかったから。


俊平の家の前で息を整えた。

あの頃何度も押しかけた俊平の家。

尤もその頃は仲間としてだけれど。


チャイムを鳴らして返事を待った。

直ぐに扉は開かれた。

出てきたのは私と変わらない位の女の子だった。もしかして、光里ちゃんかな。

あの頃はまだ小学生で、俊平と同じで全く面影がないから自信がない。


「あのー。山本です。」

私が其処まで言うと


「もしかして、香也ちゃん?私、妹の光里です。」

私が頷くと光里ちゃんは


「お母さーん、香也ちゃんきてくれたよー」

って、大きな声を上げた。


なんでお母さんなの?私は俊平に会いにきたのに。

戸惑う私。

玄関先に出てきたおばさんは私の顔を見るなり


「久し振りね。すっかり綺麗になっちゃって。俊平は一旦家に帰ったからいないのよ。さぁさ上がっていってね。」

そう言ってスリッパを出してくれた。


更に私の頭は混乱状態。

玄関に固まった私を光里ちゃんが引っ張り出す強行にでた。


かろうじて”お邪魔します”と声が出たものの。

さっぱり意味不明のさっきの言葉。

聞き間違いじゃないよね。

一旦、家にってどういうことなの?


リビングに通されてソファに座った。

あの頃のものとは違う革張りの上品なソファ。

時代の流れは何処の家でも同じなのだろう。


私の隣に光里ちゃんが座って、向かいにはおばさんが。

目の前には落としたてのコーヒーが入ったカップが3つ。

自分の家を出た時とは大分状況が変わってしまっていた。


おばさんはニコニコしながら話出した。


「俊平ったらたまには連れてきてって言ってるのに全然連れてきてくれないんだもん。やっと香也ちゃんに会えて何だか嬉しいわ。そうそう俊平とケンカでもしたの?今日は傑作だったのよ。」

何かを思い出したかのように、こみ上げてくる笑いを抑える事もせずケラケラと笑い始めた。


「いえ、そのケンカはしていませんが……。」

そんなことよりさっきのあの事を知りたいんだけど。


「えーじゃあとうとう、香也ちゃん、兄貴に愛想尽かしちゃったとか?」

光里ちゃんの言葉におばさんの笑い声がぴたりと止んだ。


「それは、ないのですが。どちらかと言えば、俊平君の方がそうなんじゃないでしょうか。」

自分で言ってて虚しくなってきちゃうよ。


すると、おばさんと光里ちゃんは顔を見合わせて2人の声が重なった。


「「それだけはないから」」


と。思いっきりびっくりした。半信半疑どころじゃない、全信全疑って言葉があったらぴったりだと思う。

2人もビックリしていたようだった。

静まりかえってしまった。

ええい、こうなりゃ女は度胸だ、聞いてしまえ。


「それで、俊平君はこちらには住んでいないのでしょうか?」

き・聞いてしまった。

おばさんの答えを聞くのに緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「えっ、香也ちゃん知らなかったの?私はてっきり。あの子、半年前、本社勤務になってから会社の近くに社宅を与えられたのよ。でも3ヶ月前くらいから突然こっちに帰り始めて、私もおかしいなって思ってたのよ。そしたら、光里がね。」


その先を光里ちゃんが説明してくれた。

「2ヶ月前に偶然見たのよ、兄貴と香也ちゃんを。桜町のレストランで食事してたでしょ。私もそこにいてね。それで兄貴がやっと香也ちゃんと付き合えたんだって知って。私まで嬉しくなっちゃったんだ。その晩は兄貴に問いただしたもんだよ。」


始めて知る事実にきょとんとしてしまう私。

半年前から社宅?それにやっとって何?


「いいもの見せてあげる。兄貴には内緒だよ。」

そういって私は俊平の部屋に連れてこられてしまった。


久し振りに入る俊平の部屋。

あの頃と変わらない窓際の机の前に立たされた。

「これみて。」

そういってデスクマットを指差す光里ちゃん。

そこには、中学時代の懐かしい写真が4枚挟まれていた。


「何か気がつかない?兄貴ね、いっぱい写真が有るくせにっていうか、いくら彼女が出来てもこの写真だけはかえることはなかったんだよね。この写真も、この写真も皆、隣が同じ人なんだよね。」


本当だ。どの写真も隣には私がいた。

でもそんなの只の偶然か面倒くさいだけかもしれないし。


「香也ちゃんって顔に出るって言われるでしょ。偶然じゃないよ。その証拠にその一番端の写真は本当は2枚あってね。一枚は兄貴の手帳にもう何年も挟んであるんだから。おっと、これを知っているのは兄貴には内緒ね。きっとまだ探せば何か出てくるかもしれないけれど、一応兄貴にも悪いかなって思うのでこれまででいいかな?私ずっと思ってった。どんな人が彼女になっても香也ちゃんが一番いいのにって。だから兄貴のこと見捨てないでやって欲しいんだ。ってこれ妹のたわごとだと思って聞き流してね。」


そんなの信じられないよ。

だってあの俊平だよ。

でも、ちょっとの期待をしてしまう私もいる。


会いたい、俊平に。

会いたい、凄く。


その後の私の行動は早かった。

おばさんに俊平の住所を聞いて、また来ますと挨拶をして一先ず自宅へ向かった。


カバンを持って、化粧も直した。

さっきとは違いちゃんとブーツも履いていざ仕切りなおしだ。


おばさんから聞いた住所はここから7つも先の駅にあった。

電車に揺られながらも何度も携帯を見てみるけれど、俊平からの着信はないままだった。


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