1-1
―――待ってくれ。
待ってくれ、待って、いや待ってください。
私はついさっきまで日本という国の学生で?友達と新作の乙女ゲームの話で盛り上がっていて?漸く夏休みという最高の時間を手に入れて、そこから……。
「なっなんで、7歳の身体になってるのーーーーー!?!?!?」
バタバタバタッ
バンッ!
「パトリシアお嬢様! 如何がなさったのですか!」
「パト…リシア……?」
「お嬢様!?」
「あぁそうだわ…パトリシア…パトリシアよね」
私の叫び声に勢い良く部屋に入ってきたところでの私の意味不明な発言にどうしたんだいきなりこのお嬢様は…と言いたげなメイドはひとまず置いといて。
そうだ、この間まで学生だったわけじゃない。私はパトリシアという人生を7年間歩んできたところに唐突に前世の記憶が蘇ったのだった。そう、私は今パトリシアなのだ。
「リリー、突然叫んで悪かったわ。少し休むから一人にしてくれる?」
「は、はあ…紅茶でもお入れいたしましょうか?」
「いえ、結構よ。 ありがとう」
「かしこまりました。 お休みなさいませ、お嬢様」
―――パタン。
メイドのリリーが出ていったことを確認し、私は飛び起きて机に向かい、メモとペンを用意した。
パトリシア・リヒベルク。それが私の名前だ。そしてこの世界は先程まで友達と盛り上がって話していた…いや、前世の記憶の中の乙女ゲームの世界だと言うこと。そしてパトリシア・リヒベルクとはヒロインのライバル悪役キャラであること。
と、そこで手を止めた。
「ちょっと待ってよ…1億歩譲ってヒロインじゃなくてライバル令嬢に転生したことは認める。 でもなんで、よりによって…」
この世界が発売されたばっかりで私がほとんど手を付けていない乙女ゲームなのよ!?!?
そう、手を止めた訳では無い。止めざるを得なかったのだ。なぜならこれ以上前世の記憶の情報を書きようが無かったから。
知識もほとんど無いこの世界で、私はヒロインのライバルで、悪役で…定番で言えば最後に勝つのはヒロインでライバルの立ち位置である私は処刑…最悪待ち受けるのは、死―――
「そんなのいやよ!!!」
ラッキーな事に攻略対象の1人に私の好みドンピシャなキャラがいて、発売前からそのゲームのあらすじ、キャラクター紹介は何度も読んだので覚えている。それを頼りに、生命の危機を回避するのよ!桜城……いえ、パトリシア・リヒベルク!!
***
「ふう、我ながら良くできたわ」
メモに書かれた攻略対象の名前、紹介文をもう一度読み返して満足気に頷いた。(私が書いた紹介文を見たかったら登場人物紹介をご覧になってね)
1番気を付けるのはやっぱり…メインのクラヴィル・ロヴェーレで間違いないだろう。でも大丈夫、クラヴィルとは会ったことがない。このまま何となく避けてたらヒロインとの出会いを果たし、私なんて見向きもされないだろう。こちらに見向きさえされなければ私も見向きもしないので関わることは無い。第一関門突破と言える。
その次はカイン・セイグリッド……カインんんん!?!?
その聞き覚えありすぎる名前に心臓が止まりかけた。(多分実際何秒か止まった…死ぬわ)
カインと言えば、私の幼馴染である。元々リヒベルク家とセイグリッド家は家族ぐるみで仲が良いのでこれは避けられない運命だったのだ…。
ちなみに今現在、私の知るカインは確かに紹介文のような軟派な奴ではない。人見知りで臆病な所があり私の後にひっ付いてくるような子だ、寧ろ弟のレインの方が人懐っこくて将来軟派になりそうなものだけど、どういうことなのか。あの可愛いカインが女たらしの軟派な奴になってしまうというのか…嘆かわしい…。
更に次、エルフォード・ルザンビーク。
ルザンビーク国家の第二王子だ。エルフォード様も今のところ私は会ったことがない。なのでこのまま何となく避けてたら以下略。問題がない…そう、問題はない……
「問題大ありよお!!なんでこのっ、エルフォード様はっ!!私の好みドンピシャなのよおー!!!」
そう、私が発売前から公式サイトを何度も見返して、今か今かと発売を待ちに待っていた原因のキャラクターはエルフォード様だった。
ルザンビーク国家の象徴である輝く銀髪を後ろで纏め、吸い込まれそうな青い瞳、それに敬語キャラ!お偉いさんなのに!
まあ皮肉にもこの方のおかげでなんとか今現在、危機回避作戦を立てることが出来てるわけだが…。エルフォード様は憧れの対象として、実際お目見えする事になったら鼻血出さないように気をつけよう…。
一応最後。(何故一応をつけたかと言うと勿論このゲームにも隠しキャラが存在するからだ。しかも複数。もちろん、公式サイトには詳細は載っていない)
エルフォード様の側近でありルザンビーク第三騎士隊長、レオリオ・フォルクス。多分エルフォード様攻略ルートにもれなく付いてくるであろう彼。
つまり、エルフォード様に近付きさえしなければ必然的にこの人とも関わりなく過ごせるという事だ。エルフォード様に近付けないのは本当に本当に哀しくて悔しいが己の身を守るためには仕方が無い。
幸いこのゲームの舞台は学園生活。つまり、5年後。その間に綿密に危機回避計画をたてればなんとかなるかもしれない。
「さぁどこからでもかかって来なさい!華麗に回避してやるわよ!!!」
所々大声で独り言を叫んでいた私はメイド達にどこか頭でも打ったのか次の日に死ぬほど心配されたのは言うまでもない―――。
はじめまして。
連載始まりました。頑張って更新しますので温かい目で読んでいただければ幸いです。