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褒美

「お前のおばさんって凄いんだな。普通こんな所、これないぜ。」


叔母さんの運転手さん付きの車でここまで連れてきて貰った。

大理石の広がるエントランスの端っこに私と大地は突っ立っている。

大地の胸の前で前を向いているのだけれど、どうしようもなく背中が熱くなってきた。

ほんと、只立っているだけなのに。


如何にも庶民代表ですみたいな私達は、凄く浮いた存在に違いない。

周りには見た目に、如何にもみたいなゴージャスなご婦人方。

勿論その中に、叔母も混じっているのだけれど。


俊平がどんな顔して現れるかを見たくって待ち合わせ時間より1時間も早くに連れてきてもらった。

当然、俊平はまだ来ていないと思ったのに……


背中を向けていた後ろから当人はやってきたようだった。

叔母さんの

「あら、もう着いていたの?早かったのね。」

と後ろにハートマークがついていそうな声に振り返った。


そこには一瞬、目を見開いた後に、胡散臭そうな笑顔を見せる俊平がいた。

始めはこっそり叔母さんとの会話を覗き見するつもりだった私達は出鼻を挫じかれてしまったようだ。


「おはようございます。今日は誘って頂いてありがとうございます。」

と叔母さんの目を見つめながら挨拶した後。


そうだよね、やっぱりそういう顔するよね。

差すような視線が向けられて。


「おはようございます。今日は宜しくお願い致します。」

と俊平スマイル、それも目が釣りあがって。


私と大地も慌ててお辞儀をした。

「「こちらこそ、お世話になります」」

なんて。


そんな私達の背中でクスクスと笑う声が。


「徳山君もそんな顔しないで、今日は思いっきり楽しみましょう。」

やけにテンションの高い叔母だった。


ふと耳元近くで

「いい根性してるじゃねえの。」

と低い声が聞えたのは気のせいじゃないらしい。

顔こそ笑っているけれど、面白くないってのは良く伝わってきました。

大地もグルなはずなのに、どうして私だけ?

一泡ふかす前に計画失敗。



とはいいつつも、

大地と一緒にバカ言い合って、背中叩いて、頭くしゃくしゃにされて。

楽しくないはずなんてない。

少しだけ、今日が終わった時の虚しさ。

次の約束がない、いつ会えるのかさえ分からない虚しさを考えてしまうけれど、それは損だよね。折角の楽しい時間は有効に使わなくちゃだよねと頭を切り替える。


それにしても昔から、何でもソツなくこなすこの2人。

俊平に限っては、これで初心者なの?みたいな腕前だった。

勿論大地には敵わなかったみたいだけど、後2,3回やったらいい勝負になりそうだよ。


本当に怖い奴だ。


ちょっぴり場違いチックな私達と違って、初心者俊平の決まっている事といったら。

叔母さんはもうずっと俊平のそばから離れないし、さっきはラウンドですれ違ったどこぞのセレブみたいなおばさま方の視線を釘付けにしている。


この容姿に身のこなし、それに策士ときたもんだ。

香也、凄い人に想われたもんだよ。

香也は気づいていないもんな、一歩踏み入れさせられた事。


でも、時折、本当に時折だけれど、大地と屈託無く笑う俊平はあの頃のままで。

それだけ、香也の理想に近づこうと努力しているのかもと思うと応援してあげたいと思ってしまう私だった。

中学の頃、ちょろっと書いた日記の内容を大事にコピーして持っているんだもんな。

いくら何でも、もうその理想とは違うよと何度言ってもちっとも耳を傾けようとしないんだから、困ったものだよ。


香也のためにももう一度交換日記ならぬ、交換メールでもしなくちゃか?

と本気で考えたりしてみた。


思いっきりゴルフを楽しんだ後、軽い食事をして叔母さんと別れた。

私と大地は、当然とばかりに俊平の車に乗せられた。


「まさか、このまま帰れるとは思ってねえよな。」

今日聞いた中で一番低い声がはっきりと聞えました。


俊平の家へと連れてこられました。

そこで、いろいろな尋問を受けたわけでして。


取って置きの切り札にしようとしていた情報を話す羽目になってしまった。

それに対して、大地は全くお咎めなしで。

これって不公平じゃないの!

おまけに、大地は俊平から何かを受け取って喜んでるし。


私を何だと思っているのか。

大地は何かの券を貰ったようで。


俊平は私から、情報を仕入れたからなのかちょっぴりご機嫌。

じゃあ、駅まで送るからと解放されることになった。


そして、駅のホームに大地と2人。

2人共地元にいるから、ここからあと7つ先の駅まで一緒で。


もしかしたら、俊平は私の気持ちに気がついているのかもしれない。

あいつなりの、私へのご褒美のつもりなのだろうか?

せわしくなる心臓の音。

2人きりになると嫌でも意識してしまう。

もうこれ以上好きになりたくなんかないのに。

そんなに優しい顔しないでよ。

反則だって。


それは突然だった。

「お前、来月の最初の日曜日空いてる?さっき俊平からこれ貰ってさあ。お前好きだったよな。」


えっ。

私の顔の前でヒラヒラさせるそれは、大好きな演劇の公演チケット。

今年丁度20周年を迎えるそのお祝い公演チケットは中々手に入らないものだった。


「行く行く行くーっ行きたーい」


もしかして、こっちが本当の褒美だったりして。


「じゃあ、決まりな。」

背中を向けてしまったから顔は見えなかった。


嬉しそうな声に聞えたのは気のせいだろうか?


俊平に感謝かな?

何だかいいように踊らされてるきもしなくはないのだけれど。



すみません、何の事件もおこらずに……

次回は俊平の独白です。

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