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ごめんね

色付き始めた街路樹の間を意味もなく歩いていた。

秋は失恋の季節って誰が言ったのだろう。

まだ決まったわけでもないのに別れの予感がするのだろうか、風に舞う葉を眺めていたら鼻の奥がツンとしてきた。


カバンの中から、音がした。

携帯の着信音。


俊平


たかが雑誌、されど雑誌。

私は彼の声を聞く事が何となく怖くて、携帯を見つめる事しか出来なかった。

10コールした後、その音は止んだ。

再び静寂を取り戻した携帯をそっと開くと其処には4通のメールと5回の着信があった。

1件自宅からの着信以外は全て俊平のものだった。


メールは開く事が出来ずにまず自宅へと電話をした。

すると直ぐに母親がでた。


「もしもし私、何かあった?」

と聞く私に


「香也、今日は俊平君と一緒じゃなかったの?」

と声を上げる母親。


「今日は、違うよ。何で?」

どうしてそこで、俊平の名前が出るかな、折角復活した鼻が、また怪しくなってきちゃうじゃない。


「いや、だってほら今日随分とめかしこんで出掛けたから、デートなのかと思って。」

どぎまぎした声に尻つぼみの言葉、明らかに動揺しているのが分かった。


「それで、用事は?」

ちょっと冷めた声が出た。


「ん、いや俊平君から電話があってね。それで母さん思わず言っちゃったのよ、その……いつもの倍、お洒落して出掛けましたよ。待ち合わせ場所にまだ着いていないのですか?って。」


あまりの衝撃に言葉が出なかった。何て事言ってんの母さんってば。


「ごめん。」


その言葉の後はこの無機質な物体からは連続する電子音が流れ始めた。

あまりの衝撃に言葉がでなかった。


暗くなった画面。

深呼吸をして、親指でボタンを押すと画面にはまだ着信あり、メール有りの表示がある。


ドクドクと動く心臓を掴みながら、恐る恐るメールを開いてみる。

初めのメールは午前8時、丁度朝食を食べていた頃だろうか。


――出掛けるぞ。10時に駅前の噴水な。――


なんて俺様な。

でもきっとこれが昨日送られたきたのなら見えない尻尾を大きく振っていたかも知れない。

違うな、それが何時だってメールに気がついていたら、尻尾振ってたな。


次のメールは待ち合わせ時間丁度の10時、この頃私は電車に乗っていたかも。


――遅い――


これまた、俺様な。

自分で呼びつけて5分と待てないのかしら?

でもふと思う、私は彼を待ったことがないかもと。

初めての待ち合わせも10分前に着いたのに俊平は既に其処にいた。

次は15分前に行ってみた、でも其処にもまた。


段々メールを見るのが恐くなってきた。

次のメールは11時だった。


――連絡しろ――


俺様男は何処まで行っても俺様なのだろうか。

きっと痺れを切らせてこの後に直接携帯に掛けたのだろう。

続けて2回の着信がある。


そして、その着信の5分後には


――連絡して欲しい――


俺様は何処かに行ってしまったようだった。

この頃私は美容室にいた。

携帯に気づけなかったのだけれど、結果的には無視をしてしまった事になるんだよね。


俊平はどんな気持ちで電話してくれたのだろうか。

ちょっとでも心配してくれた?

俺様口調でない俊平に違和感を覚えてしまった事に自分自身が一番驚いた。

今の時間は午後2時を回っている。

まさか、いないよね……。


私は俊平の携帯のアドレスを開いた。


なんて書こう、取りあえず謝った方がいいのかな。

震える手でボタンを押した。


ごめんね


そこまで打って続きを考えてしまう、メールに気づけなくってと書くべきか、美容室に行っていたと書くべきか、それとも母が変なことを言ってと書くべきか。


その時、足にトスンと衝撃が。

足元には幼稚園くらいだろう男の子がしりもちをついていた。

慌ててその男の子を引き上げた。

びっくりして目を丸くさせたそのこは何となくだけど、彼の小さい頃に似ているような気がした。

「すみませんでした。」

みると、ベビーカーを押したこの子の母親が男の子の頭を下げさせている。


「いえ、私も突っ立っていましたから。」

そう言いながら男の子にも大丈夫だった?と声を掛けた。


男の子は恥ずかしそうに

「大丈夫、お兄ちゃんだから。」

と笑ってくれた。

本当にその顔が段々あいつに見えてきて……。


お辞儀をして分かれた後、握り締めた携帯に気がついた。

メールを打っていた画面はもう其処にはなくて。

もしかしてと、送信画面を見てみると、題名もなく、ただのそっけない”ごめんね”だけの文字。


送っちゃったんだ。

メールの続きをとも思ったのだけれど、何を書いても言訳にすぎず、結局電源まで落として携帯をカバンにしまった。


未練がましく仲の良い2人組ばかりが目に入る。

肩を組む人、腕を組む人、手を繋ぐ人。

私はどれも出来なかった。


オープンカフェでカフェオレを飲んでも、お気に入りの洋服を買っても、私の気分は晴れることが無かった。



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